大福 りす の 隠れ家

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ハラカルラ 第63回

2024年05月17日 21時01分34秒 | 小説
『ハラカルラ 目次


『ハラカルラ』 第1回から第60回までの目次は以下の 『ハラカルラ』リンクページ からお願いいたします。


     『ハラカルラ』 リンクページ




                                  



ハラカルラ    第63回




こんなタイミングで裏切りなどされては潤璃が言っていた村の中での繋がりが芋づる式に上がってきてしまう。 そこに玻璃も含まれるかもしれない。
後藤智一は水無瀬の返事を知りたくて今もスマホを凝視しているはずである。 とにかく返事を送らねば。

『今は特にないよ 後藤君は静観しておいて 絶対に動いちゃだめだからね ちゃんとこちらで動いているから安心して』

動いているのは水無瀬ではなく潤璃だが。

「どうする・・・」

潤璃に訊こうか。
手に握るスマホを見ていた目を外した時、着信音が鳴った。 画面には一ノ瀬玻璃とでている。 時計を見ると例の時間である。 連絡があるということは、少なくとも今現在は吊るし上げられていないということ。

「もしもし」

『潤璃から連絡は?』

「ここのところはありません」

『そうか。 今現在確実に分かっている人数は二十七人』

以前のことを思うとかなり増えているに違いない。 だから連絡を入れてきたのだろうから。 潤璃が徐々に電波で繋がりを作り、その情報から玻璃が村の中で動く。 だから確実という言葉が出てきた。

「村は総勢何人くらいですか?」

『二十歳過ぎが三百オーバーってところか』

300分の27。 オーバーであるのなら9%に満たない。 おおよそ十一人から十二人に一人の割合。

「承知しました」

承知なんてできないが嘘でも増やせと言える話ではない。

「あの、木更彩音さんが村に戻っていらっしゃるんですか?」

『へー、村ん中に君の内通者が居るってことか』

しまった、下手を踏んでしまった。 少なくとも潤璃からの連絡はないと言っていたのに、木更彩音の行動を知っているということは、まさにそういうことになるではないか。

『安心しな、それが誰かは訊かない』

アナタの息子のオ友達デス。

「何用で戻っていらしたかをご存じありませんか?」

『さぁ、珍しく帰ってきたとしか聞いてない。 だが今回のことがあってから怪しむ相手ではないとは潤璃からは聞いている』

「そうですか」

電話の向こうから遠くではあるが「親父ぃ」と聞こえてきた。 誠が呼んでいるようだ。

『何か分かったらまた連絡する』

水無瀬の返事を待たずに通話が切られた。

「怪しむ相手ではない、か」

そうであれば、水無瀬の杞憂に終わればいいのだが。
それにしても木更彩音は何をしに村に行ったのだろうか。 後藤のラインでは何年かぶりにと書かれていた。 潤璃からは木更彩音は水無瀬の役に立ちたい、自分たちで村を変えたいとまで言っていたと聞いている。
考えようによってはその木更彩音の台詞は、必要以上に強調されているように聞こえなくもない。

「内通者」

先程の玻璃の言葉が浮かぶ。
村を出た者たちを見張る内通者。

「いや」

たとえネットワークに入っていなくとも、潤璃が繋がりを作っていることは知っているはず。 こんな危うい時に動くはずはない。 それに村の誰かに連絡をするのなら携帯で十分である。

「水無瀬、いいか?」

今日もライがアイスココアを持ってきた。 朝から夕方まで守り人として働き、戻ってからは卒論に向かい合っている水無瀬を気遣っているのがよく分かる。
水無瀬が部屋の戸に手をかけた時にどこかのドアが開く音が聞こえた。

「あ、ナイスタイミング」

水無瀬が戸を開けると、丁度ナギがライの両手に持つ片手からアイスココアを取り上げた時だった。

「おい!」

「ココアくらいもう一度入れればいいだろ」

捨て台詞を残すかのようにナギの部屋のドアが閉められた。

「もー、なら自分で入れろよ。 あ、水無瀬、はい」

片手に残ったアイスココアを水無瀬に差し出す。

「進んでるか?」

ライ、ナギよりよっぽどいいお嫁さんになれる。 だがその言葉は心の中だけに納めておこう。

「ぼちぼち、かな」


二日後、潤璃から連絡があった。
木更彩音が白門の村に入り、潤璃が作った相関図を玻璃に渡したということであった。
その相関図というのは、ネットワークの人間たちが今回のことで確実性があると思える実家に連絡を取り、村の方針への考え方を改めて聞いたということで、それを元に完全なる反白門と微妙なところの二系統を示したうえで、今では村を出た者と秘かに繋がっている者を示し、その親族関係を書いたものである。

あくまでもそれは玻璃が参考にするだけのものであり、相関図から分かっている関係性を結ぶものではなく、村の中では今まで通り互いが何を考えているのかを伏せておくということであった。

村で生活をするには親族関係というのは重要なものになってくる。 その上でどれだけ潤璃達と同じ方向を向いているのかが分かるというのは、村の中で動く玻璃にはかなり参考になることだろう。

一日でも早く玻璃に渡したかったのだが、急遽出張になってしまい木更彩音に頼んだということらしく、その木更彩音が今日遅くに戻って来たということで連絡が遅れたという。

きっと木更彩音は玻璃に渡した時点で連絡を入れていただろうが、潤璃にすれば木更彩音が無事に戻ってくるまで確信を得られず水無瀬に連絡を入れられなかったのだろう。

「上手く進んでる」

杞憂でよかった。

『考えすぎて馬鹿みたいに後悔するし』 雄哉に言われたことを思い出す。 今回のことで後悔などしていないが、この二日間は頭の中が疲れるほど無意識に考えてしまっていたのは確かである。 その証拠に目の前のパソコンの画面が二日前からさほど変わっていない。

「ああ、そうか」

相関図と考えた時に思い当たることがあった。 玻璃との電話の向こうで聞こえていた一ノ瀬誠の玻璃を呼ぶ声は木更彩音が訪ねて来た時なのかもしれない。

『親父、彩音さんが来てる』

『俺に?』

『智一が世話になってるからって土産を持ってきてくれてる』

たしかに後藤智一は時々夕飯の席を一緒にしたり、小さな頃から誠と一緒に可愛がってはいた。

『智一の親でもないのにか?』

そしてその時に相関図を受け取った。

ああ、また考えていると思いながらもライに言われたことを思い出す。
この村に来てハラカルラや守り人のことを知り、何度かライに考えすぎるなと言われた。 あの時も無意識に考えていたのだった。

「肩の力を抜かなきゃな」

そしてパソコンに映っている画面を変えなくては、進めなくては。 こっちは肩に力を入れなくては。


連日ハラカルラに行き烏たちとハラカルラの言葉で話すからか、頭で一周させてから口に出すということなく、何も考えずに話すことが出来るようになってきた。 何故かそんな水無瀬を見て白烏が何度も溜息を吐いている。

「そろそろ文字も教えるかのぅ」

「え? ハラカルラの?」

「それ以外に何がある」

もっと他に言い方があるだろう。

「・・・ですね。 ふーん、ハラカルラに文字があるんだ」

言ってから思い出した。 この世界に触れるきっかけになったのはその文字だった、すっかりその事を忘れていた。

「ハラカルラ自身は必要とはしておらんがな」

「吾らにとっては・・・というか、アヤツには必要だからな」

どういうことだろうと思っていると、白烏が隅に置いてあった終貝を羽で指し、水の道具や獅子のようなものを作るには、文字を刻まなくてはならないのだと説明をした。 勿論ミニチュア獅子にも刻んであるということだった。


「グゥー、頭が爆発しそう」

穴を抜けゆっくりと伸びをする。
早速今日から教えられた文字。 メモもペンもない中、どうやって教えられるのだろうかと思っていると、文字を教える専用である水無瀬の手のひらサイズの二枚貝を嘴(くちばし)でくわえてきた。 これも終貝を使って黒烏が作ったと言い、ここにも文字が刻まれているということだったが、見た目には何も見えなかった。

その二枚貝の片方に指をかざすと手本が写し出され、もう一方で書く練習をする。 やはりハラカルラは水の世界だからなのだろうか、その存在をすっかり忘れていた矢島から受け取っていた手紙と同じように、角がなく流れるような文字ばかりであった。

ミニチュア獅子に印を入れることから発声の練習が始まり、翌日からはハラカルラの言葉を教えられてから一か月が過ぎていた。 早い話、水無瀬はハラカルラの言葉を一か月と数日で覚えたということになり、そして次のステップを踏み出し始めたのであるが、横目で見ていた白烏が何度も溜息を吐いていた。


潤璃からネットワークを結んでいる全員が首を縦に振ったと聞いてから明日で半月になる。 半月の間に動いたことは玻璃が相関図を持ったということしか分かっていない。 その相関図は潤璃のネットワークの連絡から十一日が経った時であり、玻璃がその相関図を持ってから明日で四日になる。
潤璃が十一日で相関図を作ったのはかなりの早さである。 だが玻璃が相関図を参考に動くのは簡単なことではない、ましてや今日でまだたったの三日。

「俺はまだ動けないよな・・・」

9%に満たない白門の村人と村を出た人間が合わせて水無瀬を後押ししてくれたとしても、9%若しくは10%程だろう。 その人数では白門の在り方を動かせない。
明日で朱門と黒門が白門の見張りをしだして五十日になる。 ライは見張のことは気にするなとは言っていたが、単純にあと十日で六十日。 二か月になる。
なにかで聞いたことがある。 我慢の限界は三か月だと。

「うん? それ違うだろ」

「どういうこと?」

「呆れる、よくそれで数字関係の仕事に就きたいなんて言えたもんだ」

「ナギ、女の子が “だ” で言葉を終わらせない」

「わ」

「ナギ!」

賑やかな夕飯の席である。 今日もライたちの父親であるモヤは居ない。 ライが言うには夕飯はモヤの兄であるキリの家で兄弟水入らずで食べているということらしいが、水無瀬に気を使っているのかもしれない。

「それってトータル三か月だろ。 朱門と黒門が交代に見てんだから、単純に言って三か月なら各門一か月半。 でもって、水無瀬が言うのは連日の三か月ってんだろ? 一週間交代なんだから連日は一週間だけ。 その上、同じ人間が行っているわけじゃない。 俺とナギもこの間が初めてだったしな」

「あ・・・そっか」

かなり気が急いていたのだろう、時間軸だけでしか考えられなかった。

「水無瀬、就職先考え直した方がいいんじゃないの」

ナギの言葉の最後に “か” ではなく “の” が付いたことで母親が頷いている。

「だから気にすんなってば」


黒烏に文字を習いだして二週間が経った。 玻璃が相関図を手にして二十日弱になる。

「いや、正確にはまだ二十日にはなっていない」

あと三日待とう。 三日を経ったところで何が変わるわけではないだろうが、それでも急いてしまってはこの前のようにがんじがらめになって物事を柔軟に考えることが出来なくなってしまう。


三日が経った。 今日で玻璃が相関図を手にして丁度二十日になる。 玻璃が相関図を手にする寸前の連絡では、確実に分かっている人数は二十七人とのことだった。 二十日の間にどれだけ増えただろうか。

時計を見ると例の時間まであと十五分ある。 事前に潤璃には連絡を入れていて、ネットワークの力が発端となり潤璃の方でも人数が増えてきているということであったが、今のところ個々で動いていることが多く、まだ整理ができていないと書かれていた。 今から訊こうとしている玻璃が把握している人数と同じ人間がダブっているかもしれないが、少なくとも玻璃の言う人数が村の中での最低人数ということになる。

「名簿なんて作ってられないし」

それにそんなものは必要ない。 せいぜい “正” という文字を書いていき人数が分かればいいだけのこと。 名簿など作って万が一にも漏れてしまっては目も当てられない。
手の中で弄(もてあそ)んでいたスマホが鳴った。 画面を見ると玻璃である。 例の時間より少し早めの連絡である。

「もしもし」

『そこそこ増えた。 六十三人』

村人の二十歳以上の総勢が三百人オーバー。 その内の六十三人。 おおまかなところで300分の60と考えて20%。 五人に一人。

「かなり増えましたね」

前回の9%未満、十一人から十二人に一人の割合だったことから考えると格段に伸びた。

「それは前回と同じで確実な人数ということですよね?」

『そうだ、水面下で分かっていない人数が居るかもしれんし、居ないかもしれん』

「確実な方々の年齢層はどんなものですか?」

『若いのが多い。 だが以前も今も含めて村からの援助で大学に行っていたり研究職についてるような輩は省く』

“輩” 心の底からハラカルラを白門の在り方から開放したいと考えているからこそ出た言葉なのだろう。

「村の総勢が三百オーバーだということでしたが、お年寄りの割合は?」

『うーん、七分の一ってとこか』

総勢三百人としておおよそ四十三人、総勢三百五十人として五十人。 朱門を見ているとそこの辺りの年代の意見が重要視されている。 そしてその年代は昔気質(むかしかたぎ)で考えているだろう、その昔気質というのは今の白門の在り方であって初代白門の守り人が居た頃ではない。 七分の一、五十人前後は動かせないということになる。

「さっき仰った若いのとは、二十代と考えていいでしょうか」

『それもあるが三、四十代までを含む』

色んな意味で粋がいい頃であるが粋だけでは足りない。 なによりも抑えが欲しい。

「五、六十代はいかがですか? 若しくは七十代まで広げて」

『七十代は居ないな。 六十代も居なくはないが少ない、えーっと・・・ー、二、三、うん三人か。 五十代が九人であとが若いのだ』

総勢から見ておおよそ3~4%。 抑えが弱い。 粋で乗り切るしかないのか。

「最後に、その若い方々は六十代以上に意見が出来るでしょうか?」

「今までだったら出来なかったがな。 まぁ、今までが今までだけにその場にならなきゃわからんが、期待の範囲ってとこか」

「分かりました。 そろそろ大々的に動くかもしれませんので、今はここまでに止めておいてください。 玻璃さんに何かあっては困りますので」

充分とは言えないが、それでも最初の時を考えると大きな収穫である。 これ以上増えるかどうかも分からないのに、漏れるという危険をおかすほうが結果的にマイナスになる可能性の方が高い。

初めて名で呼ばれた、それも下の名で。 この電話相手が潤璃と連絡を取り合っているのは知っている、だから弟の潤璃と呼び分けるために下の名で呼んだのだろうが、苗字であっても名を呼ばれたことで曖昧にしていたことが気になってきた。

『若い声だがアンタいったい誰なんだ』

「その内にお会いします」

通話を切ると潤璃に連絡を入れた。 玻璃が連絡の取れる時間は潤璃から聞いて知っているが、潤璃はサラリーマンのましてや部長職である。 いつ連絡可能なのかは分からなく、水無瀬からはいつもラインを入れている。

ラインには玻璃から聞いた人数を入れ、最低でもこの人数で勝負に出たいと書いた。 水無瀬の分かる範囲では、実質この人数に村を出たネットワークに入っている人数が入る。 ネットワークの人間が少人数でも村を出ているのだ、村の中に居る者たちより意見が出来るはずだが、そうなると日程の難しさが出てくるのは否めない。
既読はすぐにはつかなかったが珍しいことではない。

「残業かな」


翌日朝起きると潤璃からラインが入っていた。 時間を見ると午前二時過ぎであった。 先日も急遽出張が入ったと言っていたが、いざ事を起こそうとなった時に潤璃は動けるのだろうか。

ラインには潤璃達の方もまとめに入っているということで、少し時間が欲しいと書かれていた。 そしてネットワークに入っていなかった白門を出た人間とも接触を図っているということも書かれていた。 昨日、人数が増えてきたと書かれていたのはこの人数のことなのかもしれない。
そこからボロが出なければと思うが、村を出たのだからその可能性は低いはず。 潤璃とてそこには神経を尖らせているはずである。 それに白門を出た人が多いに越したことは無い。

「まぁ、なにもかも一ノ瀬さんがしてるとは限らないけど」

そう思うと昨日は残業ではなく、ネットワークの人たちと話していて着信音に気づかなかったのかもしれない。

「おい水無瀬―、朝飯」

時間を見るとかなりの時間が流れていた。 気付かない間に考え込んでしまっていたようだ。 とにかく次のステップに行くには潤璃からの連絡を待つしかない。

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