品質保証のプロセス「調達」
「新版品質保証ガイドブック」第Ⅱ部第6章「生産」に続く第7章は「調達」である。企業経営的に「調達」を考えると、企業活動の基本的な構造が浮かぶ。すなわち企業活動とは、金融市場、原材料市場および労働市場から必要な資源を「調達」し、付加価値を加えて製品市場に提供してゆくものである。流通業であれば、これらの製品を物流を経て、パッケージング、品揃え、陳列や各種プロモーション活動を通じて、さらに価値のある商品に変える。
また経営学では、有名なM.E.ポーターの5つの競争要因*1)を学ぶけれど、「調達」にあっては、その一つである供給業者による「売り手の交渉力」との凌ぎ合いがある。加えて組織関係論として、資源依存モデルで企業の資源取引関係のマネジメントの重要性を学んだ。企業組織間に限らず、エネルギーはじめ鉄や銅、アルミニウムなどベース金属資源は勿論、最先端技術やIT機器に必須のレアメタル*2)の確保に国家間の熾烈な駆け引き攻防がある。
品質保証・品質管理において「調達」を考える時、主に原材料市場からの必要な資源の確保のための活動となり、品質、価格、数量、納期などの確保、適正化が課題となる。ガイドブックはこれに関する基本的な考え方として、(1)要求事項を明確にし、これを満たす製品・サービスを調達すること、(2)効果的かつ効率的な調達プロセスを確立すること。を挙げている。
(1)の要求事項については、通常購入(納入)仕様書を作成し、製品の規格値や包装形態、検査証(必要に応じて検査法付記)の添付や納期等を明確にして取り交わす。原材料や部品の機能としての規格に加え、その包装材に至るまで有害物質が不検出であることなど、明文化しておく必要がある。ソニーのグリーンパートナー制度は有名であるが、「部品・材料における環境管理物質管理規定」として原材料供給メーカーに対して詳細な要求事項がある。中小企業でこれを真似ることは難しいと思われるけれど、肝と考えるところは外さぬように仕様書に盛り込むことが必要である。
(2)については、購買方針の策定、購買計画の策定、購買管理方式の設定、調達先の能力調査および評価、購買製品の検証、改善の支援・指導や調達先の満足度評価などがある。私など事業所の充填・物流責任者当時、海外生産の包装材のトラブルに際して、営業マンを相手にもっぱら改善指導の講釈を垂れていたけれど、作るのは中国奥地やベトナムでのこと、どこまで理解して実行してくれたかを確認までは出来なかった。
またガイドブックは、「調達」の品質保証において重点となる活動に、①調達先の評価と選定、②受入検査、③調達先の指導・育成、④品質の視点から見たSCM(Supply Chain Management)、⑤グローバル調達の5項目を挙げており、それぞれの項目に詳細な解説がある。ここで、すべての詳細な解説までを取り上げることはできないが、中で④と⑤は品質保証において比較的新しい取り組みであると考えるため、解説の概略を述べる。
顧客への品質保証のためには、自社内の品質管理だけでなく、原材料の品質を確保するため調達先の管理が必要である。このことは従来からの全社的品質管理の範疇である。ここでは加えて、調達先の関係する取引先も、何段階にも存在していることが多いため、それらの供給経路(サプライチェーン)についても確認して置きなさいというのが④なのである。問題があれば当然直接の調達先を通じて改善する必要がある。
⑤は、部品や原材料、包装材についても海外からの調達が一般化している現状に鑑み、特に海外企業と直接取引する場合には、契約条項の明確化や正確な情報の入手経路の確立、問題発生時の処理対応など、留意点が述べられている。コスト低減は重要であるが、顧客に対する品質保証の観点からは「品質の確保」が大前提であることを忘れてはならない。
*1)①競争業者(既存の同業者間の競争)、②新規参入企業の脅威、③代替品の脅威、④売り手の交渉力、⑤買い手の交渉力
*2)リチウム、ゲルマニウム、セレン、セシウム、ジルコニウム、タングステン、アンチモン、白金などなど、希少金属のうち、様々な理由から産業界での流通量・使用量が少なく希少な金属であるが、電子材料や機能性材料として必須の金属である。
本稿は (社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック”を参考にし、途中「ガイドブック」と略称しています。
「新版品質保証ガイドブック」第Ⅱ部第6章「生産」に続く第7章は「調達」である。企業経営的に「調達」を考えると、企業活動の基本的な構造が浮かぶ。すなわち企業活動とは、金融市場、原材料市場および労働市場から必要な資源を「調達」し、付加価値を加えて製品市場に提供してゆくものである。流通業であれば、これらの製品を物流を経て、パッケージング、品揃え、陳列や各種プロモーション活動を通じて、さらに価値のある商品に変える。
また経営学では、有名なM.E.ポーターの5つの競争要因*1)を学ぶけれど、「調達」にあっては、その一つである供給業者による「売り手の交渉力」との凌ぎ合いがある。加えて組織関係論として、資源依存モデルで企業の資源取引関係のマネジメントの重要性を学んだ。企業組織間に限らず、エネルギーはじめ鉄や銅、アルミニウムなどベース金属資源は勿論、最先端技術やIT機器に必須のレアメタル*2)の確保に国家間の熾烈な駆け引き攻防がある。
品質保証・品質管理において「調達」を考える時、主に原材料市場からの必要な資源の確保のための活動となり、品質、価格、数量、納期などの確保、適正化が課題となる。ガイドブックはこれに関する基本的な考え方として、(1)要求事項を明確にし、これを満たす製品・サービスを調達すること、(2)効果的かつ効率的な調達プロセスを確立すること。を挙げている。
(1)の要求事項については、通常購入(納入)仕様書を作成し、製品の規格値や包装形態、検査証(必要に応じて検査法付記)の添付や納期等を明確にして取り交わす。原材料や部品の機能としての規格に加え、その包装材に至るまで有害物質が不検出であることなど、明文化しておく必要がある。ソニーのグリーンパートナー制度は有名であるが、「部品・材料における環境管理物質管理規定」として原材料供給メーカーに対して詳細な要求事項がある。中小企業でこれを真似ることは難しいと思われるけれど、肝と考えるところは外さぬように仕様書に盛り込むことが必要である。
(2)については、購買方針の策定、購買計画の策定、購買管理方式の設定、調達先の能力調査および評価、購買製品の検証、改善の支援・指導や調達先の満足度評価などがある。私など事業所の充填・物流責任者当時、海外生産の包装材のトラブルに際して、営業マンを相手にもっぱら改善指導の講釈を垂れていたけれど、作るのは中国奥地やベトナムでのこと、どこまで理解して実行してくれたかを確認までは出来なかった。
またガイドブックは、「調達」の品質保証において重点となる活動に、①調達先の評価と選定、②受入検査、③調達先の指導・育成、④品質の視点から見たSCM(Supply Chain Management)、⑤グローバル調達の5項目を挙げており、それぞれの項目に詳細な解説がある。ここで、すべての詳細な解説までを取り上げることはできないが、中で④と⑤は品質保証において比較的新しい取り組みであると考えるため、解説の概略を述べる。
顧客への品質保証のためには、自社内の品質管理だけでなく、原材料の品質を確保するため調達先の管理が必要である。このことは従来からの全社的品質管理の範疇である。ここでは加えて、調達先の関係する取引先も、何段階にも存在していることが多いため、それらの供給経路(サプライチェーン)についても確認して置きなさいというのが④なのである。問題があれば当然直接の調達先を通じて改善する必要がある。
⑤は、部品や原材料、包装材についても海外からの調達が一般化している現状に鑑み、特に海外企業と直接取引する場合には、契約条項の明確化や正確な情報の入手経路の確立、問題発生時の処理対応など、留意点が述べられている。コスト低減は重要であるが、顧客に対する品質保証の観点からは「品質の確保」が大前提であることを忘れてはならない。
*1)①競争業者(既存の同業者間の競争)、②新規参入企業の脅威、③代替品の脅威、④売り手の交渉力、⑤買い手の交渉力
*2)リチウム、ゲルマニウム、セレン、セシウム、ジルコニウム、タングステン、アンチモン、白金などなど、希少金属のうち、様々な理由から産業界での流通量・使用量が少なく希少な金属であるが、電子材料や機能性材料として必須の金属である。
本稿は (社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック”を参考にし、途中「ガイドブック」と略称しています。