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いい話を尋ねて⑫

2009年05月07日 | Weblog
経営者の言葉(下)

 「顧客の視点を大切に」と説くのは新生銀行社長(当時)ティエリー・ポルテ氏。
『新生銀行*13)が過去4年で拡大させた個人向けビジネスは、まず顧客の視点から始めた。顧客が既存の金融サービスに抱いていた不満は「休日にATMが使えない」「自分のお金を引き出すのに手数料がかかる」「あまりにも金利が低い」といったことだ。こうした点を意識して準備し、万全の対応をめざした。』

 やはりお客さんの立場で「未来から現在考えよ」とは、先日にもご登場いただい*14)たけれど、セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEOの鈴木敏文氏。『セブン-イレブン・ジャパンを実質創業した時も、周囲から「コンビニエンスストアなど定着するはずがない」と反対された。セブン銀行を作った時も、「ATMを置くだけでは採算がとれない」と多くの金融機関の方から忠告を受けた。現在から将来を見る考え方では、こうした指摘は常識だったかもしれない。しかし、お客さんの立場で将来から現在を考えた時に、全く違う世界が見えてくる。

 例えば将来、ATMは銀行ではなく、自宅や会社に近い身近な所で利用されるようになるのではと想像した。だから多くの反対の声にも負けずにセブン銀行の設立に突き進んだ。わずか2年半で利益を出し、今ではグループで最大の伸びを示すまでに成長した。』

 「事業の成否は企業の総合力の発揮にかかっている」と説くのは花王会長 後藤卓也氏。『花王は1997年にパソコン用フロッピーディスク事業からの完全撤退を決めた。同事業の売上高は800億円強と、当時の総売上高の10%近くを占め、世界市場で1-2位のシェアも確保していた。しかしソフトもハードも持たず、総合力が発揮できないと判断した。

 1982年に始めた化粧品事業は「花王に感性に訴える仕事ができるものか」などとの批判もあった。しかし、販売チャネルなどのインフラ活用が可能で、総合力が発揮できるとの信念でがんばり続けた結果、今では収益事業になっている。』

 その年、仏ルノーのCEOにも就任した日産自動車社長兼CEOカルロス・ゴーン氏は、ルノーに持ち帰る日本流の経営手法はあるかと問われ、『「日産に来た当初の私と今の私は違う。日本企業に触れ、多くを学んだ。それをルノーに入れようとしている」「一つ目は単純な形で実行すること。・・・二つ目はプロセスを重視すること。三つ目は、ある一つの強みを他の領域でも生かす考え方。・・・」』と答えられている。

 最後になったけれど、自社の多様性を強調しながら「ブランドとは生き方」というエルメス共同CEOパトリック・トマ氏。『エルメスにとってブランドとは。「生き方だ。それを皆で分かち合うことが我々のブランドだ。エルメスの世界を意味するサインでもある」・・・「多様性がなければ先はない。エルメスには世界のさまざまな文化が息づいている。」・・・「私は6代目の経営者であり同族でない初めてのトップになる」。・・・「エルメスらしさは何も変えない。しかし、戦略はいろいろ変えていく必要がある」。』

 「多様性がなければ先はない」とのトマ氏の言葉を裏づけるように、今や多様性(ダイバーシティー)は、そのシナジーがイノベーションを生み出す源泉だとして、企業経営のキーワードの一つになっている。
 
 *13)株式会社新生銀行:1952年設立の旧日本長期信用銀行が前身。98年に破綻しI一時国有化された。2000年に米投資ファンド、リップルウッド(現RHJインターナショナル)が買収し新生銀に名称を変更した。筆頭株主は米ファンドのJCフラワーズで、日本政府も20%強の普通株式を持つ。
  -by2009.04.25日本経済新聞
  なお、現在の社長は2008年11月より八城政基氏 
 *14)いい話を尋ねて⑨「役員試食」
本稿は「経営者の言葉(上)」に引き続き、2005年10月25日(火)の日本経済新聞「第7回日経フォーラム世界経営者会議」の記事から抜粋させていただきました。

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