A Challenge To Fate

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【100フォークスのススメ】第7回:”殉教のダンディズム”昭和フォーク界の割礼=因幡晃のディープな自己陶酔世界。

2022年11月22日 01時41分00秒 | こんな音楽も聴くんです


ハードオフのジャンクレコード・コーナーで大抵出会う黒サングラスで俯き加減でタバコをふかす男のジャケット。灰野敬二というより、光束夜の金子寿徳を思わせる風貌で、浅川マキや森田童子、長谷川きよしと並ぶグラサン・フォークシンガー因幡晃がその人である。長年100円レコードを掘り続けてきた筆者にとっては、さだまさし、松山千春、長渕剛、谷村新司、かぐや姫らと並んで“いつでもどこでも手に入る”定番百均フォーク王のひとつという印象がありしばらく手を出さなかったのだが、ふきのとう、N.S.P.、長谷川きよしといった偏愛フォーキーをほぼコンプリートしたところで、欲望の九つの対象の次のターゲットとしてサングラスの奥の本性を覗きたい愛好家の血が騒ぎ『何か言い忘れたようで・・・』と題されたモノクロジャケを我が家に連れて帰ることとなった。

リリカルなピアノと流麗なストリングスに導かれて歌う声は温かくも、過剰な感情表現を自己抑制しようとするストイックさを感じる。しかし曲が進むにつれ、禁欲の裏に秘められた情念の炎が否応なしに溢れ出て、過剰なビブラートとリバーヴの波が聴き手の心に襲い掛かる。さらに女言葉で綴られた歌詞の陰影が倒錯の世界に溺れさせ、自己陶酔の海の深みに迷い込むかのような音楽の旅を体験することとなる。ひたすらスローテンポで言葉の中に沈みこむように歌う因幡晃の世界は、日本を代表するサイケデリックバンド割礼に通じている。

▼デビュー・シングル「わかって下さい」(編曲:クニ河内)はパイプオルガンの荘厳な響きから始まる溺れっぱなしのジャパニーズバロックサイケの傑作。


本名・因幡晃。昭和29(1954) 年3月18日。秋田県大館市生まれ。父親の影響で鉱山技師として働きながら、ギターを持って歌い始めた。「ボクの仕事は、あくまで鉱山技師。ボクの創作活動の場は、あくまで大舘です」と言い切り、北国の灰色の街の自然や街並みをさまよいながら、青年のリリシズムでもって、自己の青春を謳うコトバのひとつひとつを選び、重ねていく。「ぼくの歌のほとんどは、別れた人の想い出そのものなんです。恋をして、たった一言、疲れた!で別れてしまったその人のことが忘れられなくて・・・」ひとりの女性の想い出を、男の心に写る女のコトバで歌い続ける悲壮な姿はまさに2ndアルバム『暮色』の帯のコピー通りの”殉教のダンディズム”。さらにこんな告白も。「歌っている時、女になりきっていくのです。これは、自分でもゾーッとすることがあります」。つまり彼の音楽は自己抑制と倒錯世界の狭間の真空地帯に漂う蜃気楼なのである。

筆者がジャンクレコードの海から探し出したレコードは1st『何か言い忘れたようで』(1976)、2nd『暮色』(1977)、5th『静炎 (ほのお)』(1979)の3枚のみだが、「わかって下さい」のディープな歌心は全編に流れ続けている。LPだけでも10枚以上リリースされているので今後の出会いが楽しみでならない。

▼3rdシングル「別涙(わかれ)」のライヴ映像。白い衣装で祈るように歌う姿はアシッドフォークの殉教者の真骨頂。


殉教者
ロマンティストの
歌の海

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