義姉から「うちのおとうさんの将棋の相手をしに、遊びに来てくれない」と言うお誘いをもらったのは1ヶ月ほど前のこと。
久しぶりに、次兄の家に小生・弟夫婦でおじゃまする。
奥の部屋には、既に囲碁と将棋がセットされていた。
昼食を済ませて、早速対局を開始。
第1局 小生VS弟
久々の兄弟将棋対局は、先ず、小生VS弟で始まり、小生が終始苦戦の将棋を大逆転で拾い、勝ち上がって、いよいよ次兄との対局になった。
第2局 小生VS次兄
将棋は小生の先手、次兄の振り飛車で始まった。
次兄との将棋の思い出は、いっぱいある。
4人兄弟のうち弟を除く3人は、おやじからそれぞれ将棋の手ほどきを受けた。
兄弟の中で次兄は、小さい時から物怖じしない性格で、腕白で、無鉄砲で、大の負けず嫌い、そして、物事に『熱中』するタイプで、特に将棋にはすっかり「ハ マって」しまい、おやじや長兄相手では物足らず、自分で将棋の定石本を買ってきては、一人熱心に研究し、また、自分の力を試すべく、強い相手を求めて近所 の大人達に他流試合を挑むなどして、兄弟の中で抜きん出て強くなった。
小生は、そんな次兄の『腰ぎんちゃく』として、いつも次兄の指す将棋を隣で見ていた。(ちなみに、小生と次兄は3歳年が離れている)
将棋は、小生が急戦を仕掛け、序盤から険しい局面になった。
しかし、まだ、まだ会話を交わす余裕は、双方共に十分にある。
『昔さ、U商店に兄貴はよく将棋を指しに行ったよね。あれは、兄貴が中学生になったばかりの頃だったかね。』
『そんな頃だったかねえ、あそこのおやじさんは強かったな。最初は、歯が立たなかったよ。あのおやじさんには、大分鍛えられたよ。』
『近所のKさんともよく指していたよね。』
『そうだね、でも、あの人は自己流で定石など知らなかった。最初は負けたけど、慣れてきたらもう負けなかったよ。』
『兄貴は覚えているかな。Kさんと指している時、兄貴が香車の田楽刺しで「飛車とり王手」をかけて、<どうだ、一本とってやったぜ>と俺の方を得意げに振り向いたのを。』
『・・・・・・・・・・・・・・・。』
当人が覚えていないようなシーンをどうして小生が今でも鮮明に覚えているのか、何とも不思議であるが、多分、兄貴の横にちょこんと座って、物怖じせずに大 人たちと互角に将棋を指している兄貴の姿は、小さな小生から見ればとても大きく、頼もしく写り、『兄貴はすげえ!』、『カッコいい!』と「畏敬」の念を 持って見ていたせいかもしれない。
ともかく、次兄は小生が小さい時から強烈な影響力を与え続ける存在であった。
そして、小生はと言えば、「お前も、いっちょ教えてもらうか」と兄貴に勧められても、「俺は、いいよ」としり込みしてしまうタイプで、兄貴とは対照的な性格であった。
将棋は、中盤戦の難しい局面を迎える
将棋は、小生の仕掛けた急戦が功を奏して、局面は小生に有利に展開しつつあった。
次兄が、じっと考え込む場面が多くなった。
考え込んでいる次兄を見ながら、昔は、この兄貴には絶対勝てなかったことを思い出していた。
小生も長ずるにつれて、実力においては次兄と伯仲するぐらいのレベルまで将棋の腕前を上げていたが、小さい時に次兄に対して持っていた『畏敬』の念が、い つしか『自縄自縛』というマイナス面に作用して、すでに戦う前から気持ちの面で遅れをとってしまい、実力を発揮する間もなく、負けてしまうのが常であっ た。
それだけに、時たま勝った時などは、うれしくて、うれしくて笑いをかみ殺すのに苦労するぐらい大喜びしたものであった。
将棋は、終盤にさしかかり小生の必勝の局面となっていた。
そして将棋は、終局を迎えた。
『うん、これまでだ。』
と次兄が投了を告げ、小生も
『どうも』
と返して、終局となった。
さすがに、今では次兄に気後れすることなく、平常心で指せるようになり、それにつれ勝つ回数も多くなった。
しかし、ずっと以前に味わった『強い兄貴』を負かして、うれしくて、こみあげてくる笑いをかみ殺すのに苦労したような喜び、感激は最早そこになかった。
終局の局面をじっと見つめる次兄を見て、『強い兄貴』、『勝てっこない存在の兄貴』がどこか遠い存在になってしまったように思えて、兄貴には、いつまでも『見上げる存在』、『目標にする存在』であり続けて欲しいと願わずにはいられなかった。
久しぶりに、次兄の家に小生・弟夫婦でおじゃまする。
奥の部屋には、既に囲碁と将棋がセットされていた。
昼食を済ませて、早速対局を開始。
第1局 小生VS弟
久々の兄弟将棋対局は、先ず、小生VS弟で始まり、小生が終始苦戦の将棋を大逆転で拾い、勝ち上がって、いよいよ次兄との対局になった。
第2局 小生VS次兄
将棋は小生の先手、次兄の振り飛車で始まった。
次兄との将棋の思い出は、いっぱいある。
4人兄弟のうち弟を除く3人は、おやじからそれぞれ将棋の手ほどきを受けた。
兄弟の中で次兄は、小さい時から物怖じしない性格で、腕白で、無鉄砲で、大の負けず嫌い、そして、物事に『熱中』するタイプで、特に将棋にはすっかり「ハ マって」しまい、おやじや長兄相手では物足らず、自分で将棋の定石本を買ってきては、一人熱心に研究し、また、自分の力を試すべく、強い相手を求めて近所 の大人達に他流試合を挑むなどして、兄弟の中で抜きん出て強くなった。
小生は、そんな次兄の『腰ぎんちゃく』として、いつも次兄の指す将棋を隣で見ていた。(ちなみに、小生と次兄は3歳年が離れている)
将棋は、小生が急戦を仕掛け、序盤から険しい局面になった。
しかし、まだ、まだ会話を交わす余裕は、双方共に十分にある。
『昔さ、U商店に兄貴はよく将棋を指しに行ったよね。あれは、兄貴が中学生になったばかりの頃だったかね。』
『そんな頃だったかねえ、あそこのおやじさんは強かったな。最初は、歯が立たなかったよ。あのおやじさんには、大分鍛えられたよ。』
『近所のKさんともよく指していたよね。』
『そうだね、でも、あの人は自己流で定石など知らなかった。最初は負けたけど、慣れてきたらもう負けなかったよ。』
『兄貴は覚えているかな。Kさんと指している時、兄貴が香車の田楽刺しで「飛車とり王手」をかけて、<どうだ、一本とってやったぜ>と俺の方を得意げに振り向いたのを。』
『・・・・・・・・・・・・・・・。』
当人が覚えていないようなシーンをどうして小生が今でも鮮明に覚えているのか、何とも不思議であるが、多分、兄貴の横にちょこんと座って、物怖じせずに大 人たちと互角に将棋を指している兄貴の姿は、小さな小生から見ればとても大きく、頼もしく写り、『兄貴はすげえ!』、『カッコいい!』と「畏敬」の念を 持って見ていたせいかもしれない。
ともかく、次兄は小生が小さい時から強烈な影響力を与え続ける存在であった。
そして、小生はと言えば、「お前も、いっちょ教えてもらうか」と兄貴に勧められても、「俺は、いいよ」としり込みしてしまうタイプで、兄貴とは対照的な性格であった。
将棋は、中盤戦の難しい局面を迎える
将棋は、小生の仕掛けた急戦が功を奏して、局面は小生に有利に展開しつつあった。
次兄が、じっと考え込む場面が多くなった。
考え込んでいる次兄を見ながら、昔は、この兄貴には絶対勝てなかったことを思い出していた。
小生も長ずるにつれて、実力においては次兄と伯仲するぐらいのレベルまで将棋の腕前を上げていたが、小さい時に次兄に対して持っていた『畏敬』の念が、い つしか『自縄自縛』というマイナス面に作用して、すでに戦う前から気持ちの面で遅れをとってしまい、実力を発揮する間もなく、負けてしまうのが常であっ た。
それだけに、時たま勝った時などは、うれしくて、うれしくて笑いをかみ殺すのに苦労するぐらい大喜びしたものであった。
将棋は、終盤にさしかかり小生の必勝の局面となっていた。
そして将棋は、終局を迎えた。
『うん、これまでだ。』
と次兄が投了を告げ、小生も
『どうも』
と返して、終局となった。
さすがに、今では次兄に気後れすることなく、平常心で指せるようになり、それにつれ勝つ回数も多くなった。
しかし、ずっと以前に味わった『強い兄貴』を負かして、うれしくて、こみあげてくる笑いをかみ殺すのに苦労したような喜び、感激は最早そこになかった。
終局の局面をじっと見つめる次兄を見て、『強い兄貴』、『勝てっこない存在の兄貴』がどこか遠い存在になってしまったように思えて、兄貴には、いつまでも『見上げる存在』、『目標にする存在』であり続けて欲しいと願わずにはいられなかった。