MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

尋常でない背部痛

2013-02-23 16:50:03 | 健康・病気

2013年2月のメディカル・ミステリーです。

2月19日付 Washington Post 電子版

Medical mysteries: Ian Liu’s back pain was horrible, but no one knew the reason
メディカル・ミステリー:Ian Liu の背部の痛みは最悪だったが、その原因は誰にもわからなかった

Horriblebackpain
沿岸警備隊員の Ian Liu の背中の痛みは彼を死ぬほど苦しませていた。しかし彼の病気は椎間板ヘルニアではなかったのである。

By Sandra G. Boodman,
 Ian Liu 氏の背中は彼をひどく苦しめていた。しかし何を試みても、それは良くならなかった。
 この39才の沿岸警備隊員は、自分の幼い息子の面倒をみているときに背中を捻ったのだと思った。長年彼に腰の問題があったことを考えるとそれは驚くことではなかった。しかし今回、その痛みははるかに強く、頑固なもので、物理療法も鎮痛薬も効果がないように思われた。
 一ヶ月以上の間、Liu 氏はワシントン地区にある2ヶ所の軍の病院を行ったり来たりし、その原因の解明を、そしてとりわけ苦痛の緩和を求めた。
 「それは私が経験した最悪の痛みでした」と Liu 氏は思い起こす。一連の検査では、増悪する彼の病状を説明できなかった。そのため、彼を治療していた医療関係者は途方に暮れていた。
 Liu 氏の見当識が時々おかしくなっているようだと彼の妻が告白してはじめて医師はその明らかな問題の本質を見い出し痛みの原因を解明することができた。その原因は彼の整形外科的病歴とは無関係であり、腰が悪いことよりはるかに深刻だったことが判明したのである。

Collapse in the commissary コミッサリー(販売店)での卒倒

 Liu 氏が最初にその痛みに気付いたのは 2004 年の 12月3日金曜日の夜のことで、彼の3人の息子たちのうちの末っ子をお風呂に入れ終わったあとだった。
 「バスタブの上で前かがみになってからだったと思います」と Liu 氏は思い起こす。彼は過去にも同じようなことがあったので時間が経てば改善すると考えた。しかし、その翌日、その痛みは増悪し、Nothern Virginia のコミッサリーでショッピング・カートを押しているとき、もたれかかれる物があれば彼はありがたいと感じていた。
 彼によると、家族が昼食のために立ち寄ったフード・コートで突然意識を失ったという。救急医療隊員が要請を受け救急車で緊急室に運ばれたあと、レントゲン検査、血液検査とともに、彼の背部のCTスキャンが行われた。何ら異常は発見されず、鎮痛薬、筋弛緩薬が処方され、もし改善しなければ2、3日中に彼のかかりつけ医に電話するように指導を受け自宅に帰らされた。
 しかし、彼は良くならなかった。その薬で彼はフラフラしたが、痛みの変化はなく、背部の周期的な筋肉のけいれんを鈍らせることはなかったように思われた。
 12月7日、地元の軍の病院にあるプライマリーケア・クリニックの準医師資格者(physician assistant, PA)を受診した。その PA は炎症を抑えるため5日分の副腎皮質ホルモンと、より強力な筋弛緩薬と鎮痛薬を Liu 氏に処方した。また、以前腰痛で彼を治療したカイロプラクターを受診するよう Liu 氏に助言した。
 翌日、そのカイロプラクターは彼の脊椎を矯正しようとしたが、Liu 氏の痛みがあまりに強いことが明らかだったためすぐに中止した。彼は Liu 氏に MRI 検査を受けるよう勧めた。2、3日後 MRI 検査が行われ神経外科医の受診予約をした。
 「たぶん椎間板ヘルニアのようなものがあるのだと思いました」と Liu 氏は思い起こす。椎間板ヘルニアは脊椎の椎間板が突出する疾患である。
 一週間後、さらに悲惨な状態となり Liu 氏は最初のクリニックを再診した。例のPAは彼を理学療法士に紹介した。しかし2日後に行われた最初の訓練で Liu 氏はすべての運動に耐えることができなかった。この時までに元々痩せていた彼の体格からさらに約10ポンド(約4.5㎏)体重が減っていた。
 「座ることや立つことが最悪でした」と Liu 氏は思い出す。「横になっていれば、少なくとも背中への圧力が回避できました」彼は神経外科医の受診予約をしていたが、初診は3週間先だった。
 Liu 氏にはさらにさしあたっての懸念があった。彼と妻、それに息子たちは、彼の実家の家族に会うためサンフランシスコへ飛ぶ予約をしており、前々から心配していたこの旅行が無事できるかどうか Liu 氏には自信がなかった。彼の痛みは強くほとんど歩けないほどだったからである。
 副腎皮質ステロイドのプレドニゾンと鎮痛薬が増量され、飛行機に乗るのに車椅子を使いながらこの全米横断旅行を行った。「私は実際、ほとんどの時間ボーッとしていました」彼はカリフォルニアでの日々をそう思い起こす。鎮痛薬は彼を“眠く、無気力に”させ、時々、二重に見えたり息切れを感じたりすることもあった。それらは薬の副作用だと彼は考えていた。
 彼によると、彼の両親は彼の病状に不安を抱き、病院の緊急室に行くようしきりに彼を促していたという。
 「私の気持ちは屈折していたため、こう考えていました。『すでに受診予約をしているのに、神経外科を受診する必要があると彼らに言われるためだけになんでERで何時間も座って待つ必要がある?』」そう彼は思い起こす。
 Liu 氏によると、彼の妻 Julie は “私にはうんざりして” いて、7才に満たない3人の幼い少年たちと次第に元気がなくなっていく夫の面倒をみるのに疲れ切っていたという。神経外科医を受診すれば、たとえそれが腰の手術を意味することになろうともすべては解決するだろうと自分に言い聞かせていたと Liu 氏は言う。

‘Just man up’ 『毅然としなくては…』

 2005年1月4日の神経外科医への受診は苦々しく始まった。以前の Liu 氏の MRI は造影剤を用いず行われていたので、その外科医はさらに情報が得られる検査をあらためて行った。その追加検査の結果を見たその専門医は失望させるような告知をした。
 「彼は私にこう言いました。『何が起こっているのか分からないが、外科的に治療できないことは確かです』」Liu 氏はそう思い起こし、このときのことは彼の厳しい試練のうち最低の瞬間だったと付け加える。それはそれ以降に訪れるであろうことより悪いことだった。「たぶんこれは私の頭の中だけのことで、実際にはそんなに悪くないのではないかと思いたい気分でした。どうして私はなんとか我慢して毅然としていられないのだろうか?と」
 しかし、Liu 氏の妻の心配は増大していた。このため夫が部屋の外に出ている間に、彼に意識障害や見当識障害や息切れと思われる症状が見られていることを彼女はその神経外科医に告げた。
 その夜、この夫婦が Springfield の自宅に戻ると電話が鳴った。例の神経外科医からで、Liu 氏に彼の呼吸困難と意識障害は何か心臓に問題があることを意味しているかもしれないと告げた。さらなる検査のために Liu 氏はすぐに病院に来る必要があると。
 「もしお望みなら救急車を出します」そう彼が言ったのを Liu 氏は思い起こす。結局、Liu 氏は妻に車で連れて行ってもらうことにした。
 病院では彼のバイタルサインをチェックした医療技術者が彼に尋ねた。「心雑音があることをご存じでしたか?」
 「それが何であるかすら知りませんでした」と Liu 氏は思い起こす。「でも彼らはかなり気にかけているようでした」
 その懸念はさらに深まり、心臓の詳細な画像が得られる検査、心臓超音波検査(心エコー図)が行われ、ついに Liu 氏の絶え間ない痛み、息切れ、および意識障害の原因が明らかになった。彼は感染性心内膜炎だったのである。細菌感染によって Liu 氏の僧帽弁に穴が開いていたのである。検査によって感染が脳、肺、脊椎にも広がっていたことが判明した。
 心内膜炎は心臓や心臓弁の内面の膜の炎症である。通常、細菌や真菌の感染で生じ、典型的には心臓弁の異常など心臓の基礎疾患がある人に見られる。Medline によると、医学的、あるいは歯科的処置に際して細菌が血流に入り込むと発症するという。
 Liu 氏のケースのように、こういった細菌は身体の他の部位に移動し、重篤な感染症を引き起こすこともある。検査により Liu 氏には、背部痛の原因となった骨髄炎や椎間板炎だけでなく、増悪する意識障害に関連していた脳の感染症である脳炎も認められた。
 Liu 氏の感染症は Streptococcus viridans(緑色連鎖球菌)によるものだったが、この細菌は口腔内に認められるもので心内膜炎の最も多い起因菌となっている。Liu 氏によると、医学的処置は何も受けていなかったが、背部痛が出現した数週間前に歯の汚れを落としてもらっていたという。それが彼の感染症を引き起こしたかどうかは不明であると医師から告げられている。さらに、彼によれば心雑音や他の異常があると言われたことはなかったということだが、そのような基礎病変があって彼に心内膜炎を起こしやすくさせていた可能性はあると、George Washington University School of Medicine の准教授で感染症の専門家 Marc Siegel 氏は指摘する。
 「背部痛は心内膜炎の一症状として知られています」と Siegel 氏は言う。彼は Liu 氏の治療には携わっていない。「腰背部は血液の供給が最も集中している場所なのです」心臓弁に異常のある患者では連鎖球菌が感染を起こす可能性がある。
 それでは Liu 氏の心臓疾患はなぜそれまでに発見されなかったのだろうか?
 その理由ははっきりしないと Siegel 氏は言う。心雑音が新しいものか、それともしばらく前から存在していたのに発見されていなかったのかを知ることは不可能である。「最近起こった心雑音ならきわめて懸念すべき所見となります」と彼は言うが、一方で、既存の心雑音があればずっと早期に医師が Liu 氏の心臓に関心を持っていたかもしれない。「残念ながら、おそらく私を含め、若い医師たちは、かつての医師たちほど、理学的診察に明るくないのです」
 聴診器で心音を聴くことにより発見される多くの心雑音は問題を起こさないが、成人で認められる心雑音の中には弁疾患の徴候となっている例もある。
 Liu 氏によると、彼を治療した専門医たちは10週間の抗生物質の静注を行い、その後に彼の障害された僧帽弁を修復、あるいは置換するため開心術を施行するよう計画した。しかし、入院後2、3日して、彼が心不全の状態にあるため手術が待てないことが明らかとなった。1月18日、彼は牛の組織でできた新しい僧帽弁の置換術を受けた。
 Liu 氏によると、その後2年間、背部の感染を根治させるため抗生物質を内服したという。
 現在47才になる Liu 氏は除隊し、現在、国務省の情報技術のスペシャリストとして働いている。彼の置換弁はうまく機能してきたが、医師の予想より疲弊が速く、この春にはそれを入れ替える手術を行うことになっている。
 Liu 氏の今回の病気によって、患者があまりに具合が悪く質問をしたり治療を強く求めことができないとき、それらを行ってくれる支援者がいることの重要性を認識するようになったと彼は言う。
 「私はあれほどの強い苦痛と大量の鎮痛薬のさなかにありました。そして痛みを止めてもらいたいだけで精一杯でした」診断までの数週間のことについて彼は言う。彼が心内膜炎だとわかったとき彼の治療の調整を支援してくれた軍の医師と、彼の意識障害について神経外科医に話してくれた妻に対して特に感謝していると彼は言う。
 「あのころ自分にできることはすべてしていたと私は考えていたのです」

感染性心内膜炎とは、心臓壁、心臓弁の内膜への
細菌(または真菌)感染により菌体が集簇した疣腫(ゆうしゅ)が
形成される全身性敗血症性疾患である。
感染による全身症状をはじめとして心不全、脳血管障害など
多彩な症状が引き起こされるため、診断が困難なケースもある。
本症発症の下地となるのが非細菌性血栓性疣腫
(non-bacterial thrombogenic vegetation, NBTV)である。
これは、心室中隔欠損症、動脈管などの先天性心疾患、
Fallot 四徴症に対する短絡手術、僧房弁逸脱、
弁狭窄・弁閉鎖不全などで生じる心臓内の
乱流ジェットによって内膜が損傷、その修復過程において
血小板とフィブリンが集簇して形成されるものである。
そこに小手術や歯科的治療などで一過性に菌血症が生じると
この NBTV に感染が起こり細菌性疣腫が増大する。
しかし、心疾患の既往のない例や、小処置歴のない例でも
本症を発症することがある。
また静注薬物常用者では基礎的心疾患がなくても
持続する発熱が見られる場合には
本症の可能性を念頭に置いておく必要がある。
起因菌は緑色連鎖球菌(Strep viridans)が約半数を占め、
黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌がそれに続く。
心臓弁の破壊が生ずると弁機能が失われ心不全を来たす一方、
全身性には敗血症の症状が見られる。
疣腫に形成された血栓が動脈中に遊離すると
各末梢動脈を閉塞し塞栓症が生ずる。

菌血症が起こってから発病までの期間は比較的早く
2週間以内が約80%を占める。
患者の90%以上で発熱が見られるが
高齢者では見られないこともある。
その他、全身倦怠、食欲不振、体重減少などを伴う。
全身性の塞栓症状として疼痛が出現し、
四肢の疼痛(筋肉痛・関節痛)、胸痛、腹痛がある。
また四肢、眼瞼結膜、頬部粘膜などの点状出血や
眼底出血を見ることもある。
脳血管に塞栓が生ずると脳神経症状が見られる。
また脳動脈に発生した感染性脳動脈瘤が破裂し
くも膜下出血や脳出血が起こることがある。
心臓組織の障害により心雑音が聴取(80~85%)されるが、
新たに生じた弁逆流性雑音は本症を疑う所見として
重要である。
弁の破壊・逆流・腱索の断裂など
弁機能が高度に障害されると心不全症状を来たす。

診断に際しては、多彩な症状からも本症の可能性を
念頭に置いておくことが重要である。
1994年の Duke 診断基準に基づいて診断がなされる。
検査は血液検査、血液培養、心臓超音波検査(心エコー図)が
重要である。
血液検査では白血球増多、CRP上昇、赤沈の亢進を見る。
複数回血液培養を行い、起因菌を同定する。
心臓超音波検査で疣腫が確認されれば確定診断につながるが
検出されない場合も本症が否定されるわけではない。

治療は菌の感受性に応じて抗菌薬を投与する。
疣腫に薬剤が届きにくいことから、
抗菌薬は大量、長期間(原則4週間以上)の投与を要する。
弁機能が破綻したケースでは急性期から
外科的治療が考慮される。
心組織の破壊が著しい例や、ブドウ球菌が原因菌となる例では
予後不良である。

発熱などの感染徴候がそれほど顕著でないこともあり、
診断が遅れるケースもあるようだ。

今のところ、基礎的心疾患が明らかなハイリスク群に対しては、
歯科的処置などリスクの高い手技の前に
予防的な抗菌薬の投与を行っておく以外に
本症を回避する手段はないようである。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 突然の心停止~どう守る? | トップ | 迷子にならない子猫ちゃん »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

健康・病気」カテゴリの最新記事