折々の記

日常生活の中でのさりげない出来事、情景などを写真と五・七・五ないしは五・七・五・七・七で綴るブログ。

ドキュメント・『ザ・株主総会』①

2006-10-14 | 仕事・職場
これは、今から20年以上も前、「総会屋」と呼ばれ人種が跋扈していた時代のドキュメンタリーである。

株主総会招集通知



第1回  水面下での戦い その1 質問状の山に「徹夜」で対応


<株付け>

「今期の新規の株付けの状況はどう?」と上司のS課長

「いやあ、参りました。性質の悪い連中が、わんさと株付けしています。これは、非常事態です、すぐに対策を練らないと・・・・。」

証券代行会社から送られてきた全株主名簿を繰りながら、小生はうめき声を上げていた。

総会屋が株主総会に出席するために当該会社の株式を購入し、株主名簿に氏名を登録することを業界用語では、総会屋が「株付け」をすると言っている。
それは、「株主総会に出席して発言するぞ」との予告と受け止められている。

株主総会の担当者は、会社の決算期日が過ぎ、その期の株主名簿が作成されると、真っ先にこの新規の株付け状況をチェックする。

「見てくださいよ、あちこちの総会で発言を繰り返している、売出し中の奴ばかりが、こんなにもいます。」と株主名簿からピックアップした一覧表を手渡す。

リストの中には、12時間30分にも及んだS社のロングラン総会で入れ替わり立ち代り質問を繰り返した総会屋グループの名前も数多く含まれている。

「ウーム、これは!!・・・・。今回は、社長にも腹を括ってもらわないと」とS課長。

容易ならぬ事態であり、一丸となって取り組まないととんでもないことになりかねない。直ちに、総務部を中心に本社の各部門からスタッフが選抜され、「事務局」が発足、総会屋対策がスタートした。



<質問状>


株主総会の招集通知は、総会日の2週間前に株主に送ることになっている。
株付けをした総会屋は、それまでに会社に顔を出し、会社側のそれなりの対応を探っていくのが普通だが、今回は不気味なほどに全く動きがない。

「あいつら、やる気だ」事務局のメンバー全員が『臍』を固めた。

想定問答集の作成、新規に株付けした総会屋の他社での発言内容の収集と分析、経営陣に対する情報の提供、顧問弁護士との打ち合わせ等々、当面打てる対策を着実に実施していく。

「来てます、いっぱい来てます。」部下が内容証明郵便物を手に、興奮している。

株主総会招集通知が株主に届き、それをもとに総会屋が「質問状」を送りつけて来たのである。
これまでにも、質問状は何通か来たことがあったが、今回のように沢山の質問状が、波状的に送られてきたのは、初めてである。

質問状に対する回答は、原則それぞれの部門が対応することになっているが、相手が総会屋だけに、揚げ足を取られないような慎重な言い回しが求められるため、事務局の責任者であるS課長と小生が最終チェックをしている。(この言わば、官僚的な文章を書くには、ちょっとしたノウハウが要求されるのであるが・・・・・)


「また、質問状が来ているのですが・・・。」と担当者が、おずおずと1通の内容証明郵便物を手に事務局の部屋に入ってきた。総会日まで、後2日と言うギリギリのタイミングでの70問余の質問は、嫌がらせ以外の何ものでもない。

昨日送られてきた質問状の回答を仕上げ、一息ついて「もう、来ないだろう」と皆が思っていた矢先の質問状の到着に、これではきりがないとメンバー全員がいきり立った。

S課長が決断する。「質問状への対応は、この質問状を最後とする、明日質問状が届いてもそれは無視する。これが最後だ、もうひと踏ん張り頼む」と。

結局、この最後の質問状への回答が出来上がった時は深夜を過ぎ、終電もなくなり、皆、タクシーで帰宅し、シャワーを浴び、着替えをして、すぐに出勤という超ハードな勤務となった。