私たちは、マルチェージネから遊覧船に乗って、
船上からの眺めを楽しみながらシルミオーネへとやってきました。
シルミオーネは、ガルダ湖の南の真ん中に、半島のように突き出した場所にある小さな街です。
この付近の湖底からは温泉が湧き出ており、リゾート地としてと同時に保養地としても知られています。
温泉保養地としての歴史は古く、なんと古代ローマ時代までさかのぼるそうで、
半島の先端、シルミオーネで一番眺めの良い場所には、古代ローマの別荘跡とされる遺跡があります。
オリーブの林に囲まれた遺跡は、思っていたよりずっと広く、
その規模がかなり大きなものだったことをうかがわせます。
シルミオーネの中心部からこの遺跡までは、歩いてもたいした距離ではありませんが、
よく遊園地にあるような汽車の形をした電気自動車が走っています。
私たちは行きも帰りもこのおもちゃのような汽車を利用しました。
先端の岬からは、まるでどこかの海にいるような景色が広がっていました。
私たちはその場所でしばらくのあいだ、その「海」をぼーっと眺めていました。
すぐそばでは、ドイツ系と思われる銀色の髪をした上品な初老の女性が、
石でできたベンチに座って、文庫本を読みながら過ごしていました。
遺跡から戻った私たちは、しばらくシルミオーネの街を散策しました。
ここはいわゆる“観光地”で、土産物屋やジェラーテリアがあちこちにならび、
中には高級ブランドのブティックもあります。
有名人の別荘も多いそうで、お金持ちの来る場所なんだ…
となんとなく感じさせる雰囲気がありました。
街の出入り口は小さな運河で陸地と隔てられていて、
小さな橋がかかっています。
そしてその脇に、この付近のほかの街と同じようにスカラ家の城がありました。
マルチェージネのそれとくらべると、
こちらのほうが「お城」と呼びたくなるような外観をしています。
それにしても、これだけ多くの城砦がガルダ湖にあるということは、
ここがイタリア以北との交易の場として重要な役割を占めていた、
ということになるのでしょうか。
夕暮れが近づくと、私たちはもう一度湖のほとりへと足を運びました。
夕方の湖は昼とはまた違ったおもむきがあり、なんともいえない美しさでした。
残念ながら、この日私たちは別の町に宿をとっていました。
「次にこの街を訪れる機会があったら、今度は絶対にこの街に泊まってみよう…」と考えながら、
私たちはシルミオーネを後にしたのでした。
このとき、帰りのバスが40分も遅れてやってきたのは、言うまでもありません…。
なんてったってイタリアですから。
イタリア 小さな街物語 単行本 | |
鈴木 奈月 | |
大好きな鈴木奈月さんの本です。この本を読んで訪れた町は、 シルミオーネの他にも、オストゥーニやルッカなど、たくさんあります。 |