大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第9回

2013年06月28日 14時53分37秒 | 小説
『みち』 ~未知~  第9回



何よりもマンションから近い所を探していた事を思い出した琴音は PCで経理が出来るのならと 経理への不安も、低いお給料ということも 頭の中から無くなっていった。 すぐに受付の女性の所へ行き

「あの、すみません 先程のこの貼り紙の所ですが」 琴音がここまで言うと

「どうでした? ゆっくりとご覧になれました?」 嫌な顔もせず琴音に答えた。

「はい。 あ、それと先ほどは失礼しました」 恐縮して謝った。

「私は何とも思っていませんから 謝らないで下さい」 謝られた事に驚いたようで 慌てて返事をした女性だ。 よく出来た受付だ。

「それよりご覧になられてどうですか?」 琴音を気遣って話を切り替えした。

「はい、ここへ面接をお願いしたいのですけど」

「まぁ、そうですか 私も貼った甲斐があります。 いいご縁があるといいですね」 気持ちのいい滑り出しだ。

「ここはちょっと混んでいるので あちらで待っていてください。 担当職員に言ってきます」 そう言って指さされた先で琴音が暫く待っていると 受付の女性が帰ってきて

「どうぞ5番の職員の所へ行ってきてください」 そう琴音に言った。

「有難うございました」 琴音は礼を言い職員の所へ向かった。

「こんにちは」 前回もそうだったが 職員が起立をして琴音を迎えた。 

「お世話になります。 あの此処なんですけど」 そう言いながら貼り紙を出すと

「はい、聞いていますよ」 もう会社の資料は揃えてあったが 琴音の資料はまだそろえていない。
琴音の資料を揃えてから

「えっと、こちら・・・悠森製作所さんですが 昇給はありませんが・・・この辺りの確認は大丈夫ですか?」

「はい」

「社会保険もキチンとされていますし 経理ということですが ご経験は?」

「経理の経験はありませんが 特記にPCの出来る人と書かれていて 特にワード・エクセルの出来る人とされているので これはどちらも出来ます」 特に秀でて出来るわけではなかったが 前の会社でも少しはやっていたので 何とかなるだろうと踏んだのだが そんな風に考えたのは生まれて初めてのことであった。

今までの琴音なら どれだけ会社でPCを使っていても 「私なんてPCが出来るうちに入らないわ。 この程度でPCが出来るなんて恥ずかしくて言えないわ」 そんな風に考えていたのだ。

その後も少し話をし

「では 少しお待ちください」 職員はそう言って 電話を掛け出した。

前回と同じように相手の会社と話している。 そしてまた同じように

「年齢ですか・・・えっと40歳ですね」 年齢の話だ。

ここへ来て改めて40歳という壁に気付いた。

(あ、どうしよう 断られるのかしら) 心の中で不安がよぎった。

だがその後の話を聞いているとそうでもなさそうな会話だ。 受話器を押さえて職員が琴音に聞いてきた

「いつなら面接に行けますか? 先様は今週中と言われていますけれど」

「今週ならいつでも大丈夫です」 何の予定があるわけではない。

「いつでも良いと仰っていますが・・・はい、はい・・・それでは明後日の10時ですね?」 琴音の顔を見ながら答えている 琴音は返事の意味で頷いた。

「それでは宜しくお願いいたします」 電話を切ると職員が地図を出してきたので

「あ、マンションからすぐなので この用紙で充分場所は分かります」 先程の張り紙に書かれていた地図を指さしながら言った。

「そうですか。 それではこの封書を先様へお渡しください」 前回と同じように封書を渡された。

「はい、有難うございました」

「では、明後日10時でお願いします。 良いご縁であることを祈ります」 席を立った琴音に言った職員であったが 琴音にしてみれば今日一日で『ご縁』 という言葉を二度も耳にしたのだ。

「ご縁か・・・今までそんなに聞かなかった言葉だわ。 ふふ」 どうしてだか微笑んでしまう琴音であった。

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