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●科学技術ニュース●東北大学、国立極地研究所と千葉経済大学、磁場が地球に降り込む宇宙放射線から大気を護る地磁気の役割を解明

2023-08-11 09:31:35 |    宇宙・地球
 東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻の加藤雄人教授、ドイツ・ハイデルベルク大学のパウル・ローゼンダール大学院生(2019年短期留学プログラムJYPE学生)、国立極地研究所の小川泰信教授、千葉経済大学の田所裕康准教授らによる研究グループは、降り込み電子(宇宙空間から大気に降り込んでくるエネルギーの高い電子。主に極域で生じており、オーロラの発光を引き起こしたり、電離圏の電子密度を変動させたりすることが知られている)と大気との衝突に対して、低高度になるほど強まる地磁気の効果に着目した精密な数値シミュレーションを行った結果、地磁気により電子が跳ね返される効果が予想以上に大きいことを明らかにした。

 この効果は電子のエネルギーが高いほど顕著であり、電子の降り込みによるオゾンの消失過程への影響や電離圏電子密度変動を正確に理解する上で重要な知見となる。

 地球の極域で輝くオーロラは、磁力線に沿って宇宙空間から降り込んできたエネルギーの高い電子が大気と衝突することで生じている。電子と大気との衝突は、酸素や窒素などの原子や分子を電離させ、電離圏電子密度の変動を引き起こしている。

 近年は、脈動オーロラと呼ばれる数秒周期で明滅するオーロラが発生する時に、数十万電子ボルトを超える相対論的電子(宇宙放射線)も同時に降り込んできていることも分かった。エネルギーの高い電子は地球大気の中間圏高度(50-80km)にまで達することが知られており、オゾンの消失過程にも影響を与えると考えられている。

 地球極域の大気に降り込む電子と大気との衝突過程については、半世紀以上に及ぶ研究の歴史がある。

 今回、国際宇宙ステーションが飛行する高度400km以下の超高層大気での電子と大気との衝突過程について、地球に近づくほど強まる地磁気が電子の運動に及ぼす影響を精密に取り入れて、大気と衝突しながら降り込んでくる電子の運動を解き進めた。

 どの高度でどの程度の頻度の衝突が起きるかを詳細に計算した結果、降り込んできた電子を地磁気が跳ね返す効果が従来の予想以上に顕著であることを明らかにした。

 この跳ね返りの効果は、大気に入射する角度が大きな電子ほど強くなり、また、電子のエネルギーが数十万電子ボルトを超えると特に顕著になることも分かった。跳ね返りの効果の結果として、大気が濃くなっていく高度100km以下では衝突率が1桁以上低下することを示し、衝突頻度の高い領域が80km以下の低高度と130kmの高高度の2ヶ所に分かれることも初めて明らかにした。

 宇宙放射線の中でも相対論的なエネルギーを持つ電子は「キラー電子」とも呼ばれ、宇宙空間では衛星の障害を引き起こし、宇宙飛行士の被曝の要因ともなることが知られている。太陽で発生するフレアの影響により、キラー電子の量が増減することが明らかとなっている。キラー電子の消失過程としては、磁力線に沿って地球の極域に降り込み大気と衝突することによる消失が主要因とされている。同研究で明らかにした地磁気の役割を考慮することにより、キラー電子の降り込みによる電離圏の電子密度変動の正確な理解が一層進むことが期待される。<国立極地研究所>
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