大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第21回

2013年08月09日 14時14分34秒 | 小説
『みち』 目次

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『みち』 ~未知~  第21回



「お通夜はいつなのかしら? えっとカレンダーに書いてあったかしら・・・」 大安、友引が引っかかると通夜、葬儀がずれるであろうと思いカレンダーを見ようとすると。

「あ、明日です。 明日がお通夜で明後日が葬儀です。 先輩どうします?」

「うん。 明日は会社がお休みだから お通夜だけ行かせてもらって 葬儀は止めておくわ」

「そうですか えっと、お通夜は6時からだそうで お仏前って言うんですか? よく分からないけど お金はお断りのようです。 場所なんですけど 課長の家って会社の近くだったから 会社の近くに葬儀場があったじゃないですか」

「あの大通りから入って角の所の?」

「そうです、そうです そこです。 私、明日 休日出勤になっちゃってて先輩と一緒に行けないけど 葬儀場で逢えると思います」

「うん、私のことは気にしないで 行ってお線香をあげたらすぐ帰るわ」

「そうなんですか? 帰りにちょっと食べて帰りません? 久しぶりなんだもん 面白い話もあるんですよ」 喪服で楽しく食事? それにさっきの慌て様は何処へ行ったのやら。 

「ごめんね、帰るわ。 また違う時にでも一緒しましょ」

「そうなんですかぁ? 絶対約束ですよ」

「今日は連絡してくれて有難う」 そう言って携帯を切った琴音であった。

「あんなに元気だったのに どうしてなの!? 私のせい!? 私が辞めて課長にストレスがいって・・・」 琴音は理香と話しているときから このことが気になって理香の誘いを断ったのだ。

それからは何も手につかない。 風呂にもまだ入っていない。 入る気が起こらない。 

頭を抱えて座り込みずっと自分を責めていた。 長い時間が過ぎ 新聞がポストに入れられた音に気付いた。

「あ・・・朝・・・」 結局、眠れなかった。

コーヒーを入れるためにキッチンへ向かい ゆっくりとコーヒーを入れた。

「どうして・・・」 涙がこぼれた。

「私が辞めていなかったら こんなことにならなかったのかもしれない。 ごめんなさい ごめんなさい」 唯、ただ その言葉しか出てこない。

コーヒーを入れても飲むことも出来ない。

「課長はもう飲みたくても コーヒーが飲めない・・・」 課長はコーヒーが飲めなかった。 琴音がコーヒーを飲むのをよく見かけて

「僕もコーヒーを飲んでみようかな。 そうしたら織倉さんのように仕事が出来るかな?」 そんな言葉を思い出していた。 

そして寝ることなく 準備をしなければならない時間になった。

軽くシャワーを浴び 薄化粧をして喪服を着、数珠を持ち バスに乗り、電車に乗った。

葬儀場へ着いた時には沢山の人で溢れかえっていた。

現役が亡くなったのだ 職場から、取引先から沢山の人間が来ている。

和尚の念仏が始まり「それではお焼香を」 と言う進行役の言葉で次々と焼香を済ませる中に琴音がいた。

後輩達も居たが こんな所で「久しぶり」 などと声をかけるわけも無く 皆、知らない顔をして焼香を済ましている。

琴音が焼香を済ませ帰ろうとした時、以前の上司が焼香を終わらせ歩いているのに気付いた。 するとその時、親族の一人が席を立ち上司に近づいていった。 親族が小さな声で上司を呼び止めると 上司が振り向き慌ててお辞儀をした。 その様子を見ていた琴音の立っている隅の方に二人で歩いてきた。

「本日はわざわざ有難うございます」 親族の言葉だ。

「ご愁傷様でございました。 彼も志半ばにして残念だったと思います」

「いえ、そんなことより 会社の方へのご迷惑を考えると」 親族は会社のことをかなり気にしている様子だった。

「彼が部下をちゃんと育ててくれましたから そんなことは気にしないで下さい。 それより奥さんは無理をせず身体を労わって下さい」 課長の奥様のようだ。

「有難うございます。 また後日ご挨拶に伺いますが どうぞ皆様に宜しくお伝えください」 残された者は大変である。

そんな会話が琴音の耳に入ってきた。

「志半ば・・・」 この言葉に引っかかったようだ。

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