錫半のちろりで出てくる熱燗は、白鹿の樽。
つぼ酒というのもあって、中身は同じだと思うが、平手造酒が飲む
みたいな壷に入って、冷蔵庫で寝かせたひや酒もある。
見てよ、この大根。べっこう色たぁこのことである。
右は平天にあらず、きくらげの入った白天。よく味が染み込んでいる。
そういうことを大阪弁では「味がしゅんでいる」という。
だしがジュッと沁み出そうで、こっちの方が感じが出てるだろう。
こちらのおでんには申し分ない。雰囲気もいかにもである。
久しぶりに、いたたまれない・・・という感覚に陥った。
何故そうなるのかというと、右のガンコな老女将がガミガミと口喧しく
店員を叱り倒すからだ。
「辛子そんなにいっぱい入れたら、こぼれる云うのがわからんか!」
「ほら、お湯がシュンシュン沸いてるで」
「お客さんが呼んではるで、返事は!」
「ほんまに使えへんわ。それでも使うてやってるのがわからんか」
店員は黙って耐える。よくブチ切れずに我慢してると思う。
オレならおでん鍋を持ち上げて、たぎったダシをおばはんの背中へ
ザ~ッ・・・と空けてしまいそうだ。
や、待てよ・・・
冷静に考えれば、そういうお約束事でやってるのかもしれない。そう、大向こうを意識しての狂言めいたものではないのか、という気がしてくる。なんせ、新歌舞伎座のお膝元、芝居めいた空気が流れ、虚々実々のゲイの店も多い一角だ。
いたたまれなくなっているこっちの顔色をうかがって、楽しんでいるのかもしれないぞ。
店閉めた深夜、「今日のあの客の顔色見たか?クッククク・・・」と
大笑いながら、明日の仕込みの串を打ってるのぢゃあるまいか。
まんまと罠に陥っているのかもしれぬ。
この一店だけ時間が止まっている。すきまっ風に足元は冷えるぞ。
でもそれが戦後すぐのような雰囲気だ。換気扇も真下は寒いぞ。
じゃがいもは気をつけて頼むように。1個ゴロッと出てきて、たちまち
腹いっぱいになる。
それと、なるべく左の方に座れよ。右の方だと、オレみたいな鼻の敏感なのは猫の気配でやられてしまうからな。
よろしければ、いたたまれなくなりに行ってみて下さい。
おでん「白蓮」 大阪市中央区難波4丁目
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