マーベラスS

King Of Western-Swing!!
歌と食と酒、それに声のページ。

日暮れの里

2009-07-30 02:42:27 | 


東京シリーズ続行。
日暮里駅周辺もガラリと変わった。 変わらないのはこの風景。







初音小路なんていう、小さな飲み屋街がある。





この奥、友人が連れて行ってくれた「C'EST QUI(セッキ)?」という店。これ誰?という意味か。実は関さんという女性がやっている。
こういう店があるところが街の懐の深さ。近所にあったら、風呂帰りに手ぬぐい片手に寄って、冷えたワインをキュッ・・・なんてやるだろう。





前菜の盛り合わせ  気取らない女将さん、気に入った。





オムレツライス(?) ちょいとキツネ色過ぎた。
でも実質的で安い、旨い。 中野からサックス吹きの友人も来た。

さて谷中・根津・千駄木、この一帯を通称“谷根千”とよぶ。
遊歩するには格別の楽しさがある。




テントが可愛い街の中華屋。



下町にゃ甘味処がつきもの。

お隣りはこんにゃく、寒天、ところ天を商う。



赤えんどうの塩茹でに寒天、黒みつ買えば、豆かんができる。
えんど豆を食いながら歩きたくなった。

ちくわぶ、東京だなぁ~
濃いおでんの汁で煮詰めて辛子で食うと、それなりに美味。



谷中銀座
谷中は古い寺院が多いから、大店舗の出店など叶わず、
いまだ小さな商店ががんばってる。そこがいい。



ほほぉ、肉屋の店頭に「谷中メンチ」とある。

そういえば、何かの番組で地井武男がメンチかじってるのを見た。



肉のサトー。取材された番組や色紙だらけ、これ逆効果なんだが。



まぁ、そう言わず食べておこうぢゃないか。谷中メンチ 150円。 

しかし、なんで東京ではメンチカツとナマる?




こんがり、ほの温かい。



一口ガブリッ。サクッとしてる。 ふむ…平均的メンチではないかいな。  

片手にメンチ、片手にカメラ、雑誌の袋ぶら下げ、肩からカバン、アゴで傘・・・まぁまぁ必死。我ながら怪しい姿だ。





数メートル行くと、おや、こっちにもメンチカツが・・・?

どっちが谷中銀座名物なんだか判らぬが、はずすわけにもいかない。





鈴木肉店の元気メンチカツ ¥200 購入。
しかし、持ち帰るわけにもいかない。





¥50の差か、かなり大判。アツアツをさっそく食おう。





衣はバリッという食感。ミンチは粒残し、大ぶりに挽いてある。
好みは分かれるだろうな。
かじりかけの2個のメンチを手に、商店街を行く。


  ・・・と、

またもメンチ。 1個¥100の大廉売。


谷中銀座はメンチの街というのはよ~く分かった。


だが、さすがにもう3個目は手が出なかった。





裏通りを歩きながら、残りのメンチをムシャムシャと食った。

さすがに、もたれた・・・。



おそれ入谷、まいりま下谷

2009-07-22 13:43:24 | 





そこへやっと行けたのは、おそれ入谷の鬼子母神の朝顔市の日だった。





長いこと東京にいながら、ついぞ朝顔市など縁がなかった。
大阪へ居を移してから行けるようになるなんて、不思議なもんだ。





根岸にあるこの居酒屋へは長いこと行きたかった。
「鍵屋」は江戸の昔から続く酒亭。





いかにもガンコを絵にしたような門構え。大正年間の建物。
元の江戸から続くしもた屋は、震災、戦災をかいくぐり、今、小金井市の江戸東京たてもの園にある。





朝顔市だし、混んでて入れないかもしれぬと友人におどされて行くと、
案の定混んでいて、ご亭主「ひと回りして来てください・・・」。
ひと回りって、何分がひと回りになるのか分らぬ。

朝顔市をひやかして、町内あちこち歩いて戻った時には
やっぱり空いてなくて、友人は「今日はダメだな、また来らぁ」と帰ろうとする。この辺が江戸っ子の引きの早いとこ。おいおい、冗談ぢゃないよぉ。こっちはそう安々とこれる立場ぢゃない。必死で食い下がる覚悟だったが、しばし待って、亭主、席を作ってくれた。そうこなくっちゃ。


お通しは、みそ豆でぇ。




こういうと、関西人はどこに味噌がくっついてんのかと探し回るだろうが、ただ茹でただけ、みそになる手前の大豆なんで、その名がある。
コスモポリタン(日本の)の我が家では、わりかしこれが食卓に乗った。
辛子醤油で食うと、ちょいとオツなもの。





冷奴  根岸はってぇと、笹の雪なんて豆腐料理屋があるぐらいだからきっと水もよかったんだろう。鶯谷っていうぐらい谷間だったし。
正岡子規が庵を結んでいた。文人が多かったんだ。三平とか…。




できますものは・・・冷奴、煮奴、たたみいわし、とりもつ鍋、とり皮なべ、大根おろし、合鴨塩焼き、味噌おでん、お新香、さらしくじら、もずく、かまぼこ、玉子焼き・・・以上。

きっぱりしてるね、どうも。限られた肴で呑む。自由な中にもストイックさがあるのが東京老舗居酒屋の粋さ。満ち足りちゃいけない。関西人ならば、あれも食べたいこれも食べたいと小皿並べて、メシ食ってんだか酒飲んでんだかわかんなくなる。(それも好きだが)

その辺、カチッと線引きするのが昔の居酒屋だ。粋(いき)とは痩せ我慢でもある。腹減ったなら家帰っておまんま食いな、というわけだ。





第一、とり皮やき、とりもつやき・・・はあっても、焼きとりはない。
うなぎくりから焼きはあっても、うなぎ蒲焼はない。このゲテ味がいいではないか。 この見事な引き算のアテのラインナップよ。
変に料理屋になろうとしないところが立派。




さらしくじら  関西では圧倒的に辛子酢味噌。ここは濃い甘味噌。

映画「居酒屋ゆうれい」でも、この「尾羽毛」が小道具として効いてた。
旨いような旨くないような、まったく霞食ってるような、酒を飲むようになって初めて旨くなってくる食べ物の一つだ。




経験上、いい老舗居酒屋には造り酒屋が配った美人画が何十年も
そこに飾ってあることが多い。何よりの装置である。
ちろりでつける燗酒は桜正宗、菊正宗…、純米だ吟醸だのあれこれ言わない。背の高い、白磁の徳利がスキッとしている。

ここはかつて女人禁制だった。今も女性同士は断られる。江戸から続けられちゃあフェミニストも文句言えめえ。
 




裸電球の色のやさしいこと。壁の衣紋掛けの浴衣に着替えて、兵児帯をサッと巻いて、トンと定位置に座ると、酒と小鉢の一つも出てくる。
くいっ・・・。窓の外からは虫の声。こたえられませんな。(てなことを、二階見上げて想像)


残念ながら、風流な根岸も様変わりであり、実はもう、このすぐ隣まで賃貸マンションが迫ってきている。
本当にこういう店はいつまでもそこにあって欲しい。まったく酒呑みの有形文化財なんですな。



              居酒屋 鍵屋    台東区根岸3丁目




木屋町たんたん

2009-07-19 00:56:33 | 


前菜はみごとな白鶏(パイチー)・ネギソースがけ。
素晴らしく肉厚! あっさりした中にもコクあり。




こちらの名物は、肉焼売。
一之船入、魏さんの実家は横浜中華街の「明揚(みんやん)」。
お父さんは華正楼の料理長を務めた後、独立された。
明揚は兄が継いでいるが、この焼売はないらしい。





肉団子の塊のようなギュッと肉の詰まった焼売。
原料は豚肉と玉ねぎだけ、10種類ほどの調味料が入る。
これには、奥さんお勧めの赤ワインがよく合う。




微発泡の赤のスプマンテ。
エミリア州、ランブルスコ・ヴィーノ・フリザンテ
濃い中華の肉料理には快適。





人気メニューの坦坦麵。ゴマとピーナッツのペーストがきいて
実に濃厚!ここまで濃いのはなかなか出合えない。





深い丼に入り、満足感あり!

帰りにちょいと川端通りにひっかかる。





大阪の赤垣屋とはまったくちがう。古い佇まいが素晴らしい。
奥には時間の止まった離れなんぞがある。
へぎに料理が並ぶ。これで値段が書いてあればいうことないが。





ここのカウンターで燗酒などやる気分はひとしお。

小鉢何品か取り、燗酒をやる。外はそぼ降る雨。

「おやじ、酒だ・・・」なんて侍が入ってきても不思議ではない感じ。






         「一之舟入」  中京区上木屋町

         「赤垣屋」   川端二条下ル



ダシ・タン・ブロード・フォン

2009-07-11 00:47:01 | 

過日、行われた関西食文化研究会の第1回セミナー。
テーマは「だしサミット」。それぞれのジャンルの有名料理人が実際に料理を作りながら、だしの役割に迫ってみようという試みである。
聴衆は私みたいなのもいるが、プロ100人。隣り合ったのは大阪のイタリアンのシェフだった。



まず、日本料理。「菊乃井」村田吉弘さんのデモンストレーション。
和の基本となるだし。昆布と鰹を掛け合わせることで単体でとるよりも6~8倍のうま味になるのは有名な話だ。村田さんは京大の伏木亨さんと組んで、このだしなるものに科学的に切り込もうとしている。


「こんなようけ鰹使いまんねんで」と村田さん


昆布だしでとった吸地を試飲。判りづらい。次に削り節をしゃぶってから試飲すると、なるほど、微量だがコクが増すのが解かる。
昆布(グルタミン酸)×鰹(イノシン酸)のうまみの構造は、何も日本料理の専売特許ではない。

たとえばトマトはグルタミン酸、パンチェッタはイノシン酸。イタリアンなどではこの構造でうま味を増幅させている。

昆布×鰹の代わりに同じイノシン酸の豚肉でとった潮汁でたいた高野豆腐を試食。これが豚肉?と信じがたい上品な味になっていた。つまりは昆布鰹の和だしが最高と信じ、師匠から言われるがままに愚直にだしをひいているだけでは既に遅れていて、今自分が何をしているのかということを学ばねば、世界的な料理の潮流に押し流されるだろう。

続いて中国料理。京都「一之舟入」の魏禧之さん。


中華にもだしとなる湯は多い。毛湯(マオタン・広東の鶏がらスープ)、清湯(チンタン・白湯に対する澄んだスープ)、頂湯(ティンタン・上湯とほぼ同じ)、上湯(シャンタン・金華ハム、ひね鶏、豚スネなど高級食材でとる)などなど。この日の魏さんは上湯(シャンタン)で勝負をかけてきた。


中国料理はうま味を重ねていくのだ、と魏さん。
台湾の婚礼などに出される「太平燕(タイピンエン)」春雨のスープ。
上湯+アサリ+金針菜(味が出る)、このスープに春雨を入れたもの。

良く煮込まれて、かなり味が濃い。これにおにぎり1個もらって、はい、これで今日の昼食と言われたっていける分量。





もう一品、ズッキーニを蒸して、上湯と共にミキサーに。
これを中華鍋にあけ、火を入れて行く。ミルクと自家製XO醤を加える。




このソースを敷いて、蒸した海老を乗せて、カラスミをあしらうと完成。
「上湯を使った大正エビのズッキーニとXO醤のピューレ仕立て」



こちらは試食用。カラスミはない。
こう見えてピリ辛で、味が濃い。
受講者の100人の中に中華をやってるのはたった2人とは、勿体ない。




イタリア料理からは、大阪「ジョバノット」の上村和世さん。
イタリアにはブロードというだしがある。




子牛のボッリート・ツナソースがけ
これだけで前菜の一品として成立する。上村さんが修行した
ピエモンテ州の煮込み料理。



土佐ジローの鶏がらでだしをとり、徹底的にアクをひき、ミルポワ(玉ネギ、セロリ、ニンジンなど)を加えて、味を整え、そこへ子牛を沈めてコトコトたいたもの。

紙コップまわってきて、ブロードを試飲。
パルメザン、黒コショウで味を締める。濃い。
村田さんは「すだち落としたい」 コルビさんは「このままでいい」


続いてパスタ。トリュフとアスパラガスのタリオリ-二




デモ用の皿ほどはサマートリュフは乗ってこないが、
ほんの少しずつでも健闘したといえる。香りが充満。
味がしっかりパスタにからんでいる。





しんがりはフレンチ、神戸北野ホテルの山口浩さん
かのロワゾーから信頼を勝ち得た、弟子。





作ったのは2種類のポトフー。早い話がおでん風煮込み。
ポトフーにも地方によってスタイルが違うそうで、牛だけじゃなく豚も
入る地方、カブが入る入らぬなど、地方性が出るのもおでんっぽい。
今回は、「ブルゴーニュ地方の伝統的なポトフー」。




牛バラ、スネ、骨髄、ポワロねぎ、インカのめざめ、ニンジン

ここまで来ると、おなかが苦しくなってきた。

最後は、ポトフのだしを煮凍りにして、一口で食べられるように
再構築した「ポトフー・ラフィネ(新しく洗練されたポトフー)」。



こげ茶色なのがスープ。皮は何の皮だったか忘れた。
これだけあれこれ試食できるセミナーってなかなかないね。
でも食べなければ始まらない。千の高説よりひとくちの方が有効。
関西食文化研究会、こんなことからでも交流が生まれ、閉塞感漂う関西の元気の源になれば面白いではないか。



京都純喫茶

2009-07-06 02:14:50 | 


南座のかへりに、一杯の珈琲求めて、四条の北側辺り。





古い店で昭和9年創業。趣味のいいクラシックが流れていた。
カタコンベのような暗く老朽化した店内だが、これは無造作に構えていてはこうは残らない代物で、時代に背を向け、確信犯のような頑固さなくしては生き残って来なかったと思われる。





店員は白のワイシャツにボウタイ。床のワックスの匂い。
椅子は木製のビロード張り。
すべて昔ふうを押し通している。
ここの珈琲は生クリームの入る、ウインナーコーヒー。
仄かに甘い。





青の時代のような喫茶店は「ソワレ」。
西木屋町の方に、グレーの制服もゆかしき「フランソワ」。
みな、一筋縄ではいかない、そこにあることによって街の落ち着きに
つながる名店ばかり。





古い喫茶店はそこの空気の一部になったように、じっとしていられる。
何にも考えずに、ただじっと。
そんな贅沢な時間の使い方ができる店。
ハイケンスのセレナーデが聴きたくなった。



           「築地」   京都市中京区河原町四条