マテーラは「サッシ」の街として世界遺産に登録されています。
「サッシ」とは、「洞窟住居」を意味しています。
起源は古く、最初にここに居を構えたのは、キリスト教の修道士たちだったそうです。
グラヴィーナ渓谷の険しさは、厳しい環境での修行の場として、
また異教徒からの攻撃から身を守る場所として最適だったのでしょう。
その形態は、断崖の洞窟をほぼそのまま利用しただけの簡素なものだったようです。
今でも、最も南の谷底に近いエリアや渓谷の向かい側に、その面影が残っています。
その後、人口の増加に伴って部屋数を増やすために、
自然の洞窟の開口部に建物を一部加えた形態の住居が建てられるようになり、
その住居の屋根にあたる部分を通路や公共の広場として利用することで、
さらにその上に新しい住居が作られていったそうです。
その結果として、今見られるような不思議な街ができあがったのですね。
1900年代に入ってからは、ライフラインの近代化が遅れ、
一時は南イタリアの貧しさの象徴として小説の題材になったこともあるマテーラのサッシですが、
世界遺産への登録後、少しずつ保存・整備が進んでいます。
また、内部を改装してホテルやレストランとして利用されているサッシもあり、
“遺産”としての街から少しずつ“生きている”街へと生まれ変わりつつあるような印象を受けました。
しかし、まだ廃墟同然の地域もあるので、
夜の散歩を楽しもう、なんてことはあまり考えないほうがよさそうです…。
南イタリアへ! (講談社現代新書) | |
陣内秀信さんが南イタリアのさまざまな街について、 独自の視点から紹介しています。 |
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講談社 |