2006年 本屋大賞受賞作品、と帯にある。
『東京タワー --オカンとボクと、時々、オトン--』
(扶桑社、2005.6.30、1500円)、
著者はリリー・フランキー。
って、リリー・マルレーンの従姉妹の歌手?
みたいな名前で、
そしたら ヒゲの生えた若めのオッサンで、びっくりした!
そういえば最近テレビになった?
同じく帯によると
あの故・久世光彦氏が
「これは、ひらがなで書かれた聖書である。」
と劇画化を応援してたらしい。
ドイツやアメリカが出てくる国際的な物語ではないから、
テレビロケもしやすかった?
本屋大賞というのは、
「全国書店員さんが選んだ 一番!売りたい本」
に贈られるようで、
きっと選ばれた本は 間違いなくいい本だと思う。
だけど
『博士の愛した数式』(小川洋子著、新潮社、2003.8、1575円)
が2004年に受賞した時、
ある方が「泣ける」とブログでおっしゃってたので読んだが
私は泣けなかった。
だから、いくら久世氏が
「泣いてしまった・・・。」
とおっしゃっても 泣けるかなあ、と疑っていた。
それでも買って読んだのは
山八屋さんが
「私のいどころ」で
いい、とおっしゃってたから。
結果は。。。
泣きました。
何度も。
私も義母を失ったばかりだったので。
きっとハマったら 号泣しちゃうと思う。
この本は 著者の自伝的小説。
著者の記憶を 子どもの頃からたどっている。
そのほとんど全ての記憶に
母が関与してくる。
当然かもしれないが。
オカンは昭和6年生まれ、私の母と同世代。
そして、文字通り、時々、オトンも出てくる。
著者はこの本を
母の死の直前に書き始め、
書き続けているうちに、
いちばん無防備な状態で
写生をしているように書いていくのがいい、
とわかったのだそうで、
たしかに そんなふう、
つまり淡々と写生している
素直な子どもの姿を連想させるような物語だった。
読んでいて あちこちで ちょこっとずつ泣いたのだが
私は 例によって例のごとく?
へんてこな文章に惹かれる。
たとえば。
たった一度、数秒の射精で、親子関係は未来永劫に約束されるが、
「家族」とは生活という息苦しい土壌の上で
時間を掛け、努力を重ね、時には自らを滅して培うものである。
しかしその賜物も、たった一度、数秒の諍いで、
いとも簡単に崩壊してしまうことがある。(p.30)
私はこの夏、「家族」というものについて すこ~しだけ、考えていた。
貧しさは 比較があって目立つものだ。
この町で 生活保護を受けている家庭、そうでない家庭、
社会的状況は違っても、客観的には
どちらがゆとりのある暮らしをしているのかも
わからない。
金持ちが居なければ、貧乏も存在しない。(p.46)
これは、真実だ。
私が生まれた頃の 私が育ったムラの様子は
まさに こんなだった。
状況はそのあと、極端なスピードで変わったけれど。
子供の頃に予想していた自分の未来。--略--
しかし、当たり前になれると思っていたその「当たり前」が、
自分には起こらないことがある。
誰にでも起きている「当たり前」。
いらないと思っている人にでも届けられる「当たり前」が、
自分には叶わないことがある。
難しいことじゃなかったはずだ。叶わないことじゃなかったはずだ。
人にとって「当たり前」のことが、
自分にとっては「当たり前」ではなくなる。
世の中の日常で繰り返される平凡な現象が、
自分にとっては「奇蹟」に映る。
--略--
かつて当たり前だったことが、
当たり前ではなくなった時。
平凡につまずいた時。
人は手を合わせて、祈るのだろう。(p.68~)
子供の頃に予想した未来というものを
思い出しそうで思い出せない(涙)。
この ヒトの宗教心の発端とも言えるものについて触れた部分は
最初?だったけれど
そういえばそうかなあ、と。
当たり前に享受してきたことが
とてつもなく大きな幸運だったと気がついた時にも
ヒトは 手を合わせて 祈るかもしれない。
日進月歩、道具は発明され、
延命の術は見つかり、
私たちは過去の人類からは想像もできないような
「素敵な生活」をしている。
--略--
どんな道具を持ち、いかなる環境に囲まれても、
ヒトの感じることはずっと同じだ。(p.89)
そうだ!(笑)。
ヒトはそうそう変わらない。
たとえ科学や医療が進歩しても。
ヒトの幸福というものは
昔も今も あまり大きくは違っていないんじゃないか?
希望を込めて想う“いつか”は
いつまでも訪れることがないのかもしれないけれど、
恐れている“いつか”は突然やってくる。(p.403)
天変地異もそうだろう。
人の死というものも、
身内にとっては いつも突然だ。
福岡なまりの話し言葉満載のこの本に
オカンが好きだったという相田みつをの詩が
一編の詩が載っている。
それとは別に
こんなオカンのメモの言葉がある。
誰の言葉だろう?
母親というものは無欲なものです
我が子がどんなにえらくなるよりも
どんなにお金持ちになるよりも
毎日元気でいてくれる事を
心の底から願います
どんなに高価な贈り物より
我が子の優しいひとことで
十分過ぎるほど幸せになれる
母親というものは
実に本当に無欲なものです
だから母親を泣かすのは
この世で一番いけないことなのです(p.442~)
ほんとうにそうだなあ、と思う。
子供たちにも読んで聞かせたいよ。
でも中には強欲な親もいるように思うけど。
そんな親なら 泣かしてもいいのかなあ。