大福 りす の 隠れ家

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ハラカルラ 第71回

2024年06月14日 20時36分16秒 | 小説
『ハラカルラ 目次


『ハラカルラ』 第1回から第70回までの目次は以下の 『ハラカルラ』リンクページ からお願いいたします。


     『ハラカルラ』 リンクページ




                                  



ハラカルラ    第71回




守り人としてこれで終わりと言えばいいのだろうが、このことを切っ掛けに放ってはおけないことが発生してしまっていた。

「確か一番最初にこちら側に来てくださった方ですよね」

水無瀬は玻璃の声に気付いていないのだろうか、それとも気付いていて敢えて知らないふりをしているのだろうか。
白々しく言う水無瀬に玻璃が応える。

「ああ、一ノ瀬玻璃だ」

「では一ノ瀬さん・・・ああっと、一緒に来た方の中にも一ノ瀬さんがいらっしゃいますので、下のお名前、玻璃さんとお呼びしてもいいですか?」

この言い方・・・やはり玻璃が名乗る前から気が付いていたな、かなりの狸か、などと思う玻璃であるが、正解である。
玻璃が頷く。

「さっきの大学院生の方が学校を辞めると仰っていましたし、現在特進科に進んでいる高校生の事なんですが、村からの援助なりなんなりを続けるということは出来ませんか? 例えばのちの出世払いとか。 人生をトカゲの尻尾切りと同じ扱いにするのはどうかと、それに彼らが村おこしを考えてくれるかもしれません」

「金のことは俺には分からんが・・・トカゲの尻尾切りとはな」

「水無瀬さん」

玻璃の横に誠がやってきた。
周りに注意しながら誠に答える。

「やぁ、誠君」

え? 玻璃が目を大きく開けた。 息子である誠の紹介はまだしていない、名前など知らないはず。
驚いている玻璃に水無瀬が笑みを見せる。

内通者とは・・・息子だったのか。
何故だろう、息子の勇気に腹の中が温かいもので満ちていき鼻の奥が痛くなる。

「この馬鹿野郎が」

息子の頭を大きな両手でワシャワシャとかき回した。
この日の夕食の席で、時々一緒に卓を囲んでいた後藤智一も内通者と知ることになるとは思ってもいなかっただろう。



後(のち)の話にはなるが、潤璃からの連絡でそれぞれが受けていた学費は援助として出していくということを聞いた。 ただ、借りを作ったままで村に貢献することがないのは気が引ける、村に向ける顔がないという考えの者は、出世払いで返していくということであった。

潤璃曰く、潤璃自身も奨学金を使って大学に通っていたという。 返済もきちんと終わらせ、やろうと思えば出来ないわけではないということであった。



「無事に戻ってきたな」

いつもはお疲れと言うのに台詞が違う。 それほど心配をかけていたのだろうか。

潤璃達はまだ村に残っている。 これ以降のことに水無瀬が口を出す必要はない。 全てを潤璃達に託して村を後にし水無瀬一人で戻ってきた。

「一緒に村に帰ろうって言ったろ」

「そんなこと言ってない」

え? 言ったはずだ。

「一緒に村に戻ろうって言った」

「細かすぎだろ」

笑いながらドアを閉める。 その手がドアから離れない。

(そうか、無意識に一緒に戻ろうって言ってたのか)

「ん? どした?」

何でもないと言い、ようやく手を離した水無瀬。

「昼何か食べたか?」

ライがエンジンをかける。

「いいや」

本当にずっと車の中に居たのだろう。 もう二時を過ぎている。

「何か食べてこう」

「いいけど、早く戻らなくていいのか? 今からならぶっ飛ばして間にあわせるぞ」

絶対に間に合わないだろう。 何キロで走ろうとしているのやら。

「雄哉一人で大丈夫だろ」

雄哉とは昨夜じっくりと話をした。

『オッケー、俺一人でおちゃのこサイサイ。 水無ちゃんはこっちのことを考えずに白門に集中しろ』 と言っていた。

車が発進をした。



「ぐわぁー、今日も見えなかった」

「だからそんなに早くは見えないし出来ないって。 もし出来たら僕の方がショックだ」

「水無ちゃんは出来てるのに」

「鳴海は例外だと何度も言っとるだろ」

「ああ、あんなにあっさりとやられればショックもないけどね」

「そっかー。 んじゃ、またしばらく来られないけど」

高崎の前に座る雄哉が腰を上げる。

「早く切り上げる上にまた来られんとは。 出来るだけ来るようにする方が、それなりがそれなりになるというのに」

今日は早めに切り上げると烏に言っていた。

「それなりって・・・まぁいいか。 高崎さん話があるんですけど、ちょっといいですか?」

二人が話しながら穴を出て行く。 白烏が横目でそれを見ている。 そして黒烏は今日も今も、溜息と呻き声を出している。

「え? 青の穴を抜けたところで?」

「はい」

「でも場所を知らないよね?」

知らないはずであろうし、たとえ気心が知れたと言っても村として村の場所を知られるわけにはいかない。

「安心して下さい、青門の村を探そうとか、青の穴を探そうとかって思っているわけではありませんから。 場所を移動していてもいいです、探しますから。 キツネの面を着けた人を見かけたら声をかけてください」

キツネ面があちこちを歩いているのは高崎も何度か見かけて知っている。
青門の守り人である高崎は青の穴から入ってきている。 従って青の穴しかくぐれない。 朱門の穴から入ってきた雄哉にしても然りである、朱の穴しかくぐれない。 その穴をくぐると全く違った場所に出る。

高崎にはいつも通りの時間くらいまでここに居てもらい、雄哉は青の穴まで行くには時間がかかるということで、早めに切り上げたということであった。

朱の穴をくぐると既にキツネ面を着けたおっさんや若い者達、合わせて三十人以上が雄哉を待っていた。
ゾロゾロとハラカルラの中を歩いていたが、一人二人と次々に違う方向に歩いて行く。 高崎を見つける為であるが、朱門の誰もが高崎の顔を知っているわけではないし、素顔の誰かを見かけて高崎かどうかの確認をするのは雄哉から止められている。 厳密に言えば水無瀬であるが。

素顔ということは白門か青門のどちらかになる。 白門に高崎と言う名を聞かせるわけにはいかないということであるが、青門と白門の村の位置は遠くに離れている、白門が居る可能性はまずゼロに等しい。 だが万が一にも面を着けていない黒門が居ればそれは特に避けたい。 黒門と青門の村は近い、近いでは収まらないほどに近すぎる。 大きく高い岩を挟んでいるだけに過ぎないのだから。

雄哉が見つけられればそれでいいのだが、ハラカルラは広い。 だから高崎からキツネ面に声をかけるようにと頼んだのである。 そのキツネ面が黒門の穴がある大きく高い岩の反対側を散り散りに歩く。

「パトロールでここまでも歩いてくるんですか?」

ハラカルラの中である、足こそ疲れてはいないが相当に歩いてきた気がする。

「ああ、毎回ってことは無いけど来るな」

人間の世界でいうところの高速を使っての距離ほど離れているのだから、そう簡単に来られる距離ではない。 但し、ハラカルラには岩があるとは言えど、大きく迂回しなければならない山も川も大きな障害物もない。 簡単に言ってしまえば直線距離である。

キョロキョロとしていたキツネ面に声がかけられた。

「あの、声をかけるようにと聞いたんですけど」

「ああ、やっと見つけた。 一応確認で名前を聞かせてもらえるか? こっちから名前を出さないように言われてるから」

「高崎、です」

「オッケー、じゃ、戸田君のところに案内する」

戸田と聞いてホッとする。

歩きながら高崎が見つかったと、まだ探しているキツネ面に合図を送る。
雄哉も移動しながら高崎を探している。 その雄哉の居るところを順々に指差し方向を示している。

「あ、高崎さん」

「戸田君、いったい・・・」

ゾロゾロと集まったキツネ面の多さに驚いた顔をしている。

「朱門の皆さんです」

「それは分かっているけど、いったい何を?」

朱門は昔からキツネ面を着けている。 それはどこの門も知っていることである。 そして黒門のカオナシの面も知っている。
二人の会話にキツネ面が先を促す。

「戸田君、移動を始めよう」

キツネ面がぞろぞろと歩き出す。

「とにかくついて来て下さい。 それと、朱門の方々は高崎さんの味方ですから。 何かあった時には高崎さんを守ってくれます」

「何かって・・・」

「安心して下さい。 朱門の皆さんと俺に丸投げってことで高崎さんは居てくれるだけでいいですから。 あっと、納得した時には返事は欲しいですけど」

いいタイミングで雄哉に面が渡される。

「それと高崎さんの顔が知られるわけにはいきませんから、これを着けていてもらえます?」

高崎にキツネ面を渡す。

「プラスティックの面・・・」

ライのプラスティック面が大活躍である。
言われるがままにプラスティックの面を着けるが、朱門には既に素顔を晒している。 どういう意味だろうか。

高崎と雄哉が話をしながらかなり歩いてきた。

「水無ちゃんまだ決めかねてるみたいなんですよねー、せっかく高崎さんがいい所を見つけてくれたんですけど」

「そりゃ彼なら迷うだろう。 もしかしたら烏と同等の力があるんじゃないか?」

高崎の言葉にキツネ面の下で誰もが驚いた顔をしている。

「ショックだな、同じ時に異変を感じたってのに」

「戸田君が普通なんだよ。 それにあの穴をくぐれるだけでもいくらも居ないんだから」

黒烏の力によって穴をくぐれるようになったことは秘密である。 黒烏に止められているというのもあるが、自分でもあまりの情けなさに口にしたくはない。

「来たな」

キツネ面の男の声に前を見ると、カオナシの面がぞろぞろと歩いて来ている。

「黒門・・・」

今キツネ面の男は “来たな” と言った。 目的がこの黒門だったのか、それとも運悪く会ってしまったのか。

「安心して、高崎さん」

雄哉の声に、そうだ今はキツネ面を着けているのだ、言わば朱門の一員となっているのだと思い直る。
黒門も朱門に気付いたようで面の下で何か言っているようだ。

二つの門の足は止まらず互いに対峙する形となった。

「これはこれは朱門の、今日はまだ黒門の番だが?」

番とはどういう意味だろうかと高崎が首を捻る。 それに朱門と黒門の仲の悪さは代々から聞いて知っている。 それなのにどういうことなのだろうか。

「話があってここまで来た。 話は二つ」

前に出たおっさんが言い、このハラカルラで滅多なことがないのは分かっているが、高崎の周りを他の者達が固める。 それを肌で感じた高崎。 これが雄哉の言っていたことか、では偶然でも運悪くでもなく目的が黒門だったということなのか、と頭の中で考えている。

「一つに、水無瀬君から連絡を受けた」

「水無瀬? 水無瀬が見つかったのか!」

(見つかった?)

どういうことだと、またしても高崎が首を捻る。 雄哉と水無瀬が連絡を取り合っていることは知っているし、今日水無瀬は来なかったがずっと毎日来ていると烏から聞いていた。 その水無瀬は朱門の穴から出入りしていると言っていた。 朱門の穴から出入りしようとするなら朱門の村を通らなくてはならないはず、そうなれば朱門の誰もが水無瀬を確認しているはずだ。 それなのに連絡があったとはどういう事なのだろうか。 話が全く読めない。

「連絡を受けただけだ。 白門との話はついた、もう見張らなくていいということだ」

雄哉を迎えに行く前に水無瀬から白門のことが無事終わったと連絡を受けていた。 そしてまだ朱門と水無瀬を切り離して話をしてほしいとも言われた。

「え? どういうことだ」

「守り人である水無瀬君が白門のことでずっと動いていたということだろう。 見張のことも知っていたようで、手間をかけさせて悪かったということだ」

黒門たちがカオナシの面の下でそれぞれに何か言っている。 その内の一人がはっきりと声に出す。

「白門のことが無くなったということは」

「ああ、そうだ。 今日からこの戸田君が黒門の守り人になる」

黒門の間からどよめきが起こる中、プラスティックの面の下で高崎が大きく目を開けている。 どういうことだと雄哉を見かけたが、その雄哉が歩を出した。

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