“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

●科学技術ニュース●北海道大学など、グリーンランドのアイスコアにより産業革命前から現在にかけての夏季積雪融解量が増加したことを解明

2024-01-19 09:33:52 |    宇宙・地球
 北海道大学低温科学研究所の川上薫非常勤研究員、飯塚芳徳准教授、的場澄人助教、北見工業大学の堀彰准教授、金沢大学環日本海域環境研究センターの石野咲子助教、国立極地研究所先端研究推進系の藤田秀二教授、青木輝夫特任教授、川村賢二准教授、名古屋大学大学院環境学研究科の藤田耕史教授、植村立准教授、弘前大学大学院理工学研究科の堀内一穂准教授らの研究グループは、2021年に掘削したグリーンランド氷床南東部アイスコアの高精度年代スケールを構築し、産業革命前から現在にかけての夏季積雪融解量が北極域の温暖化に伴い増加したことを解明した。

 近年、北極域では地球全体を上回るペースで気温が上昇している。

 今回研究グループは、複数の物理・化学的な解析から、グリーンランド氷床南東部のアイスコアの1799年から2020年にかけての時間スケールを、半年解像度という高精度での確立に成功した。

 そして確立された年代を元に過去221年の降水量と夏季融解層の厚さを復元した。

 の結果グリーンランド南東部では、年降水量は過去221年間にわたり減少も増加も示さず有意な傾向は見られなかったたが、融解層の厚さは北極域の温暖化に伴い19世紀から21世紀にかけて増加していることが明らかになった。

 同研究結果は、産業革命(1850年)前から現在において、温暖化によりグリーンランドの内陸高地で夏季積雪融解量が増加していることを実証した。

 今後、得られた地上真値を用いた長期間の領域気候モデルや衛星観測データの検証から、地球気温の将来予測の精度を高めることが期待される。

 1年のずれもない時間解像度で復元された産業革命前から現在までの降水量と夏季積雪融解量の構築は、地上真値として衛星観測、再解析気温データ、気候モデル分野など他分野の多くの領域で利用可能な実測データを提供できる。

 同研究の成果からグリーンランド南東ドームの降水量は1.04m yr-1であることが分かったが、この地域の気候モデルによる降水量の推定には誤差が2m yr-1もあるのが現状。

 今後は、このアイスコアで提示された降水量や夏季融解量の地上真値を用いた計算を進めていくことで、気候モデルの精度向上と地球温暖化のメカニズムの理解向上につながり、地球温暖化の将来予測の精度を高めることが期待される。<国立極地研究所>
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●科学技術ニュース●北海道大学など、南極地域観測隊の航空写真と最新の衛星画像から過去60年間の湖面標高変動記録を構築

2024-01-18 09:33:20 |    宇宙・地球
 北海道大学低温科学研究所の波多俊太郎特任助教、土木研究所寒地土木研究所の川又基人研究員(南極観測時:総合研究大学院大学)、国立極地研究所の土井浩一郎准教授の研究グループは、日本の南極地域観測隊によって1960年代から撮影されてきた航空写真と、人工衛星データの解析から、南極・昭和基地近傍の氷河湖における60年間の水量変動を明らかにした。

 氷河湖決壊洪水は山岳地域で発生する代表的な災害だが、これまで南極での報告はごくわずかで基本的な情報さえ不明な状況。

 同研究では、南極氷床縁辺に位置する湖(神の谷池)における、1962~2021年の氷河湖表面標高測定を行い、1969~1971年と2017年に氷河湖決壊洪水が生じたことを明らかにした。

 南極の氷河湖において氷河湖決壊洪水の繰り返しが確認されたのは初の事例。

 これらの決壊イベントでは50m以上の湖面低下、7,000万立方メートル以上の排水量が見積もられ、南極の氷河湖決壊としては最大であったことが判明した。

 さらに2017年の決壊イベントは南極の冬季に発生しており、冬季にも氷床底面水文環境が活発である可能性が示唆された。
 
 神の谷池の位置する宗谷海岸は、日本の南極地域観測隊が拠点としている地域。同研究グループは、長期間にわたって南極地域観測隊の蓄積したデータに最新技術を適用することで、南極では稀有な氷床縁辺湖の変動記録の構築に成功した。

 同研究は、様々な環境における氷河湖決壊洪水やアクセスの難しい南極氷床底面の水文環境研究について、貴重なデータを提供するもの。

 同研究は、南極の氷河湖で決壊が繰り返し発生することを示す初めての事例となった。神の谷池の長期的な水量変動は、他の地域で周期的に氷河湖決壊洪水が発生する氷河湖の水量変動と同様の傾向を示しているが、2度の決壊イベントでは神の谷池における氷河湖決壊が周期的に発生するか断定はできない。

 神の谷池で見られた2度の決壊イベント間隔は他地域で見られる氷河湖決壊の間隔よりもはるかに長いため、長期的な観測なくしては詳細を理解することはできない。

 神の谷池における今後の決壊洪水の有無や周期性、決壊メカニズムについて詳しく理解するために、詳細な氷床底面地形測量や南極における氷床縁辺湖の分布についてさらなる調査の継続が重要。

 したがって今回の結果を受けて、南極の氷河湖モニタリング、及び南極氷床の底面地形測量研究への展開が期待される。<国立極地研究所>
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●科学技術ニュース●京都大学など、小惑星リュウグウの砂のごく表面が窒化した鉄に覆われていることを発見

2024-01-16 09:33:39 |    宇宙・地球
 京都大学白眉センターの松本徹 特定助教、理学研究科の野口高明教授、三宅亮准教授、伊神洋平助教、化学研究所の治田充貴准教授、および国際的な共同研究者のグループは、地球の近くに軌道をもつ小惑星リュウグウの砂を電子顕微鏡で調べ、砂のごく表面が窒化した鉄(窒化鉄:Fe4N)に覆われていることを発見した。

 太陽から遠く離れた場所で生まれた氷天体や彗星には、アンモニウム塩のような窒素化合物が大量に貯蔵されている。

 このような窒素を含む固体は生命の材料物質としてとても重要だと考えられているが、地球軌道の地域に輸送される証拠は見つかっていなかった。

 窒化鉄は、磁鉄鉱と呼ばれる鉄原子と酸素原子の鉱物の表面で見られる。

 同研究グループは、氷天体からやってきたアンモニア化合物を大量に含む微小な隕石がリュウグウに衝突して、磁鉄鉱の表面で化学反応が起こり、この窒化鉄が形成したと考えた。

 小惑星の表層では、太陽から吹くイオンの風(太陽風)の照射などによって磁鉄鉱の表面から酸素が失われていて、アンモニアと反応しやすい金属鉄がごく表面に形成している。

 このため、磁鉄鉱の表面ではアンモニアに由来する窒化鉄の合成が促されたと推測している。

 この微小隕石は太陽系遠方の氷天体からやってきたかもしれず、これまで気づかれてきたよりも多くの量の窒素化合物が太陽系の地球付近に輸送されて、生命の材料となった可能性がある。<海洋研究開発機構(JAMSTEC)>
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●科学技術ニュース●地中海と大西洋を繋ぐゲートウェイでの海水交換の歴史を研究する国際深海科学掘削計画(IODP)第401次研究航海開始

2024-01-12 09:34:44 |    宇宙・地球
 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)の第401次研究航海として、米国が提供するジョイデス・レゾリューション号による「地中海と大西洋を繋ぐゲートウェイでの海水交換の歴史」が、2023年12月10日から開始された。

 同航海は、後期中新世から前期鮮新世(およそ500〜800万年前)にいたるまでの地中海と大西洋間における海水の交換の完全記録を復元することを目的とし、ジブラルタル海峡を挟んだ地中海と大西洋の計3地点での掘削を計画している。

 同航海は、海洋掘削と陸上掘削の連携によって科学目的を達成するLand-2-Seaプロジェクトの一環として実施され、国際陸上科学掘削計画(ICDP)によるスペインおよびモロッコでの陸上掘削も計画されている。

 乗船研究者として、インド、英国、オーストラリア、オランダ、スペイン、中国、日本、ノルウェイ、フランス、米国、モロッコから計27名が参加し、うち日本からは3名が乗船。

 海峡は、大洋(ocean)と海(sea)の間の海水、熱、塩分、栄養塩の交換に重要な役割を果たしている。そして、高塩分の海水の移動は、地球規模の熱塩循環を促進する。

 地中海と大西洋を結ぶ広く開けた海路は、現在はジブラルタル海峡として知られているが、中新世においては、モロッコ北部とスペイン南部にそれぞれ狭い海峡が存在していた。

 これら2つの海峡の形は地中海の塩分濃度の上昇をもたらし、その結果、地中海側には高密度の水塊が発達し、狭い海峡を介して大西洋側に流れ込むこととなった。その後もこれらの海峡は徐々に狭まっていき、やがて閉鎖することによって、最終的には地中海における塩分濃度は極度に高まり、メッシニアン塩分危機 (Messinian Salinity Crisis) を引き起こして巨大な蒸発岩層 (salt giant) が成長した。

 IODP Expedition 401では、(1)上述した地中海と大西洋の間に見られる海水交換の開始が海洋循環と全球的な気候に及ぼした影響を定量的に見定めること、(2)地中海周辺の沿海域における極端な環境変化に関するメカニズムを解明すること、および、(3)現在の地球上には存在しないスケールでの高密度海水の流入を海洋物理学的に説明することを目的としている。<海洋研究開発機構(JAMSTEC)>
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●科学技術ニュース●新潟⼤学など、東日本大震災で日本海溝底に生じた⾼さ26mの断層崖を世界で初めて発見

2024-01-09 09:34:26 |    宇宙・地球
 新潟⼤学⾃然科学系(理学部)の植⽥勇⼈准教授、東京海洋⼤学の北⾥洋客員教授、⻄オーストラリア⼤学、海洋研究開発機構、デンマーク超深海研究センターの研究者などで構成される国際研究グループは、2011 年東北地⽅太平洋沖地震(東⽇本⼤震災)の震源域にある宮城県沖の⽔深約7,500m の⽇本海溝において有⼈潜⽔艇による海底調査を実施した。

 その結果、同地震で隆起した海底に⾼さ 26m(7~8 階建てのビルに相当)の断層崖を発⾒した。

 現地で計測した地形を詳しく調べた結果、地震が発⽣した際に⽇本海溝底では、断層に沿って海底が⽔平に 80~120m 動いたことにより先端部がおよそ 60m 持ち上げられ、その⼀部が崩壊して断層崖になった過程が⽰唆された。

【今回の研究成果のポイント】

①東⽇本⼤震災によって⽇本海溝の底に⽣じた隆起地形と断層崖を、有⼈潜⽔艇によって世界で初めて現地で観察・記録した。
②観察された断層崖は、地震をおこした断層のズレが⽇本海溝の海底⾯にまで到達したと推定するこれまでの観測結果を⽀持している。
③現地で計測した地形の解析から、地震発⽣時に震源域の少なくとも⼀部では、これまでの⾒積もりより⼤きい 80~120m もの海底の動きがあったと推定される。

 ⽇本は排他的経済⽔域内に 5つの海溝(千島海溝、⽇本海溝、伊⾖―⼩笠原海溝、南海トラフ、琉球海溝)があり、将来にわたってこれらの海溝域で巨⼤地震や⼤規模な津波が発⽣することが予測されている。

 2024年秋には今回の調査と同じ宮城沖⽇本海溝近傍において地球深部探査船「ちきゅう」よる深海掘削(IODP 第 405 次航海:JTRACK)が⾏われ、震災直後から現在までの地下における断層の状態の変化が詳しく調べられる予定。⼀⽅で、これまで実現できなかった海溝を含む超深海における詳細な地形調査や現地における潜航調査を多くの地点で実施することができれば、津波をおこした海底の地形変化の詳細を広域的に把握できるため、より⾼精度の災害予測に役⽴つことが期待される。

 今回の有⼈潜⽔艇での断層崖の発⾒により、フル・デプス有⼈潜⽔艇が海溝での科学調査に⼤変有⽤であることが実証された。現在、⽇本国内に超深海の海溝底に到達できる探査機や潜⽔艇はないが、巨⼤地震を発⽣させる海溝の近くで暮らしていく⽇本⼈にとって、超深海探査の重要性は増していくものと思われる。

 今後もフル・デプス有⼈潜⽔艇を含む外国の研究船による⽇本周辺の海溝の調査が複数計画されており、これらの調査によって超深海の研究が格段に進むことが期待される。<海洋研究開発機構(JAMSTEC)―新潟大学>
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●科学技術ニュース●日揮、JAXAの月面推薬生成プラントに採択

2023-12-14 09:48:30 |    宇宙・地球
 日揮ホールディングスは、海外EPC事業会社である日揮グローバルが、2023年12月6日に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の企画型競争入札事業である「月面推薬生成プラントの実現に向けたパイロットプラントの概念検討」に採択された。

 米国のアルテミス計画に代表されるように、現在世界的な月面開発の潮流が加速するなか、JAXAは、「日本の国際宇宙探査シナリオ(案)2021」において、将来的な月面における水資源利用の実現に向けて、2020年代に月面推薬生成プラント全体システムの概念検討や要素技術検討、地上実証等を行い、2030年代にプラント建設地の事前調査(地盤調査、測量)や月面実証プラント建設に着手、2040年までに推薬プラントの本格稼働を開始する計画案を示している。

 今回、日揮グローバルは、同業務において主に次の2点について検討を行い、2024年3月31日までにJAXAに検討結果を提出する予定。

 1. 実証計画の立案

 月面推薬生成プラントの全体システムの検討、およびその実現に向けた実証計画の立案

 2. パイロットプラントの概念検討

 月面における水資源利用の実現に向けた月面での実証プラントの検討
 月面実証に向けた地上での検証を行うシステムの検討

 日揮グローバルにおいては、2018年から社内有志メンバーによって宇宙関連ビジネスへの参画検討を進め、2020年12月に月面での燃料(水素)供給プラントの実現に向けた検討組織「月面プラントユニット」を設置した。

 2021年6月には、JAXAと月面推薬生成プラントの構想検討に係る連携協力協定を締結し、約1年間をかけて月の水資源を利用した月面推薬生成プラント構想に関する概念検討を行い、その実現に必要な技術要素、研究課題の洗い出しおよび研究開発計画の検討を行った。

 日揮グローバルは、同社グループがこれまで培ってきたエンジニアリング技術やプロジェクト遂行力などの知見や経験を活かし、同業務を通じて、人類の宇宙におけるさらなる持続的な活動の実現に貢献する。<日揮ホールディングス>
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●科学技術ニュース●QST、宇宙核時計ルテシウム176の半減期問題を解決し太陽系形成や惑星形成の年代計測に利用の道拓く

2023-12-13 10:09:10 |    宇宙・地球
 量子科学技術研究開発機構(QST) 関西光量子科学研究所の早川岳人上席研究員、静間俊行上席研究員、東京大学大学院理学系研究科の飯塚毅准教授の研究チームは、宇宙核時計の一つである長寿命の放射性同位体ルテシウム176(176Lu)の半減期の最も正確な値を新しい実験方法で計測し、過去に計測されていた半減期が矛盾していたという問題を解決した。

 隕石等の試料中のルテシウム176とハフニウム176の量を計測することで、隕石や隕石の起源となる小惑星が形成された年代を知ることができる。

 今後、同結果を用いて地球だけでなく、太陽系内のさまざまな天体の形成年代や地殻の形成年代の研究が進むことが期待される。また、太陽系形成に影響を与えた超新星爆発が発生した年代の計測も期待される。

 ルテシウム176は約400億年の半減期を持つ長寿命放射性同位体の一つであり、宇宙核時計としての利用が期待されている。しかし、これまで20以上の実験グループによって半減期が計測されたが、計測された半減期の値は互いに大きく違っていたため、正確な半減期が分からないという致命的な問題があった。

 ルテシウム176がベータ崩壊する際に、ガンマ線やベータ線を放出する。従来の半減期の測定法では、あらかじめ用意したルテシウム試料から一定時間内に放出されたガンマ線やベータ線の数を数えることで、ベータ崩壊の回数を求めていた。

 通常、検出器は試料から放出された全ての放射線を測定できないため、測定した放射線の数はベータ崩壊の回数より少ない。そのため、測定した放射線の数からベータ崩壊の数を求めるための係数をシミュレーション計算や校正実験で求めておく必要がある。過去に行われたいくつかの実験では、この係数が間違っていた可能性が高い。

 同研究グループは、新しい測定法を発案し、ルテシウム176の計測に初めて適用した。この手法では、放射線検出器を構成するシンチレーション結晶の内部にルテシウム試料を入れて、試料から放出される放射線の全エネルギーを計測する。ベータ崩壊が発生した場合、必ずガンマ線やベータ線としてエネルギーが放出されるため、計測した放射線の数がベータ崩壊の数にほぼ等しい。

 そのため、放射線の数からベータ崩壊の数への校正を行う必要性がないという利点がある。このように、同手法は従来の実験の問題点を解決した実験手法であり、同計測結果は、過去の実験で計測されたどの値より、真実の値に最も近いと考えられる。

 同研究で信頼性の高い値が得られたため、ルテシウム176が今後、宇宙核時計として広く使用されることが期待される。隕石等の試料に含まれるルテシウム176と娘核のハフニウム176の量の計測により、隕石の母天体(小惑星や彗星など)が形成されてから現在までの経過時間が分かる。

 また、月や地球の形成や進化の解明にも重要な役割を果たすことが期待される。ルテシウムとハフニウムは揮発しにくく、ジルコン等の岩石に取り込まれやすいために天体形成初期のマグマオーシャンから地殻の形成に至る年代研究に適している。
 
 さらに、太陽系形成以前に発生した超新星爆発の年代測定への適応も期待される。これまでの隕石研究から、太陽系形成直前に超新星爆発が発生し太陽系形成に影響を与えた証拠が発見されている。しかし、超新星爆発から太陽系形成までの時間に大きな開きがあり、はっきりしない。ルテシウム176宇宙核時計を用いることで年代測定の精度が高まると期待される。<量子科学技術研究開発機構(QST)>
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●科学技術ニュース●東北大学、国立極地研究所と千葉経済大学、磁場が地球に降り込む宇宙放射線から大気を護る地磁気の役割を解明

2023-08-11 09:31:35 |    宇宙・地球
 東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻の加藤雄人教授、ドイツ・ハイデルベルク大学のパウル・ローゼンダール大学院生(2019年短期留学プログラムJYPE学生)、国立極地研究所の小川泰信教授、千葉経済大学の田所裕康准教授らによる研究グループは、降り込み電子(宇宙空間から大気に降り込んでくるエネルギーの高い電子。主に極域で生じており、オーロラの発光を引き起こしたり、電離圏の電子密度を変動させたりすることが知られている)と大気との衝突に対して、低高度になるほど強まる地磁気の効果に着目した精密な数値シミュレーションを行った結果、地磁気により電子が跳ね返される効果が予想以上に大きいことを明らかにした。

 この効果は電子のエネルギーが高いほど顕著であり、電子の降り込みによるオゾンの消失過程への影響や電離圏電子密度変動を正確に理解する上で重要な知見となる。

 地球の極域で輝くオーロラは、磁力線に沿って宇宙空間から降り込んできたエネルギーの高い電子が大気と衝突することで生じている。電子と大気との衝突は、酸素や窒素などの原子や分子を電離させ、電離圏電子密度の変動を引き起こしている。

 近年は、脈動オーロラと呼ばれる数秒周期で明滅するオーロラが発生する時に、数十万電子ボルトを超える相対論的電子(宇宙放射線)も同時に降り込んできていることも分かった。エネルギーの高い電子は地球大気の中間圏高度(50-80km)にまで達することが知られており、オゾンの消失過程にも影響を与えると考えられている。

 地球極域の大気に降り込む電子と大気との衝突過程については、半世紀以上に及ぶ研究の歴史がある。

 今回、国際宇宙ステーションが飛行する高度400km以下の超高層大気での電子と大気との衝突過程について、地球に近づくほど強まる地磁気が電子の運動に及ぼす影響を精密に取り入れて、大気と衝突しながら降り込んでくる電子の運動を解き進めた。

 どの高度でどの程度の頻度の衝突が起きるかを詳細に計算した結果、降り込んできた電子を地磁気が跳ね返す効果が従来の予想以上に顕著であることを明らかにした。

 この跳ね返りの効果は、大気に入射する角度が大きな電子ほど強くなり、また、電子のエネルギーが数十万電子ボルトを超えると特に顕著になることも分かった。跳ね返りの効果の結果として、大気が濃くなっていく高度100km以下では衝突率が1桁以上低下することを示し、衝突頻度の高い領域が80km以下の低高度と130kmの高高度の2ヶ所に分かれることも初めて明らかにした。

 宇宙放射線の中でも相対論的なエネルギーを持つ電子は「キラー電子」とも呼ばれ、宇宙空間では衛星の障害を引き起こし、宇宙飛行士の被曝の要因ともなることが知られている。太陽で発生するフレアの影響により、キラー電子の量が増減することが明らかとなっている。キラー電子の消失過程としては、磁力線に沿って地球の極域に降り込み大気と衝突することによる消失が主要因とされている。同研究で明らかにした地磁気の役割を考慮することにより、キラー電子の降り込みによる電離圏の電子密度変動の正確な理解が一層進むことが期待される。<国立極地研究所>
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●科学技術ニュース●JAMSTEC、2022年フンガ・トンガ噴火が励起した短周期の大気-海洋結合波を発見

2023-08-09 09:41:25 |    宇宙・地球
 海洋研究開発機構(JAMSTEC)海域地震火山部門 地震発生帯センター プレート活動研究グループの利根川貴志主任研究員らは、2022年1月15日にフンガ・トンガ噴火の際に発生したラム波の広帯域スペクトルを調べた結果、ラム波の卓越周期である1,700-2,500秒よりも短周期側に、比較的大きな振幅を持った周期約300秒(3.6 mHz)の熱圏重力波とラム波の結合波が伝播していたことを発見した。

 この大気中で結合した波は気象津波を引き起こすため、大気-海洋結合波となる。さらに、この大気中の結合波が発生する圧力震源は高度が58-70 km程度(中間圏)に達している必要があることがわかった。

 同研究の成果は、火山噴火に伴うラム波発生メカニズムの解明につながることが期待される。

 もし将来、別の火山で今回のような大規模な噴火が発生した場合、ラム波の発生やそれに伴う気象津波を到達前に予測することが重要になってくる。

 そのような場合に向けて、今回の噴火で何が起きたのかを正確に把握し、ラム波の発生メカニズムを考慮した数値シミュレーションによる計算データが、できるだけ精度高く観測データを再現しておくことが重要。

 また、結合波は短周期の波だが、気象津波を引き起こす。そのため、複雑な海岸地形のところではこの結合波による気象津波の影響も防災上重要になってくる可能性がある。

 今後、同研究で得られた情報が、そのような観点でより活用されていくことが期待される。<海洋研究開発機構(JAMSTEC)>
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●科学技術ニュース●産総研と高知大学、過去の地磁気の検出によりマンガンノジュールの回転を実証し球状海底資源が形成した過程を解明

2023-05-24 09:32:26 |    宇宙・地球
 国立研究開発法人 産業技術総合研究所地質情報研究部門地球変動史研究グループ 小田 啓邦 上級主任研究員と、国立大学法人 高知大学大学院生 片野田 航、臼井 朗 教授、村山 雅史 教授、山本 裕二 教授は、南太平洋ペンリン海盆から採取されたマンガンノジュールに記録された地球磁場を用いて、自然残留磁化方位から過去の姿勢を復元し、この試料がある回転軸のまわりにゆっくり回転したことを示した。

 マンガンノジュールは、深海底で百万年に数mmというゆっくりした速度で成長する(Verlaan and Cronan, 2022)。その形成時期は数百万年以上前であるにもかかわらず、その多くは堆積物表面に半分露出している(Usui and Ito, 2004)。

 マンガンノジュールが完全に埋もれずに堆積物表面に存在し続けることができる理由はこれまではっきりしていなかった。同研究では、過去の地磁気記録を用いることにより、世界で初めてマンガンノジュールが形成過程で回転したこと、回転の原因や回転がマンガンノジュール内部の酸化状態と構造に与える影響を明らかにした。

 マンガンノジュールは、塊状で堆積物表面に分布し、マンガン・鉄のほか、ニッケル・銅・コバルトなどの有用元素を含むため、海底鉱物資源としての価値が高く注目されている。マンガンノジュールについては、国際海底機構の管理のもと、日本を始め各国が鉱区を設定し、探査活動などを行っている。同研究は、この海底鉱物資源として有用なマンガンノジュールの形成過程や形成場を解明するために行った。

 産総研地質調査総合センターは、その前身である工業技術院地質調査所の頃から、海底鉱物資源を含めて、資源および資源開発の基礎的研究を行ってきた。

 深海底のマンガンノジュールの研究は、1972年度に開始され、1974年から1983年にかけては、調査船「白嶺丸」により中部北太平洋・南太平洋海域にて進められた(水野, 1982)。同研究では、1983年のGH83-3航海(Usui et al., 1994)により南太平洋ペンリン海盆で採取されたマンガンノジュール試料を用いている。

 今後は、マンガンノジュールの回転運動の普遍性について、同じ海域の別の試料や異なる海域の試料について検証する。また、マンガンノジュール内部の酸化状態と構造への回転の影響、成長過程の詳細を解明し、海底鉱物資源評価、海洋深層流変動などの地球環境予測に貢献する。<産業総合研究所(産総研)>
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