ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『花よりもなほ』

2006-02-11 21:35:25 | 新作映画
----これは『誰も知らない」で
一躍時の人となった是枝裕和監督の新作。
時代劇と言うことでまたまた注目を集めているんだよね。
もうできあがっていたんだ。
でもこのタイトルどういう意味?
「『忠臣蔵』のお話は知っているよね。
これは、その中で浅野内匠頭が読んだ辞世の句
『風さそふ 花よりもなほ 我はまた
春の名残を いかにとかせむ』から採っているんだ」

----ふうん。ということは赤穂浪士のお話?
「いや、確かに彼らも幾人かは出てくるけど、
主人公は父の仇討ちをするべく、
上京して仇を探すために長屋に潜んでいる青木宗左衛門(岡田准一)。
映画は、彼とその周りの長屋に住む市井の人々の人間模様を描いていく。
当時は仇討ちが江戸幕府によって法制化され、
合法的な殺人として認められていた。
藩によっては
報奨金を出して仇討ちを奨励するケースも見られたらしい」

----へぇ~。信じられない話だニャ。
長屋の映画と言うと山中貞雄の『人情紙風船』が有名だよね。
「うん。あと黒澤明にも『どん底』がある。
この作品には、
その黒澤や溝口健二の時代劇で現場に携わった馬場正男が
美術に加わっているだけあって、
あまりにも完璧な長屋のセットには目を見張ること間違いないよ」

----ニャるほどね。で、その仇役は?
「浅野忠信がやっている。
実は、宗左衛門はずいぶん前に
この仇・金沢十兵衛を見つけているんだけど、
腕に自身がなく、しかも血を見るのも弱いものだから、
なかなか仇討ちの踏ん切りがつかないんだ。
そこで彼は長屋では、そろばんや読み書きを教えている」

----キャスティングを見たところ喜劇色が強いようだけど?
「うん。脚本的には笑いを取ろうとしている箇所が
いくつも見受けられたね。
いわゆる緊張感やサスペンスで描くのではなく、
恋あり、笑いあり、涙ありのドラマになっている」

----恋もするの?
「主人公がいわゆるヒーロー・タイプでないだけに、
はっきりとした意思表示は見られないけどね。
彼が密かな思いを寄せる相手は未亡人で子連れの、おさえ。
これは宮沢りえが演じているんだけど、
長屋のおのぶを演じる田畑智子と二人で、
普段は絶対に口にしないような言葉『●○』を連発するのには、
少々驚いたね」

----へぇ~っ。
ところで、その腕が弱い主人公は仇討ちどうするの?
「そこがある意味、
スピルバーグ『ミュンヘン』で残された課題の回答にもなっている」

----こりゃまた大胆な…?
「つまり仇討ち=復讐の連鎖を
『貧しく。剣が弱く、逃げ足が速い』宗左衛門が、いかにして止めるか……?
だって、ここで彼が仇討ちに成功しても
また自分がその縁者に仇として狙われるわけだからね。
おさえが呟く言葉の中にも
『お父上の人生が宗左さんの残したものが
憎しみだけだとしたら、寂しすぎます…』というのがある。
もちろん、これは寓話だから
現代の世界情勢にピッタリ当てはめるのは無理があるけど…」

----ふうん。そうか意外と現代的なテーマになっているわけだ。
「そう。この映画は
『武士道とは死ぬことと見つけたり』の『葉隠』とは対極にある。
いわゆる、主義や思想に殉ずるのではなく
『どんなことがあっても生きていようよね』という考え方」

----70年代にはよくそういう歌があったっけ。
加川良、北炭夫、早川義男……。
「フォーンはいくつなんだ(笑)。
そう言えばこの映画は、
これまでの是枝作品と違ってアップがとても多い。
それも個人主義を強く打ち出したそのテーマゆえんかもね」

               (byえいwithフォーン)

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