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突然の心停止~どう守る?

2013-02-14 22:44:08 | 健康・病気

心臓突然死の原因の大半は虚血性心疾患だが、
若年者の突然死の原因として挙げられる疾患の一つに
肥大型心筋症がある。
この疾患について少し勉強してみたい。

2月8日付 ABCNews.com

Hypertrophic Cardiomyopathy Kills Seven in One NJ Family ニュージャージー州の一家系で7人が肥大型心筋症で死亡

Hypertrophiccardiomyopathy
17才の娘 Becca、父親の Larry Flanigan Jr. と写る Lisa Salberg さん。彼ら全員が HCM と診断されている。Flanigan はこの疾患で2008年に死去した。

By SUSAN DONALDSON JAMES
 これまでに Lisa Salberg さんは親族7人を徐々に進行する心疾患で亡くしている。解明までに4世代の悲劇を要した一つの医学ミステリーである。
 アイルランドの移民だった2代前の彼女の大叔父は1世紀前にニュージャージーの鉄鉱山にて19才で不可解な急死を遂げた。彼女の曾祖母は50才で“dropsy”で死亡した。この“dropsy”とは、心不全に関連する水分の貯留を表す古語である。
 Salberg さんの祖父には心雑音があり43才で死去した。彼女の父親は、自分の死にかけていた父親に心肺蘇生を施さなくてはならず、彼女の母親とのデートに行けなかったのだという。また Salberg さんの叔母は36才で“感冒”で亡くなった。もう一人の叔母は52才のとき脳卒中で死亡した。そして、叔父も48才のときに心不全で亡くなった。
 そして 1970年代半ばまで話が進む。Salberg さんの姉の Laurie は、多くの彼女の親族の死因と考えられた疾患名で正しい診断が下された。それは心臓の壁が厚くなる疾患、肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy, HCM)だった。
 1995年の彼女の死は Salberg さんに最も衝撃を与えたが、その後、Salberg さんは Laurie の子供たちを生まれたばかりの自分の娘と一緒に必死で育てた。
 「一体何人になるのか、私たちはバタバタと倒れています」と Salberg さんは言う。「断片的なことが少しずつやってきて、情報が与えられるまで何年もかかったのです。なかなか点をつないで全体を明らかにすることができなかったのです」
 彼女らの父親は1989年に HCM と診断され 2008 年に死亡した。
 「その病気は何世代に渡って人間を侵し、私の家系の随所に認められてきました」と Salberg さん(44)は言う。彼女も1979年に診断を受けている。
 Laurie の子供、すなわち Salberg さんの28才の姪と30才の甥、さらに Salberg さん自身の17才の娘も HCM である。さらに従兄弟たち数人もこの疾患を持っている。
 心筋症は主として心筋が障害される家族性疾患である。HCM では筋細胞の正常の配列が崩壊するが、これは myocardial disarray(心筋錯綜配列)と呼ばれている。さらに心臓の電気的機能の途絶が生じることもある。左室からの拍出の妨げがあるか否かによって閉塞性または非閉塞性と分類される。
 ニューヨーク市の NYU Langone Medical Center の心臓内科の准教授 Sripal Bangalore 医師によると、この疾患は「実際、かなりよく見られ」、米国民500人に約1人の頻度だという。約60 万の米国民がこの疾患を持っている。
 「多くの人たちは何ら問題なく70、80才代まで通常の生活を送ります」と彼は言う。「特異な領域として、若いスポーツ選手が競技中に死亡することがあります」
 しばしば症状が見られないために、この疾患は家族歴を参考にすることによって診断される。リスクのある子供は、心筋が肥大していないかどうかを見るために心臓超音波検査を受けるべきである。これは成人になるまで5年ごとに繰り返し行わなければならないが、確定診断に至らないこともある。多くの医師は遺伝子検査を推奨しないが、それはその複雑性が原因となっている。心筋症に関連する遺伝子は1,000以上あるからである。
 治療には、スタチン、βブロッカー、カルシウム拮抗薬などの内服薬、心筋の肥厚部分を焼灼する手術、除細動装置の埋め込みなどがある。
 HCM は若いスポーツ選手をその絶頂期に襲うことのある疾患として最もよく知られている。1990年、ロサンゼルスの Loyola Marymount University のバスケットボールのスターだった Hank Gathers が23才で死亡したことで注目を集めた。
 New England Journal of Medicine に発表された2003年のレビューによると HCM はスポーツ選手の突然死の原因のトップとなっており、そのような死亡のおおよそ4分の1を占めているという。
 しかし、Salberg さんによると、この疾患は競技場以外で突然死をもたらすことの方が多いという。彼女は HCM の認識を高め、この疾患の患者への支援を行う目的で、ニュージャージーに拠点を置く Hypertrophic Cardiomyopathy Association(HCMA、肥大型心筋症協会)を創設した。これまで 17年間、彼女は多くの家族を国内の専門病院や医療センターの一流の研究者に紹介してきた。
 米疾病対策予防センターによると米国だけで約25万人が毎年、突然の心停止(sudden cardiac arrest, SCA)で死亡しているという。SCA 事例の約10%は40才未満の人たちに起こっている。
 ほとんどのSCAは救命器具のある病院から離れた学校、職場、あるいは自宅で死亡している。Salberg さんはニュージャージーにおいて学校で心肺蘇生やAEDs(automated external defibrillators)が受けられる法制化を先頭に立って進め、突然の心停止に対応する訓練に関する国家的取組みを支援してきた。
 Salberg さんや NYU の Bangalore 医師はスポーツ選手の全般的検査を推奨しているわけではない。しかし HCM と診断された人は激しい活動を避けるべきだという。
 「もし1,000万人から1,500万人をスクリーニングするとなれば、膨大なコストとなります」と Bangalore 氏は言う。「それは費用効果のある戦略とはいえません。死亡する若いスポーツ選手の数は少なく、100人に満たないのですから」

Heart Condition Diagnosed in Junior High School 中学校で診断された心臓病

 Salberg さんは聴力と脊柱側弯症に対する定期検査を受けようと並んでいた7年生のときに心疾患があることを初めて知った。
 「一番前に来たとき、椅子に座っていた医師が私のところで列をギョッとした顔で私を見ました」と彼女は言う。「彼は看護師にスペースを空けるように言い、少女たちはみな後ろに下がった。彼は私を立ったりしゃがんだりさせ、こう言いました。『これを聞いてみなさい』。そして即座に看護師は私を座らせ母親に電話をかけるように言いました」
 その医師は異常な心雑音を聴取していたのである。しかしそのような心雑音は全 HCM 症例の25%にしか認められない。
 まもなく、心臓内科医は彼女の兄や姉と同じ疾患であると診断した。彼はあまり希望を持たさないよう、こう Salberg さんに語った。「元気に見える人でもすぐに死ぬかもしれません」。
 その時点で「私を救ってくれるものは何もありませんでした」と彼女は言う。「私は何の治療法もなかったのです」
 Salberg さんは、胸痛やふらつきなどの症状があっても気にしなかった。
 「少なくとも2回ほど、ほとんど意識を失いかけたことがあります」と彼女は言う。「そのとき、私は誰にもそのことを言いませんでした。なぜなら、土曜日の午後にローラーリンクに行くことの方が重要だったからです。私は自分がどれほど運良く生き延びているのか全くわかっていませんでした」
 21才のとき、彼女に“本格的な発作”があり、今も麻痺が残っている。ほどなく、彼女の姉は不整脈が増加し健康状態が悪化した。
 「Laurie は手に負えない状況に陥り、心不全の状態にあると告げられました」と Salberg さんは言う。当時 Salberg さんは娘を妊娠しており8ヶ月だった。「私は姉の二人の子供のめんどうをみることを約束しました」
 「Laurie のベッドのとなりに立ち呼吸に喘ぐ彼女を見ながら、妊娠している子供もまたこの病気ではないかと思いました」と Salberg さんは言う。「私はこう考えていました。『私は今死ぬことはできない、死んでいる暇はない』と」
 息子を産んだあと彼女自身が心不全になってから、Salberg さんは“解決策を求めて”インターネットで調べるようになった。
 1996年、彼女は HCMA を設立した。以来、Salberg さんは“新生児から95才まで”、45ヶ国以上の5,000以上の家族に取り組んできた。
 「私たちは、診断が受けられるよう手助けをすることで数千人の命を救ってきました。そして今、法律的なアプローチに取り組んでいるところです」
 同協会は家族の中でどの人が HCM を持っているかを判定し、また突然の心停止のリスクをどのように評価するかを判断する方法を提供している。
 「私たちの知識は日ごとに変わります。追跡検査を続け、知識を身につける必要があります」と Salberg さんは言う。「患者は長期に渡ってそのリスクを知っておく必要があります」
 現在、Salberg さん、その娘、そして甥は皆、機能が破綻した心臓にショックを与えて元に戻すことができるよう、植え込み型心臓除細動器(implantable cardioverter defibrillator, ICD)が入れられている。また薬物治療も受けている。
 Salberg さんは、9つの提言のうち3つが“Janet's Law”と呼ばれる法律として認められることになった 2007年の調査特別委員会のレポートに有利な証言をした。同法は9月に署名されている。この法律は、すべてのニュージャージーの公立および私立の学校に AED を配備することを求めるものである。さらに学校は突然の心停止のイベントに対応し、AEDs の操作法について学校職員や指導者を訓練する緊急行動計画を策定しなければならない。
 この新しい法律は2006年に突然の心停止で倒れ死亡した11歳の Janet Zilinski の名前がつけられている。
 Salberg さんはさらに、学生や学校での対応者を教育する訓練を強く求めている。「私たちは心停止が起こったときにそれに対する準備ができていません」と彼女は言う。「それは最も多い亡くなり方なのですが、それに対する訓練ができていません。火災避難訓練や武装侵入者に対する訓練はあります。しかし、学校では銃弾や火災によるよりも突然の心停止で子供が死ぬ方がはるかに頻度が高いのです」
 Salberg さんは、HCM に特化した全体的な検査でなく、今日学校で一般的に行われているスポーツ選手に対する所定の事前許可のための健康診断の費用が保険から支払われるよう提言している。この点においては彼女は医学の専門家たちと同じ考えである。
 「スポーツ選手と突然死についての話題が多く、その道を進むことが王道となっています」と彼女は言う。「しかし、24才未満で亡くなる若者の80%は非スポーツ選手です。これでは全く解決策とはならず、すべての高校生をスクリーニングしたとしても、偽陽性や偽陰性が存在するのです」
 「それを必要とする人たちから頼みの綱を取り上げ、必要でない人たちに与えていることになるのです」

心筋に原因不明の異常が生じ、
心臓の形状や機能に異常を来たす病態を特発性心筋症という。
これには拡張型、肥大型、拘束型の3つの型があるが
前2者が大部分を占めている。
無症状のケースも多く正確な有病率は不明である。

肥大型心筋症では心室の壁が異常に厚くなり、
心臓の拡張能が障害される。
肥大の生ずる場所によって病態が異なる(閉塞性・非閉塞性)。
人口10万人あたり約17人に見られるがやはり正確な頻度は
不明である。
この型の約3分の1が遺伝性で一つの家系内に何人も
発症することがある。
心筋細胞を収縮させるたんぱくやミトコンドリアを
コードする遺伝子の異常があることがわかっているが、
異常を起こす遺伝子の変異パターンが複数存在するため
現状では確実な遺伝子診断は困難である。
また変異遺伝子を受け継いだ子供が発症する確率も
100%というわけではない。
肥大型心筋症では、患者の多くは無症状で経過し、
健康診断で、聴診、胸部レントゲン、心電図などで
偶然発見される。
心臓からの流出路が肥大すると、左心室から血液を
送り出すことが困難となり、動悸、胸痛、胸内苦悶、
あるいは息切れなどが起こる。
拡張型に比べると死亡率は低い(年間1~3%)が、
死亡例に占める突然死の割合が高いことが知られている。
突然死は運動中や運動直後に起こることが多く若年者に多い。
また肥大が進行し心筋の機能が低下すると心不全に陥る。
診断は理学的所見、心電図、心臓超音波検査により行われる。
診断の困難な例では、
心筋の生検を行って病理診断を必要とする場合もある。
肥大型心筋症の治療には、薬物療法として、
β遮断薬、カルシウム拮抗薬、抗不整脈薬などが用いられる。
さらに、心筋の肥大部分を切除する手術やカテーテルによる焼灼術、
ペースメーカーや除細動器の植え込み術が行われることもある。
肥大型心筋症では、心不全症状がなければ
日常生活の範囲ではほとんど支障はない。
女性では、妊娠、出産も可能となっている。
しかし、スポーツなど激しい運動は回避すべきである。

拡張型心筋症では遺伝性のものは数%とされている。
心筋は菲薄化し、収縮力が著しく低下して、
心臓のポンプ機能が著しく損なわれる。
肥大型に比べ、心不全死や突然死での死亡率は高く、
厳格な生活管理が求められる。
薬物治療ではアンギオテンシン変換酵素阻害薬やβ遮断薬が
有効とされている。
不整脈に対しては厳重な備えが必要で、
抗不整脈薬やペースメーカー、植え込み型除細動器などで
対処する。
重症例では、心臓移植を考慮する。
心臓移植のレシピエントで最も多いのが
拡張型心筋症患者となっている。

移植以外に決定的な治療法が存在しない限り
不幸な突然死をどのように回避するかが問われ続けることになる。

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