A Challenge To Fate

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美メロと午前3時のファズギター~マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、リマスター盤リリースに寄せて

2012年06月04日 02時34分21秒 | 素晴らしき変態音楽


既に手にした人も多いだろうが、シューゲイザーの元祖マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのオリジナル・アルバム2作と編集盤1作がリーダーのケヴィン・シールズの手によりリマスター再発された。畳み掛けるように来年2月の来日が発表され、往年のファンから若いUKロック・ファンまで巻き込みマイブラ再評価が盛り上がっている。各洋楽雑誌で特集され、Web版音楽ページでも広く取り上げられている。その多くが当時を知らない"後追い"の若手ライターのペンによる記事の中で、当時から英国ロックの渦中に身を置きで現場を見てこられたカメラマンの久保憲司氏の記事が解りやすいのでぜひお読みただきたい。マイブラの足取りや音楽性に関してはそれらを参考にしていただくとして、ここでは懲りもせず年寄りの昔話を綴ってみたい。

1970年代後半のパンク革命以降世界のロック・シーンの様相は大きく変わった。パンクからニューウェイヴに発展し、そこから様々なスタイルが派生していった。ニューウェイヴ系ではテクノ、ネオサイケ、ポジパン、カレッジロック、ネオアコ、インダストリアル、メビメタではNWOHM、プログレではポンプロック…....。特にイギリスのNMEやメロディメイカーなどの音楽紙は新しいムーヴメントをあげつらうのが得意でメディア主導の実体のない呼び名を作っては捨てていた。そんな中で私が好きだったのはザ・キュアーを始めとしたネオサイケと呼ばれる一団だった。エコー&ザ・バニーメン、アンド・オルソー・ザ・トゥリーズ、サッド・ラヴァー&ザ・ジャイアンツなど雑誌のレビューやレコード店のコメントに「サイケ」と書いてあるだけで聴きまくったものである。レーベルではFiction、4AD、Beggars Banquet、Red Flameなどを思い出す。アメリカに目を移せばNYアングラ・シーンを引き継ぐソニック・ユース、ジョン・スペンサー率いるプッシー・ガロア、J.マスシスのダイナソーJr.、カレッジロックの帝王REMなどがいてそのどれもが1960年代サイケデリアの遺伝子を多かれ少なかれ持っていた。

1980年代半ばイギリスで密かながら後にシーンに大きな影響を与える動きがあった。NMEからリリースされた「C86」というカセットである。プライマル・スクリーム、BMXバンディッツ、ウェザー・プロフェッツ、ジーザス&メリー・チェイン、ポップ・ウィル・イート・イットセルフ、ウェディング・プレゼント、スープ・ドラゴンズ、パステルズなど当時の新進気鋭の若手バンドのコンピレーションで、ロンドン以外のアーティストが多かったこともあり英国の地方都市のローカル・シーンの胎動を世界に知らしめた重要な作品だった。大手メジャー・レーベルに対抗してDo It Yourselfに拘るインディ・レーベルはRough TradeやStiffなどパンク時代から活発になったが、それが世界中に飛び火するきっかけとなったのが「C86」でありその手のバンドを示す総称として使われたのは「インディ・ロック」だった。

1980年代終わりにはマンチェスターのロック・シーンが「マッドチェスター」略して「マンチェ」と呼ばれザ・ストーン・ローゼズ、ニュー・オーダー、ハッピー・マンデーズ、ザ・シャーラタンズなどが注目を集め、地元のクラブ、ハシエンダで夜な夜な繰り広げられるレイヴ・パーティーは社会現象にもなった。この動きはリアルタイムで日本にも伝わり音楽誌を中心に大きく紹介された。

一方スコットランドのジーザス&メリーチェインが1985年にリリースした「サイコキャンディ」は耳をつんざくノイジーなギターと60年代キャンディ・ポップ風の甘いメロディで大きな話題となった。その影響でノイジーなギター+スウィート・ポップを奏でるバンドが次々登場しCreationレーベルを中心にひとつの流れを作っていった。マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ライド、ラッシュ、ペイル・セインツ、スワーヴドライヴァー 、スロウダイヴなどのサウンドは後にシューゲイザーと呼ばれシーンに大きな影響を与えることになる。ところが当時日本ではこれらのバンドがひとつの流れとして捉えられることはなく、総称としてのインディ・ロックの一部として紹介されていた。記憶ではマイブラよりもライド、ラッシュ、ペイル・セインツの方が評価が高くセールス的にも善戦したと思う。「シューゲイザー」という呼称が日本でいつ頃から使われるようになったのか当時の知り合いやフェイスブック友達の久保賢司氏に問い合わせたのだがはっきりしない。少なくともシューゲイザーを代表する名作とされるマイブラの「ラヴレス」が発売された1991年には一部のマニア以外はまだその呼称は使っていなかったことは間違いなさそうだ。

ところで最近のマイブラの記事で「当時は裸のラリーズと比較された」と書かれていてひっくり返ったのだが、これは丁度ラリーズの公認CD3タイトルの発売が同じ1991年だったことによる勘違いで、1960年代から活動する老舗バンドと結成5年余りのひよっこバンドを単にファズ・ギターという共通点だけで比較するのは、モーツァルトとビートルズのどちらが偉大かを解りやすいメロディという土俵で論ずるようなものでナンセンス極まりない。確かにラリーズ人気は海外のサイケ・マニアの間では古くから根付いていたようだから、ケヴィン・シールズが影響を受けていたのは事実かもしれないが。

話が逸れそうなので元に戻すと、「ラヴレス」(当時の邦題は「愛なき世界」!)は今言われているような高い評価は当時は得ていなかったと思う。それなのに1992年にハウス・オブ・ラヴとの武道館公演が発表になったときはマジかよ、と思った。同時期に同じスマッシュ主催でハッピー・マンデーズとビッグ・オーディオ・ダイナマイトIIの武道館公演が実現したが、案の定客席は半分も埋まっていなかった。だからマイブラ側の事情で来日中止になったのはスマッシュにとっても幸いだったのではないか。深読みするとこの"無茶振り武道館シリーズ"はスマッシュのフジロック構想の前哨戦だったのではなかろうか。最近になってバブル期に金にあかせて無理矢理開催され大失敗に終わったコンサートが「伝説のコンサート~」としてDVD発売されているのは当時を知る者にとってはお笑い草以外の何物でもない。

マイブラを始めとするシューゲイザーの特徴はノイジーなギターよりも甘いポップ・メロディにあるような気がする。特にマイブラに女性がふたりいてビリンダ・ブッチャーがケヴィンと男女ツイン・ヴォーカルを聴かせるところが彼らをエヴァーグリーンな存在にしている。久々にライドのCD「ノーホエア」を引っ張り出して聴いてみたのだが、時代がかったノスタルジーが感じられただけだった。私は最近のシューゲ系でもアソビ・セクスやリンゴ・デススターなど女性ヴォーカルのバンド以外には興味を持てない。

そもそもシューゲ・バンドのギターを"ノイズ"ギターと表現すること自体が誤解を招いている気がしてならない。ノイズとは私に言わせればホワイトハウスでありラムレーでありメルツバウでありインキャパシタンツである。ノイズ・ギターとはJOJO広重さんやソルマニアの演奏を指すのであって、シューゲ系の甘いメロディを引き立てるためのフィードバック・ギターを"ノイズ"と呼ぶのは間違いだと思う。例えば広重さんの参加したカヴァー・ユニット、スラップ・ハッピー・ハンフリーの音を聴いてみれば、意志のあるノイズ・ギターと、スタイルとしてのファズ・ギターの違いは歴然としている。と書いて来ると私がマイブラ批判をしているように誤解されるかもしれないが、シューゲイザーであろうがなかろうが、彼らがロックの歴史に残る革命的作品を産み出したことは事実として認めている。リマスター3タイトルをディスク・ユニオンで購入し特典収納ボックスを貰ってほくそ笑んでいるし、来年の来日公演のチケットも予約した。結局なんだかんだ言っても好きなのである。



マイブラや
ローゼズや
ハピマンまでも
再結成

何よりも楽しいのはマイブラをきっかけに当時の知り合いと思い出話に華が咲くことである。マイブラも「懐かしロック」の仲間入りだ。


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5 コメント

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懐かしい (Mickey)
2012-06-05 00:06:51
かつて熱狂して聴いたアーティストがたくさん^^
ジザメリ、マイブラ、ライド・・まさに青春です。
当時はシューゲイザーという呼称はありませんでしたよね。
60年代の甘いメロにフィードバック。たまりません。
リマスター盤買わなくちゃです。
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リバイバル・・・・・ ()
2012-06-05 00:09:22
ロック雑誌の表紙を見るとボウイ、マッカトニー、マイブラ・・・・・・ 本当に2012年かよと思います。しかもネタ切れなのか「○○○ベスト20」とかそんな特集ばかり。
90年代に刺激的であったバンドも今は年寄りの懐メロになる中、灰野敬二氏の音楽の強度は本当に凄いと最近ますます感じています。やはり別格です
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懐かしロック (miro)
2012-06-05 02:26:43
Mickeyさん
まさにMickeyさんの世代がドンピシャでしょうね。リマスター盤で甘~いメロディに浸って下さい。

辺さん
ロック雑誌の表紙が懐かし系に偏るのは今や紙の雑誌を買うのが年配者しかいないからではないですかね。若者はテレビとネットがあれば充分。CDも買わないですし。しかしフジロックのトリがストーン・ローゼズ、ノエル・ギャラガー、レディオヘッドというのも何だかな~ですね。
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Unknown ()
2012-06-05 22:32:11
ネガティブなことを書いてすいません。
miroさんの今回の日記はパンク以降に色んなバンドがどんどん出てきたワクワク感が表れていて、とても好きです。久保憲司氏のサイトも面白いですよね。以前から好きで読んでいました。
しかし、フジロックに不失者出ないんですかね?本当に不思議でなりません。


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不失者 (miro)
2012-06-06 01:39:20
辺さん
不失者(灰野さん)とスマッシュは決して無縁ではなく、スマッシュが招聘したサーストン・ムーアとジム・オルークとマッツ・グスタフソンによるディスカホリックス・アノニマス・トリオの来日公演のサポート予定でした。8/11で来日延期になり実現しませんでしたが…。何かきっかけがあればフジロックも夢じゃないと思いますよ。
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