経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

教育における経済成長

2011年10月14日 | 社会保障
 最近のランドセルはA4ファイルも入る大きめのものが流行のようだ。しかし、いつまでもランドセルなのだろうか。小学生にiPadを配れば、重たい教科書を持って歩くこと自体が無用になる。このように教育の資本装備の進歩は極端に遅い。

 先日、紹介したタイラー・コーエンの「大停滞」の中では、教育の生産性向上に対する疑問が呈されていたが、それはもっともなものだ。ただし、それは、教員や行政の生産性への意識の低さだけでなく、一般の人々が持つ、教育あるいは社会サービスへのイメージにも理由があるように思える。

 教育分野で経済成長をしようと思えば、資本装備率を高めて、労働生産性を高める必要がある。例えば、1人の教師が35人の生徒を教えていものを、情報機器を用いて、40人、45人と増やしていけば良いということになる。むろん、そうなっても、生徒の成績は下がらないのが前提だ。

 こういう成長には、違和感を覚える人が多いのではないだろうか。「マスプロ教育なんて」という具合だ。実際、世論は逆向きにあり、昨年の小学1年生の35人学級化の実現に続いて、低学年での生徒減らしが望まれている。教育でのサービス向上は、人手をかけることだと思われている。

 これは、看護や介護でも言えることだ。1人の看護師や介護士がより多くの患者や老人をみられるよう、機械によるサービスに置き換えることは、なんとなく、非人間的な感じがするのではないか。筆者は、こうした世間のイメージこそが、教育や医療・福祉の生産性向上の可能性を狭めているように思える。

 他方、サービスに対するイメージが、一変してしまった業界もある。それは銀行、保険業だ。もう20年も前になるが、規制が厳しかったころは、差別化のために、人手をかけるサービスが盛んであった。銀行員は定期預金を集めに回り、保険のおばちゃんも世話を焼いてくれた。ところが今や、ATMとネット保険の時代である。

 これは選択が広がったとも言える。安いけれど機械化が進んだサービスを選ぶか、高くても人手をかけたサービスを選ぶか、自由化が進めば、選択の幅は広がり、効率的にもなる。しかし、同時に、粗悪なものが現れることも覚悟しなければならない。床屋のQBハウスのように成功を収めたサービスがある一方、隆盛を極める専門学校の中には、憧れの職業の夢ばかり売って、生活の糧に結びついているのか疑問なものもある。

 小中高の教育の場合は、ストレートに、情報化と人手化の選択の自由化をすべきだろう。つまり、追加的に予算を配るのであれば、少なくとも、学校や自治体がどちらを選ぶかの自由を与えるわけである。選択結果の評価基準は、学力の向上であると明確に示したら良い。ただし、教科書のクラウド化一つをとっても、検定制度という極めて政治的な問題があったりと、簡単なことではない。

 とは言え、公教育というのは、そもそも、19世紀にイギリスで開発された一斉授業方式というイノベーションによって可能になったものである。それまでの教育は、寺子屋のようなマンツーマンが常識であり、すべての国民に教育を与えるという「マスプロ」の理想には、まったく適さないものだった。教育の未来も、本当はイノベーションにある。

 大きなランドセルを背負う1年生の姿はかわいらしくもあるが、より良い教育や社会に対する我々のステレオタイプのイメージを表してもいる。まあ、少なくとも、経済学部の教員は、教育者でもあるのだから、生産性の観点からの教育の未来の姿くらい描けるようでなければいかんと思うが、いかがだろうか。

(今日の日経)
 スロバキア可決で欧州基金強化。自公が償還長期化を要請。輸出環境、日韓格差広がる。ガソリン内需頭打ち、エコカーが普及。資金調達コスト低水準。PIIGS投融資は大手金融9社2.87兆円。保険料徴収企業任せ、企業追加負担4000億円。信頼回復、アイルランド。中国、内外需に不安要因。造船、受注目標下げ。マンション販売回復。経済教室・知を価値に・徳岡晃一郎。再考・年金改革7(了)。

※増税期間は30年か。※不利さを定量的に計測した数字がほしいね。※ガソリン輸入も減るということだ。※六重苦というがこれは一利だろう。※やはり適用拡大は減免とセットでないと。※輸出の差なんだよ。※不安は強まる一方だ。※リーマン以来の落ち込みが大きかったからね。※高山先生お疲れさま。

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