


バー「ルパン」。 若い頃、銭もないのに、自分の中の
織田作が欠乏した時にのこのこやってきた。

階段を下りて右へ曲がれば、もう店内。
ここには他の銀座のバーが醸し出す、緊張感やなんかが
まったく感じられず、ぽっと出の若造でも敷居をまたげた。

もうベテランバーテンダーの姿はなかった。
女将さんらしき人はなんとなく覚えている。
ここは知る人ぞ知る、林忠彦の写真で一躍有名になったバー。

スコッチのハイボールを所望すると、デュワーズ。
いいんではないか。
キュウリの塩漬けマリネみたいなお通し。

この席、見覚えがある人もあるだろう。
太宰治が大酔して編み上げ靴で写ってる写真だ。
林は、死の予感する流行作家、織田作之助を撮っておこうと、
ルパンに呼び出し、「オダばかり撮らずオレも撮れ!」と
なだれ込んできた、太宰も安吾も撮った。

この隅のカウンター。 太宰像でもっとも有名な一枚となった。

しかし、この肩の力の抜け方はどうだ。
クールとかサンスーシーなどのちょっとした緊張感が懐かしい。
それはこっちが相応に歳をとったということなのか。

そういった意味では、重厚なのは器だけで大阪のバーのようだ。
さて、夜の銀座へと繰り出しますかな…。