----これは『誰も知らない」で
一躍時の人となった是枝裕和監督の新作。
時代劇と言うことでまたまた注目を集めているんだよね。
もうできあがっていたんだ。
でもこのタイトルどういう意味?
「『忠臣蔵』のお話は知っているよね。
これは、その中で浅野内匠頭が読んだ辞世の句
『風さそふ 花よりもなほ 我はまた
春の名残を いかにとかせむ』から採っているんだ」
----ふうん。ということは赤穂浪士のお話?
「いや、確かに彼らも幾人かは出てくるけど、
主人公は父の仇討ちをするべく、
上京して仇を探すために長屋に潜んでいる青木宗左衛門(岡田准一)。
映画は、彼とその周りの長屋に住む市井の人々の人間模様を描いていく。
当時は仇討ちが江戸幕府によって法制化され、
合法的な殺人として認められていた。
藩によっては
報奨金を出して仇討ちを奨励するケースも見られたらしい」
----へぇ~。信じられない話だニャ。
長屋の映画と言うと山中貞雄の『人情紙風船』が有名だよね。
「うん。あと黒澤明にも『どん底』がある。
この作品には、
その黒澤や溝口健二の時代劇で現場に携わった馬場正男が
美術に加わっているだけあって、
あまりにも完璧な長屋のセットには目を見張ること間違いないよ」
----ニャるほどね。で、その仇役は?
「浅野忠信がやっている。
実は、宗左衛門はずいぶん前に
この仇・金沢十兵衛を見つけているんだけど、
腕に自身がなく、しかも血を見るのも弱いものだから、
なかなか仇討ちの踏ん切りがつかないんだ。
そこで彼は長屋では、そろばんや読み書きを教えている」
----キャスティングを見たところ喜劇色が強いようだけど?
「うん。脚本的には笑いを取ろうとしている箇所が
いくつも見受けられたね。
いわゆる緊張感やサスペンスで描くのではなく、
恋あり、笑いあり、涙ありのドラマになっている」
----恋もするの?
「主人公がいわゆるヒーロー・タイプでないだけに、
はっきりとした意思表示は見られないけどね。
彼が密かな思いを寄せる相手は未亡人で子連れの、おさえ。
これは宮沢りえが演じているんだけど、
長屋のおのぶを演じる田畑智子と二人で、
普段は絶対に口にしないような言葉『●○』を連発するのには、
少々驚いたね」
----へぇ~っ。
ところで、その腕が弱い主人公は仇討ちどうするの?
「そこがある意味、
スピルバーグ『ミュンヘン』で残された課題の回答にもなっている」
----こりゃまた大胆な…?
「つまり仇討ち=復讐の連鎖を
『貧しく。剣が弱く、逃げ足が速い』宗左衛門が、いかにして止めるか……?
だって、ここで彼が仇討ちに成功しても
また自分がその縁者に仇として狙われるわけだからね。
おさえが呟く言葉の中にも
『お父上の人生が宗左さんの残したものが
憎しみだけだとしたら、寂しすぎます…』というのがある。
もちろん、これは寓話だから
現代の世界情勢にピッタリ当てはめるのは無理があるけど…」
----ふうん。そうか意外と現代的なテーマになっているわけだ。
「そう。この映画は
『武士道とは死ぬことと見つけたり』の『葉隠』とは対極にある。
いわゆる、主義や思想に殉ずるのではなく
『どんなことがあっても生きていようよね』という考え方」
----70年代にはよくそういう歌があったっけ。
加川良、北炭夫、早川義男……。
「フォーンはいくつなんだ(笑)。
そう言えばこの映画は、
これまでの是枝作品と違ってアップがとても多い。
それも個人主義を強く打ち出したそのテーマゆえんかもね」
(byえいwithフォーン)
※生きていようよね度
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☆「CINEMA INDEX」☆「ラムの大通り」タイトル索引
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一躍時の人となった是枝裕和監督の新作。
時代劇と言うことでまたまた注目を集めているんだよね。
もうできあがっていたんだ。
でもこのタイトルどういう意味?
「『忠臣蔵』のお話は知っているよね。
これは、その中で浅野内匠頭が読んだ辞世の句
『風さそふ 花よりもなほ 我はまた
春の名残を いかにとかせむ』から採っているんだ」
----ふうん。ということは赤穂浪士のお話?
「いや、確かに彼らも幾人かは出てくるけど、
主人公は父の仇討ちをするべく、
上京して仇を探すために長屋に潜んでいる青木宗左衛門(岡田准一)。
映画は、彼とその周りの長屋に住む市井の人々の人間模様を描いていく。
当時は仇討ちが江戸幕府によって法制化され、
合法的な殺人として認められていた。
藩によっては
報奨金を出して仇討ちを奨励するケースも見られたらしい」
----へぇ~。信じられない話だニャ。
長屋の映画と言うと山中貞雄の『人情紙風船』が有名だよね。
「うん。あと黒澤明にも『どん底』がある。
この作品には、
その黒澤や溝口健二の時代劇で現場に携わった馬場正男が
美術に加わっているだけあって、
あまりにも完璧な長屋のセットには目を見張ること間違いないよ」
----ニャるほどね。で、その仇役は?
「浅野忠信がやっている。
実は、宗左衛門はずいぶん前に
この仇・金沢十兵衛を見つけているんだけど、
腕に自身がなく、しかも血を見るのも弱いものだから、
なかなか仇討ちの踏ん切りがつかないんだ。
そこで彼は長屋では、そろばんや読み書きを教えている」
----キャスティングを見たところ喜劇色が強いようだけど?
「うん。脚本的には笑いを取ろうとしている箇所が
いくつも見受けられたね。
いわゆる緊張感やサスペンスで描くのではなく、
恋あり、笑いあり、涙ありのドラマになっている」
----恋もするの?
「主人公がいわゆるヒーロー・タイプでないだけに、
はっきりとした意思表示は見られないけどね。
彼が密かな思いを寄せる相手は未亡人で子連れの、おさえ。
これは宮沢りえが演じているんだけど、
長屋のおのぶを演じる田畑智子と二人で、
普段は絶対に口にしないような言葉『●○』を連発するのには、
少々驚いたね」
----へぇ~っ。
ところで、その腕が弱い主人公は仇討ちどうするの?
「そこがある意味、
スピルバーグ『ミュンヘン』で残された課題の回答にもなっている」
----こりゃまた大胆な…?
「つまり仇討ち=復讐の連鎖を
『貧しく。剣が弱く、逃げ足が速い』宗左衛門が、いかにして止めるか……?
だって、ここで彼が仇討ちに成功しても
また自分がその縁者に仇として狙われるわけだからね。
おさえが呟く言葉の中にも
『お父上の人生が宗左さんの残したものが
憎しみだけだとしたら、寂しすぎます…』というのがある。
もちろん、これは寓話だから
現代の世界情勢にピッタリ当てはめるのは無理があるけど…」
----ふうん。そうか意外と現代的なテーマになっているわけだ。
「そう。この映画は
『武士道とは死ぬことと見つけたり』の『葉隠』とは対極にある。
いわゆる、主義や思想に殉ずるのではなく
『どんなことがあっても生きていようよね』という考え方」
----70年代にはよくそういう歌があったっけ。
加川良、北炭夫、早川義男……。
「フォーンはいくつなんだ(笑)。
そう言えばこの映画は、
これまでの是枝作品と違ってアップがとても多い。
それも個人主義を強く打ち出したそのテーマゆえんかもね」
(byえいwithフォーン)
※生きていようよね度
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『SPIRIT/スピリット』との関連など興味深く読ませていただきました。
「暴力のむなしさ」について共通する部分がありそうですね。
残念ながら未見ですので、こちらのエントリーなどで勉強しました。
>どんなことがあっても生きていようね
という、自分が死なないことと同時に
どんなことがあっても殺生はいけないというか
自分と同時に相手をも尊重するというところに
ポイントがあるような気がします。
ではフォーンさんによろしく?
コメントありがとうございます。
(フォーンへのご伝言も)
そうですね
確かに「自分が死なない」ことばかりに目が行ってしまっていました。
ただ「殺生はいけない」……これは『SPIRIT/スピリット』の方が
強く出ていたと思います。
それはやはり腕に自身がある者とない者の違いかもしれませんね。
久しぶりに市井の人々が主人公の、良質な時代劇を観た気がします。
美術、衣装などビジュアルを支えるスタッフの仕事は、実に素晴しい物でした。
こういう作品はもっと作られて欲しいですね。
『人情紙風船』は何度観ても戦慄が走ります。
あれに比べたら、これはのどかな作品とは思いますが、
この時代、こんな長屋ものが生まれたことだけでも嬉しいですよね。
何の知識もなく見たので、えいさんの解説で
なるほど~と思いました。
役者たちはもちろんのこと、美術と衣装の
センスの良さに目を見張りました!
書店でも、映画のメイキング本を立ち読みし
欲しいなと思っております。
日本映画にはやはり素晴らしい伝統があると思います。
新しい世代の監督たちが
その伝統を自らの映画に取り込んでいくさまを見るのは
とても嬉しいですよね。
『花よりもなほ』、やっとこ観ました。
えいさんが書かれている様に、
復習の連鎖への警笛として観れました。
黒沢明の『どん底』風の長屋話しも、
きっと黒沢レスペクトなのだなと思っていたら、
衣装美術は黒沢和子さんでした。納得。
もう一つの一分を語る時代劇も良いものですね。
こういう長屋ものを作ろうという
その発想が常人とは違いますよね。
周りも彼に作らせちゃう。
でもこれもカンヌ効果なのかも?
パターン化されずに
いろんな映画が生まれてくるといいですよね。