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●科学技術ニュース●QST、宇宙核時計ルテシウム176の半減期問題を解決し太陽系形成や惑星形成の年代計測に利用の道拓く

2023-12-13 10:09:10 |    宇宙・地球
 量子科学技術研究開発機構(QST) 関西光量子科学研究所の早川岳人上席研究員、静間俊行上席研究員、東京大学大学院理学系研究科の飯塚毅准教授の研究チームは、宇宙核時計の一つである長寿命の放射性同位体ルテシウム176(176Lu)の半減期の最も正確な値を新しい実験方法で計測し、過去に計測されていた半減期が矛盾していたという問題を解決した。

 隕石等の試料中のルテシウム176とハフニウム176の量を計測することで、隕石や隕石の起源となる小惑星が形成された年代を知ることができる。

 今後、同結果を用いて地球だけでなく、太陽系内のさまざまな天体の形成年代や地殻の形成年代の研究が進むことが期待される。また、太陽系形成に影響を与えた超新星爆発が発生した年代の計測も期待される。

 ルテシウム176は約400億年の半減期を持つ長寿命放射性同位体の一つであり、宇宙核時計としての利用が期待されている。しかし、これまで20以上の実験グループによって半減期が計測されたが、計測された半減期の値は互いに大きく違っていたため、正確な半減期が分からないという致命的な問題があった。

 ルテシウム176がベータ崩壊する際に、ガンマ線やベータ線を放出する。従来の半減期の測定法では、あらかじめ用意したルテシウム試料から一定時間内に放出されたガンマ線やベータ線の数を数えることで、ベータ崩壊の回数を求めていた。

 通常、検出器は試料から放出された全ての放射線を測定できないため、測定した放射線の数はベータ崩壊の回数より少ない。そのため、測定した放射線の数からベータ崩壊の数を求めるための係数をシミュレーション計算や校正実験で求めておく必要がある。過去に行われたいくつかの実験では、この係数が間違っていた可能性が高い。

 同研究グループは、新しい測定法を発案し、ルテシウム176の計測に初めて適用した。この手法では、放射線検出器を構成するシンチレーション結晶の内部にルテシウム試料を入れて、試料から放出される放射線の全エネルギーを計測する。ベータ崩壊が発生した場合、必ずガンマ線やベータ線としてエネルギーが放出されるため、計測した放射線の数がベータ崩壊の数にほぼ等しい。

 そのため、放射線の数からベータ崩壊の数への校正を行う必要性がないという利点がある。このように、同手法は従来の実験の問題点を解決した実験手法であり、同計測結果は、過去の実験で計測されたどの値より、真実の値に最も近いと考えられる。

 同研究で信頼性の高い値が得られたため、ルテシウム176が今後、宇宙核時計として広く使用されることが期待される。隕石等の試料に含まれるルテシウム176と娘核のハフニウム176の量の計測により、隕石の母天体(小惑星や彗星など)が形成されてから現在までの経過時間が分かる。

 また、月や地球の形成や進化の解明にも重要な役割を果たすことが期待される。ルテシウムとハフニウムは揮発しにくく、ジルコン等の岩石に取り込まれやすいために天体形成初期のマグマオーシャンから地殻の形成に至る年代研究に適している。
 
 さらに、太陽系形成以前に発生した超新星爆発の年代測定への適応も期待される。これまでの隕石研究から、太陽系形成直前に超新星爆発が発生し太陽系形成に影響を与えた証拠が発見されている。しかし、超新星爆発から太陽系形成までの時間に大きな開きがあり、はっきりしない。ルテシウム176宇宙核時計を用いることで年代測定の精度が高まると期待される。<量子科学技術研究開発機構(QST)>
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