機械より人

2009-04-16 14:52:45 | 本の話
弟に小関智弘は面白いね、と言うと小学館文庫の
『町工場(世界を越える)技術報告』を送ってくれました。
小関を言うならこれぐらい読んでおけ、かな?

さすがに「面白い」本です。
工場経営についてなど深刻な内容が多いので面白いと
は不謹慎かもしれませんけれども。
1999年刊なので古いのですがそれでも読むに足ります。

現場の細かな話も多く、興味深いものです。

著されているのは1980~1999の町工場。
それ以前の石油ショックを生き延びた工場群です。

80年代半ば以降は円高不況が厳しく、
バブル期の町工場はさほど大きな恩恵を受けません。
そしてそのバブルも崩壊。長く大変な不況が続きます。

不景気のときは下請けが痛手を受けやすい社会構造に
なっているのです。
90年代で大田区の町工場は3割も数を減らしています。

町工場でも思い切って新しいエレクロニクス化の
進んだ機械を導入するところがあります。
けれども原価償却を終える前に大不況となり多額の借金
が残るなどという工場も多くあったようです。

不景気の波が襲う度ごとに職人の技術が駆逐され
機械化が進みます。
人間の力量が落ちると機械に頼らざるを得ません。
この悪循環ですね。

さらに機械化と不景気は町工場への発注そのものも
削っていきます。
親工場が自社内で賄うようになっているのです。


例の「小関節」もたっぷりと盛り込まれています。

引用したい処がたくさんありますが、やりすぎると
お叱りを受けそうなので、少しだけご紹介します。
(小関さんが他の方の言葉を引いておられるものも
 ありますがいちいち書きません)

『納得のゆく機械が作れれば儲からなくっていい』

『製造技術の基礎になるのは人間だが、人間は手間ひま
 かけなければ育たない。その金があれば手っ取り早く
 儲かる方へまわすのが今流』

『全国八十七万の中小製造業者のほとんどは、決して
 大きな企業になろうと努力してはいない。むろん努力
 したからとてなれるものではないが、むしろ小さい
 ままで小さいなりの自分であろうとしている』

『当たり前のものを、よりよく作ろうという精神
 経済的な価値とは別なもう一つの価値』

『どんなに機械技術が進歩しても、機械は人間の道具』


どれも、しごく当たり前な言葉ですが、重みがあります。

翻って、わが塾業界。
ここにもITの波が押し寄せています。
生き残りのためにも利用しない手はありません。

しかし本当に使いこなせているでしょうか。

それに機械以外でできないことは放り出していないか?

これらは自省です。

人間でしかできないことを、どれだけしているか。
数多くの見逃しがありそうでちょっと怖いですね。


それにしても昨年秋からの世界不況、町工場には
どんな嵐が吹いているのでしょう・・