ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『夜のピクニック』

2006-06-21 23:03:12 | 新作映画
「みんなで夜歩く。
ただそれだけなのに、
どうしてこんなに特別なんだろう。」

----おおっ。いきなりだね。ニャにそれ?
「うん。恩田陸のベストセラー『夜のピクニック』の映画化。
1000人一緒に24時間を徹して、
80キロを歩く伝統行事『歩行祭』を背景にした高校生たちの物語なんだ」

----あらら、またまたノスタルジーモードですニャ?
「いや、そうじゃないよ。
この映画の素晴らしいところは
いままさしく『そこにある』青春を描いているところ。
映画そのものが青春しているんだ。物語は次のような流れで語られる。
今年で最後の歩行祭を迎える甲田貴子(多部未華子)。
この特別な夜、彼女は密かに賭けをしていた。
それは、一度も話したことのない
クラスメイトの西脇融(石田卓也)に話しかけるということ」

----ニャんだ、告白の物語か……?
「ぼくもそう思っていた。
しかし、そんな簡単な話じゃないんだな。
でも、彼女の周りの友人や卓也の友人も
<告白>によってふたりを近づけようと<勘違い>している。
と言うのも、ふたりはふだんから意識しすぎていて
かえってよそよそしいのが、
だれの目にも明らか。
そこに、ニューヨークに越してしまった
親友・杏奈(加藤ローサ)の絵はがきに書かれた“おまじない”の言葉、
その杏奈の弟(池松壮亮)の出現、
さらには彼氏が絶えないことで有名な内堀亮子(高部あい)の融へのアプローチなど、
さまざまなことがらが交錯。
ゴールと言うタイムリミットへ向かって時が過ぎてゆく」

----でも80キロも歩くんだったら、
みんなおしゃべりしていても最後は疲れて
口も利けなくなるんじゃニャいの?
「そう。空が暮れなずみ、暗闇が訪れ、
そして白々とあけてゆく……。
その時間の推移による変化がこの映画にはよく出ていた。
最初のざわざわとした高揚感が次第に消え失せ、
疲労の色が濃くなってゆく。
そしてヒロイン貴子の場合は、
さらにそこにタイムリミットへ向けての焦燥感が加わる。
プレスによるとクランクイン前にスタッフ&主要キャスト約30名で
60キロを20時間かけて歩き、実体験を兼ねた役作りを行なったらしい。
しかも1000人のエキストラに
1000通りのキャラクター設定をしたとか」

----さっきノスタルジーじゃないと言っていたけど?
「うん。よく『あ~いま思えば、あれが青春だったな』という感じの映画があるけど、
本来<青春>と言うのは、
そのさなかで感じてこそ真の幸福感が味わえるものだと思う。
この映画は、登場人物たちがその<青春ど真ん中>を実感し、何度も口にする。
だからこそゴールの寸前に口を出るのは
『最後の青春するぞ』」

----多部未華子の演技はどうだった?
この一年、最も高く買っている女優だよね。
「いやあ、さすが多部未華子だね。
ゴールイン直後の表情は長く目に焼き付いて離れない。
この24時間を通して
周りのあたたかい友情を知り、自分の賭けにも勝った貴子。
幸福感に包まれたその顔は涙でくしゃくしゃになる。
多部未華子はこの<涙>の意味をよく分かっている」

----ふうん。でも告白じゃないとしたら何なんだろう?
原作を読んでいる人はすでに知っているわけだよね?
「うん。そういうことになるね。
ぼくは原作を読まずに映画に接したわけだけど、
この<原作と映画>の問題はあいかわらず悩ましいね。
以下は、原作が秘密をどこで明らかにするのかを知らずに喋るわけだけど、
すでに本を読んでいる人は
秘密を抱えて歩いている貴子の心に寄り添いながら
彼女の表情を追ってみると言うのはどうだろう?
改めて多部未華子の演技力が分かるかも」

----ニャるほど。監督は長澤雅彦だっけ?
「うん。『青空のゆくえ』に続いての
すてきな青春映画のプレゼント。
ただ、惜しむらくは
浜辺に寄せる波の音、畦道の蛙の声など
もう少し周囲の音を取り入れてほしかった気が…。
せっかく自然の風景を捉えているんだから」


          (byえいwithフォーン)

青空のゆくえ ZMBJ-2577青空のゆくえ ZMBJ-2577
※長澤雅彦監督&多部未華子、さらにはこの映画にも出ている西原亜希も出演しています。

※すてきな一夜だ度
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