フッフッフの話

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「薔薇盗人」

2008-08-29 16:16:49 | 
 浅田 次郎著  新潮文庫  平成12年8月発行
短編集である。 あじさい心中、死に賃、奈落、佳人、
         ひなまつり、薔薇盗人の6篇

”佳人”
 痛快で読みながら笑える。
人間の持つ不思議さに出会い、人生って最高と。
70歳の女性(オバアチャンではない)に乾杯!
「よくぞ書いて下さいました」と浅田氏に感謝!

 元旦の午後、70歳になる母は、ショルダーバックの中から
写真を取り出し、新一と妻の前に並べる。
母は若い頃から色々と活躍し、美しく老いたようである。
母は、これと思う娘さんを、頃合いの男性に紹介して欲しい、
すなわち仲人を頼むということである。
いつもは柳に風と受け流したが、
今回は部下の吉岡 英樹に紹介したらと考え、本気になった。
会社の人事部では、吉岡を海外駐在支店長にと目をつけている。
新一にとっては、大切な部下を手放したくない。そのためには、
家庭を持っていることが、一番の条件である。

 吉岡は、38歳の独身であるが、
全ての点で非の打ち所のない完全な人物である。
一流大学卒の商社マン、明朗闊達、語学堪能、身長180cm、
ギリシャ彫刻のように端正な顔、スポーツマン等々。
こんな男性いるのかなー!陰の声)
早速、吉岡に電話をし、遊びに来るように伝える。

 次の朝、吉岡は磨きたてのBMWに乗ってきた。
新一は、吉岡と二人だけで話したいことがあると言って部屋に通し、
単刀直入に訊ねた。「ホモか?」「インポか?」「恋愛トラウマか?」
どれも「ノー」であった。新一は安心して、
「母の話を聴いてやって欲しい」と言った途端に、
吉岡の表情がこわばった。
「何の話ですか?まだ心の準備が………」
(吉岡の表情表現が面白いので、噴出してしまいそう)

 吉岡と母二人だけを部屋に残したが、
新一夫婦は気が気ではない。
耳を澄ましても会話は聞き取れない。ささやき声がする。
「ロリコン?まさかな」 「まさかね。ババコン?」
「まさか………」「まさか、ね………」

 一時間も過ぎた頃、二人が上気した表情で居間から出る。
「話が長くなりますので、お母様をお借りします。
ベイ・ブリッジを見たいとおっしゃるので、横浜までドライブして、
ホテルで食事でもします」吉岡は、母にコートを着せかけ、
腰を抱き寄せた。
母は、「ああ嬉しい。何だか二十歳の娘に返ったみたい」と言って、
二人はBMWに乗って走り去った。

 「まさか、な………」そういうことになったら、自分は会社で
どんな顔をすればよいのだろうと、新一は思った。

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