経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

「壁」問題と一律賦課の無理さかげん

2023年09月26日 | 社会保障
 「106、130万円の壁」について、社保審年金部会の議論が始まったが、説明資料を眺めると、あまりやる気を感じられないね。浮かんでくるストーリーは、「対象の人は限られるし、損得での誤解もあるし、制度を変えようとすると、公平性などで難しい問題が出てくるから、弥縫策で勘弁してくれ」というところかな。そして、最後に英国の例を出し、「本気でやるなら、こうなるが、再分配の強化なんか、政治はできないでしょ」と語っているかのようだ。

………
 「壁」は、低所得層にも一律に賦課することの無理さかげんの一つの断面である。なにせ、年金や医療等の社会保険料の計31.65%に、消費税が10%課された上に、所得税・住民税が1.5%程かかってくる。低所得で、こんなに取られると、生活は苦しいし、賦課から逃れようとするのも無理はない。こうした一律の重い賦課は、デフレ経済で賃金が上がらない中、引き上げを重ねてきた結果である。

 所得税は、一定の所得までは課税されず、超えた部分にだけ課税される。低所得に対して根っこから一律に税を取るのは過酷だと分かっているからだ。ところが、社会保険料や消費税は、それをやる。消費税なんて、財政当局は、定額還付を創設して、過酷さを緩めようとしたのに、政治が食料を低率にする所得一律を選択してしまった。ガソリンや電気代の補助も一律だ。所得税のようにしたり、それと同値になる定額還付をしたりすれば、そもそも「壁」は存在しなくなる。その一例が英国というわけだ。

 英国のようにするには、年金制度の大改革が必要になるが、本コラムが1/1で示したように、社会保険料に連動させて税を還付するなら、難しくはないし、勤労者皆保険の実現などの波及効果も大きい。財源はいるが、1.1兆円くらいのものだ。保険料減免ではないので、給付を調整する難しい問題も生じない。国年・国保の加入者との公平性も、所得チェックをした上で軽減するという方向で対処すれば良い。

(図)


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 いまや、補正予算をやめさえすれば、財政が「黒字」になるところに来ている。脱デフレで税収が伸びる中、経済政策として再分配制度を作らなければならない時期でもある。アベノミクスでは、円安で輸出と設備投資を伸ばしたが、税と社会保険料で可処分所得を削り、消費を抑制して成長率を低くした。若年層の生活の苦しさで少子化も進む。成長戦略としても、少子化対策としても、再分配は必要である。年金官僚に狭い枠の中で「壁」の解決策を作らせようとしたって無理なんだよ。


※図の解説
 「手取りが減らないようにしろ」というお題なのだから、「壁」右のレ状の溝をどうやって埋めるかという制度設計になる。面倒なのは、保険料の減額で対処すると、「給付も減らすのか」という厄介な問題が出てくる。最も簡単な回避法は、補助金で対処するもので、いわば、「つなぎ」の暫定策の恒久化である。年金官僚には、暗に「保険料の減額でやれ」と指示しているようなものなので、頭を抱えてしまうのだ。つまり、政治が悪い。

 レの溝を埋めるピンク線の引き方には、いろいろある。本コラムの提案は、適用拡大の対象企業が限定される現状を前提に、年収が増えると、その半分は手取りが増えるようにしたものだ。減らないようにするだけなら、130万円以上の線の傾きを水平にする。働く意欲は萎えるが、財源は少なくて済む。また、適用拡大の対象を全企業にすると、屈折点は106万円に移り、必要な財源は3割くらい減る。つまり、政治の判断だ。

 「壁」の補助金は、設備投資の補助金といっしょで、供給力を確保する産業政策の一つと位置づければ、そもそも、社会保険の負担と給付の公平性の問題に関わらずに済む。産業政策は、補正予算で毎年措置されているから、財源も確保しやすい。産業政策の補正予算は、事実上、恒久化しているので、「壁」の補助金だって、名目では「当分の間」として、実態的に制度化すれば良いのである。つまり、政治の問題だ。

※日経の論評
 日経は、「保険料を負担せずに給付を受けるのは社会保険の原則に反する。少額でも働いて収入を得たのなら、それに応じた保険料を納めるのが本来の姿」とするが、社保審年金部会の説明資料を見てごらんよ。ドイツも、英国も、低所得者からは保険料を取らないようにしている。こんな理屈は、不公平感情を煽って負担増へと導く手口でしかない。

 まさしく、「年収が106万円に満たない人にも等しく保険料負担を求めるとすれば大きな反発は避けられない」のであって、「より公平で納得感のある形で、持続可能な抜本改革を実現させる」には、再分配の制度化しかないわけだよ。その意味で、「つなぎ」としても、給付が実現する意義は大きい。

 国民も、「期待しない」なんて、はすに構えてる場合じゃない。もっとも、首相だって、「税収増、国民に還元」としている割に、自分がやっている「つなぎ」の重要な位置づけが分かっていないようだ。再分配を強調して、制度化するのだと言えば、人気が出るだろうに、みすみす逃している。


(今日までの日経)
 首相「賃上げ・投資で好循環」 半導体の国産化支援。年収の壁解消、最大50万円助成 抜本改革へ「つなぎ」。首相「税収増、国民に還元」 経済対策で減税強調。「コロナ貯蓄」近づく終焉 総額59兆円、消費下支え期待。注文の多い料理店、いつまで・滝田洋一。


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