大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第5回

2013年06月14日 14時40分24秒 | 小説
『みち』 ~未知~  第5回



話しながら履歴書を見終わった男性が

「履歴書に書かれているこの会社、長くお勤めだったのにどうして辞められたんですか? どこかで聞いたことがある名前だな有名な会社ですよね」 琴音はちょっと言葉に詰まり 

「・・・はい それこそ定年までいようと思っていたのですが どうしても新しい課長との折り合いが悪くて・・・それと通勤に疲れたもので」 歯切れ悪く答えた。

「あははは 普通は人間関係で、等と言って 誤魔化すのにはっきりと仰る」 そして男性はもう一度履歴書を見て

「この住所だったら そんなに離れてないから通勤に疲れませんね」 笑いながらそう言い、隣にいた女性に見せた。

「あら、この住所ならそんなに遠くないんじゃないですか? でも私はもっと近くなんですよ。 歩いて来てるんです」 35歳くらいであろうか 優しそうな微笑を持っている女性だ。

男性が女性のほうを見て「どう?」 と聞くと「私、いいですよ」 と女性が答えていた。 そして男性が琴音のほうを見て

「いやいや、これから来てもらうとなると この人と一緒に一日過ごしてもらうことになるんだけど 貴方はこの人と、どう? 一緒にやっていけそう?」

「あ、そんな・・・」 どう答えていいのか分からない。

「社長、急にそんな聞き方は 答えにくいですよ」 琴音に変わってその女性が答えてくれた。

「そうか? 答えにくいかな?」 

「ごめんなさいね。 社長って悪気はないんですけど デリカシーに欠けていて」 

「いえ、こちらこそ・・・」 その後の言葉が見つからない。

「そうか、じゃあ 仕事の内容も雰囲気も分からないだろうから 取りあえず明日から来てみない? うちも貴方のことを知りたいから 2、3日働いてお互いそれで決めようじゃないか。 どう? 少なくとも今話してみて 少しでも働く気があるのならそうしてみない?」

「はい。 そうさせて頂きます」

「よし決まった。 じゃあ 明日8時出勤だから」

「はい、宜しくお願いいたします」 そう言ってその場を立った琴音であったが 帰りのバスの中で何かモヤモヤしたものを感じていた。 


マンションに帰り玄関の戸を開けるとすぐに和室に座り込んだ。 

「いい人達だし 業績がアップしているって事は 先の不安がないってことだし・・・賞与は年3回 昇給も毎年あるって書いてあったし・・・」

琴音にとってはいい条件である。 だが

「何なのかしら・・・いい条件なのに・・・どうしてかしら」 琴音の中で何かがざわめく。

何時間考えただろうか

「違う。 そうじゃない」 そんな言葉が口から出た。 そしてすぐに受話器を手に取り さっきの会社へ電話をし 丁重にお断りをした。

「何なの! 何がどうなのよ!」 断りを入れた自分が分からない。

「私はどうしたいのよ! 何で断ったのよ!」 自分に対しての怒りさえ覚えた。

そして思い出した。 面接の時のあのことを・・・

「そうよ、どうして会社辞めたのよ。 ずっと定年までいるつもりだったのに。 長い間勤めていたのに・・・」 溜息が出た。

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