過日、行われた関西食文化研究会の第1回セミナー。
テーマは「だしサミット」。それぞれのジャンルの有名料理人が実際に料理を作りながら、だしの役割に迫ってみようという試みである。
聴衆は私みたいなのもいるが、プロ100人。隣り合ったのは大阪のイタリアンのシェフだった。
まず、日本料理。「菊乃井」村田吉弘さんのデモンストレーション。
和の基本となるだし。昆布と鰹を掛け合わせることで単体でとるよりも6~8倍のうま味になるのは有名な話だ。村田さんは京大の伏木亨さんと組んで、このだしなるものに科学的に切り込もうとしている。
「こんなようけ鰹使いまんねんで」と村田さん
昆布だしでとった吸地を試飲。判りづらい。次に削り節をしゃぶってから試飲すると、なるほど、微量だがコクが増すのが解かる。
昆布(グルタミン酸)×鰹(イノシン酸)のうまみの構造は、何も日本料理の専売特許ではない。
たとえばトマトはグルタミン酸、パンチェッタはイノシン酸。イタリアンなどではこの構造でうま味を増幅させている。
昆布×鰹の代わりに同じイノシン酸の豚肉でとった潮汁でたいた高野豆腐を試食。これが豚肉?と信じがたい上品な味になっていた。つまりは昆布鰹の和だしが最高と信じ、師匠から言われるがままに愚直にだしをひいているだけでは既に遅れていて、今自分が何をしているのかということを学ばねば、世界的な料理の潮流に押し流されるだろう。
続いて中国料理。京都「一之舟入」の魏禧之さん。
中華にもだしとなる湯は多い。毛湯(マオタン・広東の鶏がらスープ)、清湯(チンタン・白湯に対する澄んだスープ)、頂湯(ティンタン・上湯とほぼ同じ)、上湯(シャンタン・金華ハム、ひね鶏、豚スネなど高級食材でとる)などなど。この日の魏さんは上湯(シャンタン)で勝負をかけてきた。
中国料理はうま味を重ねていくのだ、と魏さん。
台湾の婚礼などに出される「太平燕(タイピンエン)」春雨のスープ。
上湯+アサリ+金針菜(味が出る)、このスープに春雨を入れたもの。
良く煮込まれて、かなり味が濃い。これにおにぎり1個もらって、はい、これで今日の昼食と言われたっていける分量。
もう一品、ズッキーニを蒸して、上湯と共にミキサーに。
これを中華鍋にあけ、火を入れて行く。ミルクと自家製XO醤を加える。
このソースを敷いて、蒸した海老を乗せて、カラスミをあしらうと完成。
「上湯を使った大正エビのズッキーニとXO醤のピューレ仕立て」
こちらは試食用。カラスミはない。
こう見えてピリ辛で、味が濃い。
受講者の100人の中に中華をやってるのはたった2人とは、勿体ない。
イタリア料理からは、大阪「ジョバノット」の上村和世さん。
イタリアにはブロードというだしがある。
子牛のボッリート・ツナソースがけ
これだけで前菜の一品として成立する。上村さんが修行した
ピエモンテ州の煮込み料理。
土佐ジローの鶏がらでだしをとり、徹底的にアクをひき、ミルポワ(玉ネギ、セロリ、ニンジンなど)を加えて、味を整え、そこへ子牛を沈めてコトコトたいたもの。
紙コップまわってきて、ブロードを試飲。
パルメザン、黒コショウで味を締める。濃い。
村田さんは「すだち落としたい」 コルビさんは「このままでいい」
続いてパスタ。トリュフとアスパラガスのタリオリ-二
デモ用の皿ほどはサマートリュフは乗ってこないが、
ほんの少しずつでも健闘したといえる。香りが充満。
味がしっかりパスタにからんでいる。
しんがりはフレンチ、神戸北野ホテルの山口浩さん
かのロワゾーから信頼を勝ち得た、弟子。
作ったのは2種類のポトフー。早い話がおでん風煮込み。
ポトフーにも地方によってスタイルが違うそうで、牛だけじゃなく豚も
入る地方、カブが入る入らぬなど、地方性が出るのもおでんっぽい。
今回は、「ブルゴーニュ地方の伝統的なポトフー」。
牛バラ、スネ、骨髄、ポワロねぎ、インカのめざめ、ニンジン
ここまで来ると、おなかが苦しくなってきた。
最後は、ポトフのだしを煮凍りにして、一口で食べられるように
再構築した「ポトフー・ラフィネ(新しく洗練されたポトフー)」。
こげ茶色なのがスープ。皮は何の皮だったか忘れた。
これだけあれこれ試食できるセミナーってなかなかないね。
でも食べなければ始まらない。千の高説よりひとくちの方が有効。
関西食文化研究会、こんなことからでも交流が生まれ、閉塞感漂う関西の元気の源になれば面白いではないか。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます