国民の幸せを示す指標として有名なものに、ブータンの「国民総幸福量
(Gross National happiness = GNH) 」という概念があります。 ジグメ・シンゲ・
ワンチュク国王が1980年代に提唱しているもので、(1)持続可能で公平な社会経済開
発、(2)文化遺産 の保護と伝統文化の継承、 (3)自然環境の保全と持続可能な利
用、(4)よい統治 の4つの柱があるとされています。
仏教が日常生活に深く根付いているブータンでは、GDPなどのような経済的な指標のみに
進路を見出すのではなく、輪廻転生を信じて今の短い人生の中に満足を見出して生きるこ
と(幸福の実感)は自然なのかも知れません。
ドバイに本部を置く投資会社 ラガダム・インスティテュート が「世界幸せ国家
ランキング」を発表しています。 幸せを構成する要素を、「経済」 「起業環境」
「政治」「教育」「健康」「安全」 「個人の自由」「社会資本」毎にランキングを作成
したものです。 各要素ごとの内訳は不明ですが、総合計でのランキングはつぎの通りで
す。 世界1位はノルウエー、日本は18位です。
【幸せ国家ランキング・ベスト20】
1位ノルウェー、 2位デンマーク、 3位フィンランド、 4位オーストラリア、
5位ニュージーランド, 6位スウェーデン、 7位カナダ、 8位スイス、 9位オランダ、
10位アメリカ、 11位アイルランド, 12位アイスランド、 13位イギリス、
14位オーストリア、 15位ドイツ、 16位ベルギー 、17位シンガポール、 18位日本、
19位フランス、 20位香港。
去る3月2日付けの朝日新聞のコラム(経済気象台)の「幸福の収支バランス」は興味深い
記事です。 以下に要約します。
『消費支出のバランスと幸福の関係とはどのような関係があるのか、として、2005年の
主な国の家計消費支出データを分析して、5つのグループに分類している。 幸福は消費
だけでは測れないが、消費とのバランスは、幸福とは何かを問いかけている。
・第1のグループ ・・・・・ 食糧・飲料費が大きな割合を占める国
アフリカ諸国やインド など1人当りの消費支出額が小さいため食費の割合が高くな
る国
・第2のグループ ・・・・・ 医療・保険費の割合の高い国
アメリカ など。 一部の保険加入者以外は、高額な医療費を払うか、支払ができな
いために、十分な医療サービスが受けられない。
・第3のグループ ・・・・・ 教育費の割合の高い国
韓国が代表的。 韓国では学歴次第で人生が決まると考える国民がいる。
・第4のグループ ・・・・・ 娯楽・文化費の割合が高い国
イギリス、カナダ、スウエーデン、日本 などの国で、娯楽・文化を優先的に考え、
人生を楽しむ風土がある。
・第5のグループ ・・・・・ 居住・光熱費の割合の高い国
フランス、ドイツなどで、カナダ、スウエーデン、日本も重複してこのグループに入
る。 大都市に.人口が集中し居住費が高騰している一方、ゆったりと過ごすために
居住には費用をかけても構わないという生活スタイルを住宅手当制度などが支えてい
る。 』.
さて、2010年経済統計で日本は、‘為替レートベース’でのGDP(国内総生産)が中国に
抜かれて、世界第3位になったと報じられています。 1968年(昭和43年)に西ドイツ
(当時)を抜いて2位になり、42年間確保してきた世界第2位の経済規模を中国に明け渡
したわけです。
為替レートベースよりも、より実質的な比較が出来ると言われている‘購買力平価べー
ス’では既に2001年には中国に抜かれていますので、なにを今さらという感じがします。
最も、購買力平価ベースでの一人当りGDPで比較すると中国は日本の5分の1程度で、為
替レートベースでは、10分の1です。
【2001年購買力平価ベース名目GDP:中国 3兆3344億ドル、日本 3兆2918 億ドル】
経済規模の大きさは政治的影響力にも及びますので、日本の経済・政治的な地盤沈下を危
惧する声も聞かれますが、率直に13億の人口を抱える中国の経済発展をたたえるべきでは
ないでしょうか。 ただし、中国は一人当たりGDPが3.735US$(2009年・為替レートベー
ス)であることを持ち出して、発展途上国としての立場を振りかざす場面がよく見られま
すが、これを契機に、中国には米国に次ぐ超大国として国際社会で責任ある行動をとって
もらいたいと思います。
・第1は、中国が国際的な条約やルールを遵守することです。
最近、中国のレアアース輸出規制措置に関して、欧米諸国が中国を協定違反として訴え
ていた件で、WTO(世界貿易機関) は、中国実質敗訴の判断を示す中間報告をまとめ
た、と報じられています。 また、中国の知的財産権無視 (模倣商品の販売等) も
度々報じられています。
中国が国際社会で異質な国という評価から、価値観を共有できる国として信頼を得て、
名実ともに米国に次ぐ世界第2位の大国として認められるには、国際的なルールを順守
することから始めなくてはなりません。
・第2は、国連分担金のことです。
中国の分担金は日本の1/4 に過ぎません。 明瞭な基準に基づき、中国には世界第2
位の経済力に応じた負担をしてもらうべきと思います。 さらに、安全保障理事会の常
任理事国(米国、ロシア、イギリス、フランス、中国)には、その地位にふさわしい負
担をしてもらうべきで、非常任理事国である日本がアメリカに次いで、世界2位の負担
額と言うのは、おかしいと思います。 我が国の外務省はどのように考えているのでし
ょうか?
国連分担金内訳 (外務省資料より引用)
2009年 2010年 2011年
順位 比率 金額百万$
米国: (1)22.0% 598.3 (1)22.0% 517,1 (1)22.0% 512.7
日本: (2)16.6% 405.0 (2)12.53% 265.0 (2)12.53% 294.3
中国: (9)2.67% 65.0 (8)3.19% 67.4 (8)3.19% 74.9
ちなみに、(3)ドイツ、 (4)イギリス、 (5)フランス、 (6)イタリア、
(7)カナダ、(9)ペイン、 (10)メキシコ で、ロシアは(15)に過ぎません。
・第3は、中国への経済援助ODA (政府開発援助) についてです。
日本は今でも中国に対してODAを実施していす。 対中国の経済援助は、大平正芳内閣
の時に開始され、2009年度までに援助総額は3兆6412億円に上ります。 経済援助に
は、有償の円借款無償の資金供与・技術援助がありますが、2008年の北京オリンピック
を契機に有償分は廃止されましたが、無償分は現在でも継続されています。 このた
めに、2000年度には2274億円だったものが、2009年度は46億円と表面の金額では減少し
ていますが、名目を変えた実質的なODAと言われている 「中国大陸での旧日本軍の遺
棄化学兵器処理事業業」 があります。 日本が責任を負わなければならないものなの
か、非常に疑問があります。この事業には、既に600億円以上が支出されており、最終
的には数十兆円規模になるのではないかとも言われています。 さらに問題なのは、こ
の処理事業に支出された使途が不透明という指摘がなされていることです。 日本国民
の税金でありながら、その使途については、会計検査院も手を出せない模様です。
なお、OECD (経済協力開発機構) のデータによると、2009年の外国からの中国へ
の経済援助額は、25億ドル(2110億円)で、日本が最多、以下、ドイツ、フラン
ス、イギリスと続いています。
日本が、人口が多く経済発展が著しい中国やインドなどに経済規模で追い抜かれるのは当
然と受け止めて、日本はどのような国づくりを目指すのか、そして、国際社会でどのよう
な地位を占め、どのような役割を果たすのかについて、真摯に検討を行うべき時期に来て
いると思います。
日本は今後、日本人独特の感性(鋭敏な安全感覚、美意識、自然への配慮 等)や特質
(きめ細かさ、粘り強さ、利便性の追求 等)を生かした もの(製品・産物)づくり’
を原点とすること、及び、人材の育成・活用に力点を置くべきと思います。
・もの(製品・産物)づくりの方法・力点を考え直す。
製造業では、多くの労働力を必要とする大量生産品は人件費の安価な発展途上国が主体
になっていくので、日本人の特質や感性を生かした、‘ものづくり’ を基本とすべき
で、日本が独自の技術を駆使し、価格などでも市場をリードできる製品の開発・製造に
傾注していくべき。
農水分野では、世界的に人口増加による食糧確保が難しくなってくることが予想される
ので、日本人の独特の感性で築き上げてきた、安心で品質の良い米や果物などの農産
物、並びに養殖による水産物の生産(栽培)方法を、世界に広める良い機会ととらえ
て、途上国等に積極的にアプローチしていく。
・優秀な人材育成のために教育水準の底上げと専門教育の充実、人材の活用を図る。
大学、国立高専、大学院の再編と再配置が必要。 学生数が減少してくるので、大学・
国立高専の在り方を見直して、専門分野別に再編することを検討する。 立地も大都市
集中から地方都市への移転も含めて検討すべき。
さらに、実学とは離れるが、‘豊かな教養人’ の育成を目指す大学院、大学、専門学
校を検討すべき。 国際社会ではこのような教養人が一目おかれるのではないかと感
じています。 今の我が国の人材(特に政治家や幹部クラスの官僚)に最も欠けてい
るのは、’豊かな教 養‘に裏打ちされた人間的な魅力なのではないでしょうか
幼児教育と小学校教育を一体化して、新たな前期義務教育とし、その後の6年間は後
期義務教育として、様々なコース(技能系、体育系、人文系、芸術系、他)を能力に応
じて選択できるようにすることに再編することも考えられる。 即ち、保育、前期義務
教育、後期義務教育 、 高等教育(専門大学・専門学校、大学院大学)とする案の検
討。
後期義務教育や高等教育では、能力に応じた ‘飛び級制度’、進捗に応じた‘留年や
降級制度’の導入も視野に入れるべき。
また、国内で活用されていない人材( オーバードクター、定年退職した技術者など)
を海外の政府機関などに斡旋することを検討する。 途上国で専門分野で活躍してもら
うこともできるし、専門家の育成にも携わってもらえる。 こうした人材を通じて、日
本と途上国との技術交流が深まり、共同研究や共同開発等への展望が開けてくる可能性
がある。
定年退職した中高年の技術者の活用については、JICAのシニアボランティア制度もある
が、 我が国の人材の活用と技術の安易な流出防止と言う視点で、制度を見直す必要が
あろう。
< 経済指標での比較 (データはMaterial notebook of word economy による)>
1、名目GDP
<2010年 為替レートベース:推定値>
(1)米国 14兆6241億ドル
(2)中国 5兆7451億ドル
(3)日本 5兆3909億ドル
(4)ドイツ 3兆3059億ドル
(?)インド 1兆4300億ドル
<2009年 為替レートベース>
(1)米国 14兆1190億ドル
(2)日本 5兆0689億ドル
(3)中国 4兆9847億ドル
(4)ドイツ 3兆3836億ドル
(11)インド 1兆2369億ドル
<2010年 購買力平価ベース:推定値>
(1)米国 14兆6241億ドル
(2)中国 10兆 843億ドル
(3)日本 4兆 3086億ドル
(4)インド 4兆 11億ドル
(5)ドイツ 2兆9320億ドル
<2009年 購買力平価ベース>
(1)米国 14兆1190億ドル
(2)中国 9兆0470億ドル
(3)日本 4兆1523億ドル
(4)インド 3兆6153億ドル
(5)ドイツ 2兆8117億ドル
2、一人当り名目GDP
<2010年 為替レートベース:推定値>
(9) 米国 47,132ドル
(17) 日本 42,325ドル
(19)ドイツ 40.512ドル
(98) 中国 4,283ドル
(注)一人当り名目GPの順位
(1)ルクセンブルグ、(2)ノルウエー, (3)カタール、 (4)スイス、
(5)デンマーク、(6)オーストラリア、(7)スウエーデン、(8)アラブ首長国
連邦、 (9)米国、 (10)オランダ
<2009年 為替レートベース>
(9) 米国 45,934ドル
(16)ドイツ 40,832ドル
(17) 日本 39,740ドル
中国 3,735ドル
(注)一人当り名目GDPの順位
(1)ルクセンブルグ、(2)ノルウエー, (3)カタール、 (4)スイス、
(5)デンマーク、(6)オーストラリア、(7)スウエーデン、(8)アラブ首長国
連邦、(9)米国、(10)オランダ
<2010年購買力平価ベース:推定値>
(?)米国 47,132ドル
(?)ドイツ 36,930ドル
(?)日本 33,828ドル
(?)中国 7,517ドル
(?)インド 3,290ドル
<2009年 購買力平価ベース>
(6) 米国 45,934ドル
(20) ドイツ 34,387ドル
(23) 日本 32,554ドル
(97) 中国 6,778ドル
(127)インド 3,015ドル
(注1)2009年一人当り名目GDPの順位
(1)ルクセンブルグ、(2)カタール、(3)ノルウエー、(4)シンガポール
(5)ブルネイ、(6)米国、(香港)、(7)スイス、(8)オランダ、
(9)アイルランド、(10)オーストラリア。
3、日本の一人当りのGDP順位の推移
1980 1990 2000 2008 2009 2010
・為替レートベース 17 8 3 18 17 17
・購買力平価ベース 17 9 17 17 23 ?
(2011年3月10日 ☆きらきら星☆)