A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【魅惑の軽音楽その7】和製ムード音楽のススメ~ブルースカイ・ダンス・オーケストラ/アート・ポップス・オーケストラ/シー・バレンツ・オーケストラetc.

2022年05月24日 02時26分14秒 | こんな音楽も聴くんです


イージーリスニング/ムード音楽とググると、マントヴァーニ、フランク・チャックスフィールド、ウェルナー・ミューラー(リカルド・サントス)、パーシー・フェイス、フランク・プゥルセル、レイモン・ルフェーブル、カラベリ、ポール・モーリア、リチャード・クレイダーマン、ベルト・ケンプフェルト、ジェームス・ラストなど欧米のオーケストラやミュージシャンの名前が出てくる。しかしながら第二次世界戦後にジャズやタンゴ、ラテンといった洋楽ポップスが輸入されるようになって以来、日本におけるムード音楽ブームを支えてきた和製ムード音楽が多数あることが見過ごされていることは間違いない。その理由は、日本のムード音楽はスター的なバンドリーダーや指揮者が生まれなかったことと、それ以上に洋楽アーティストの代替品的な扱いをされ、ひどい場合には「バッタもん」呼ばわりされることが少なくなかったからであろう。

ヴォーカリストを花形と捉える日本のポピュラー界ではインストゥルメンタル系アーティストに日が当たることは多くない。ベンチャーズ・スタイルのエレキバンドは、ヴォーカルを取り入れてグループサウンズに変わるまでは、偽ベンチャーズ(バッタもん・パチもん)扱いだったと思われる。ジャズの場合も秋吉敏子や渡辺貞夫や日野皓正といったスター・プレイヤーが登場するまでは、演奏者の名前が一般に認知されることは少なかった。ましてや誰が演奏しても大差がない、というより個性を発揮することが求められないムード音楽においては、海外のブランドこそ大いにもてはやされたが、日本の演奏家や指揮者が誰であろうと気にするファンはほとんどいなかったと言えるだろう。それが分かっているから制作側(レコード会社や放送局)も演奏者の名前を売り出すよりも、人気や話題性のある曲を集めるほうが売り上げに繋がると考えていたのである。かくしてメンバー構成が不明な架空のグループ名を冠したレコードが和製ムード音楽の常識となったのである。

訳の分からないことを美徳とする地下音楽を愛好する筆者としては、正体が謎に包まれた実体のない和製ムード音楽に大きな愛着を感じるのである。そんなバッタもんまがいの名盤をご紹介しよう。殆どが100円前後のジャンク商品の墓場から救出した塩ビ盤である。

●奥田宗宏とブルースカイ・ダンス・オーケストラ『ダンスへのお誘い』(World Record Club TWS-1013)


新聞や雑誌の広告で通信販売されていたファミリークラブ商品は、和製ムード音楽の活躍の場でもある。World Record Clubという会社からシリーズで販売された「LET’S SWING ROMANTIC SOUNDS」のVol.5がこのアルバム。5,60年代のミュージカルやビートルズ・ナンバーを社交ダンス風スウィングジャズでアレンジした無難なサウンドの中に、ガレージパンクの名曲ヒューマン・ベインズ(Human Beinz)「ノー・ノー・ノー(Nobody But Me)」が入っているのが素晴らしい。ザ・ブルースカイオーケストラは昭和2年(1927年)に結成されたジャズバンドを前身として、創立70余年を越えた今もなお、日本の代表的スウィングバンドとして活躍中。『今宵踊らん』シリーズで有名。和製ムード音楽界では珍しく実態のあるバンドである。

Smoke Gets In Your Eyes (R Tempo 26)



●ロイヤル・ナイツ、ウィルビーズ、アート・ポップス・オーケストラ『Your New Hit』(HIT RECORD HR-005)


如何わしいバッタもん感たっぷりの水着女性のジャケットを裏返すと、ローリング・ストーンズの写真。ストーンズの曲は入っていないのに(笑)。見開きジャケットにはウッドストックかモンタレーポップのような海外ロックフェスの観客のヒッピーの写真。発売元の現代芸術社は”バッタもんの園”=ソノシート専門レーベル。A面はTVアニメや戦隊ものの主題歌を多数手がけるコーラスグループ、ロイヤル・ナイツと歌謡曲のバックコーラスの実力派ウィルビーズがヴォーカルで参加したロック・ナンバーのカヴァー。「マミー・ブルー」の日本語バージョンとチェイスの「黒い炎」のサイケデリックなギターが聴きどころ。ジャケ裏の曲名表記が「黒い災」と誤植してるのもツボ。B面はアート・ポップス・オーケストラという正体不明のムード楽団のインスト。ソノシート・レーベルならではのチープな録音が楽しい。

『サンダーバードのテーマ』/ロイヤル・ナイツとビクター少年合唱団


ウィルビーズ「ソウルこれっきりですか」



●ザ・ヒット・キット・プレイボーイズ『リクェスト・ヒット・パレード 第1集』(ビクター SJV-27)


1964年の最新洋楽ヒット曲のインスト集。欧米ポップス、ビートルズ、映画音楽、カンツォーネ等12曲。「ヒット曲の栄枯盛衰は戦国武将の生命に似てはかない」と解説で書いてあるように、最新ヒット曲を出来るだけ早くカヴァーしてアピールするのが当時のムード音楽業界のヒットの方程式だったのだろう。ザ・ヒット・キット・プレイボーイズは名前からしてレコーディング用に集められたスタジオ・ミュージシャンだと思われるが、ダンスバンドっぽいシンプルな構成で軽快なサウンドを聴かせる。特に「太陽の彼方」やビートルズ・ナンバーで活躍するエレキギターが和製ベンチャーズぽくてカッコいい。


●ザ・ヒット・キット・アイランダーズ『ヒット・キット・パーティ 第3集』(コロムビア YS-187)


上と同じく「ヒット・キット」という名だが、こちらはコロムビア・レコードのリリース。解説によると「ヒット・キット」とはヒット曲一式とかヒット曲全部という意味で、アメリカの将兵慰のために発行されたヒットソングの楽譜の名前でもある。つまり固有名詞ではなく、レコード会社に関係なく使える一般名称ということだ。コロムビアのヒット・キット・パーティ・シリーズの第3弾で、ハワイアンによる1961年のヒット曲カヴァー集。デル・シャノン、パット・ブーン、ニール・セダカ、ブラザーズ・フォーといったビートルズ登場以前のオールディーズと、映画音楽、ラテン、ブルースの曲をスティール・ギターの浮かれたサウンドで演奏する楽しいアルバム。ザ・ヒット・キット・アイランダーズとは、スティール・ギターの名手、大橋節夫とハニーアイランダーズを主体としたグループ。

Hit Kit Islanders - Theme From The Young Savages - Remastered 2019



●スクリーン・グランド・オーケストラ『スパイ、マフィア、空手映画』(ACE NA-024)


バッタもんに相応しく何とも安易なタイトル。ジャケットのアラン・ドロンも偽物に見えてくる。製作元のELM CORPとは元ソノシート・レーベルのミュージック・グラフ。2番目に紹介した『Your New Hit』と同じくソノシート用の音源をLP化したものである。007(スパイ)、ゴッドファーザー(マフィア)、燃えよドラゴン(空手)シリーズをメインに映画人気におんぶにだっこの選曲。映画のオリジナル・サウンドトラックを期待して買ったらぜんぜん違う演奏でがっかりした、という声の多いカヴァーものだが、オリジナルと別ものとして楽しめるのがバッタもんの醍醐味である。スクリーン・グランド・オーケストラという嘘くさい名前の楽団による演奏は、切れ味鋭く、若さ溢れる疾走感に満ちている。野心家の若手ミュージシャンが演奏の場を得て水を得た魚のように生き生きと演奏している情景が目に浮かぶ。ブルース・リーの「アチョー!」という叫び声を吹き替えでやってるのも泣ける。青春の汗の香りがする奇跡の1枚。


●シー・バレンツ・オーケストラ『ラテン』(キャニオン CAL-5015)


1970年に設立されたキャニオン・レコードから71年に発売されたムード“デラックス・キャニオン・ブルー・ベルト・シリーズ”の1枚。75年に「およげ!たいやきくん」が大ヒットして有力レーベルに成長するキャニオンだが、年配層をターゲットにした軽音楽やムード音楽もリリースしていた。他にスクリーンものやヒット曲ものが出ている。Sea Barents Orchestraと書くと海外のバンドのように見えるが、キャニオンが集めた日本人オーケストラに違いない。華麗なストリングとピアノを活かしたサウンドはラテンと言うよりヨーロッパ的哀愁が感じられるのは名前のせいだけではあるまい。かなり実力のあるアレンジャーが編曲したと思われる。見開きヌード・ピンナップ付き。

ムード音楽
ヌード写真と
仲良しさん


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【精神拡張フルートロックの... | トップ | 【動画あり】クリス・ピッツ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

こんな音楽も聴くんです」カテゴリの最新記事