大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第12回

2013年07月08日 14時14分02秒 | 小説
『みち』 目次

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『みち』 ~未知~  第12回



「経理は出来るんですか?」 琴音の履歴書を見ながら聞いてきた。

「経理の経験はありませんが ワード、エクセルは出来ます」

「ああ、良いですよ。 経験がなくても経理をやる気があるかどうかですから」 琴音は胸を撫で下ろした。

「ワード、エクセル?」 琴音の言葉を聞いて社長がキョトンとして琴音の顔を見て言った。

「あ、はい 募集用紙にワード、エクセルの出来る人と書いてあったので」

「そんなものは必要ないですよ。 誰だ勝手に書いたのは」 社長が笑いながらそう言ったが 琴音にしてみても あまり人に言えるほど出来るという自信が無いものだから(良かった) と心の中で思った。 

「あれ? この年で配偶者が無い・・・離婚ですか?」 琴音の履歴書をみて会長が聞いてきた。

「いえ、ずっと未婚です。 結婚は考えていませんので」 普通なら 失礼な! と思うかもしれないが 年齢を気にしている琴音にとっては 当然の質問であろうと思った。

「うちは安月給です。 一人暮らしでこの給料でやっていけますか?」 会長が念を押すように聞いてきた。 

確かに多くは無いが 琴音もそれは分かって来ている。

「はい。 特に贅沢などはしていませんので」 今までの琴音であれば「はい」 で終わっていたであろうが 先程から何かと答えにプラスして一言が出てしまう。

「こんな給料でやっていけるかなぁ」 会長がもう一度言った。

それからも会長と少し話をしたが また会長が

「配偶者が無いって言うことは 何故ですか?」 と聞いてきたのを 社長が遮る様に

「さっき仰ったじゃないですか」

「あれ? そうだったか?」 苦笑いの琴音であった。

「それでは1週間後に電話連絡をします。 それで宜しいでしょうか?」 社長が聞いてきたので

「はい よろしくお願いします」 と琴音が答え その場を立った。

「失礼します」 そう言って応接室を出、事務所のドアのほうに歩いて行きながら さっきの女性のほうを見ると 女性が琴音の方に走ってきた。 奥にいた男性は椅子から立った。

「お世話になりました。 あのせっかく入れていただいたお茶、少し残してしまいました」 そう言う琴音に

「何言ってるの 気にしないで。 気をつけて帰ってね」 何を言ってもいても ずっと微笑んでいる。

「それでは失礼いたします。 有難うございました」 ドアの前でそういうと 男性が「お疲れ様でした」 と声をかけたので 男性に向かい会釈をし、階段を降りて行った。

自転車に乗りマンションに帰った琴音は 着替えることもしないですぐ和室に座り込んだ。 家に帰り急に力が抜けたのだ。

「何も緊張してなかったし、力んでもいなかったのに どうしてこんなに力が抜けちゃうのかしら」 和室の机に両腕を置きそのまま額を手の上に置いた。

「はぁー」 と大きく溜息をついたが 前回とは違う。 ざわめくものも無ければモヤモヤしたものもない。 言ってみれば燃え尽きたような気持ちなのだ。 納得の溜息なのだ。

「とにかく着替えよう」 一つ溜息をして我に戻ったのか 着替えと鞄の片付けをし始めた。 

「1週間後・・・。 長いようで短いかな。 他に当てがあるわけじゃないから 大人しく待っていようか。 えっと・・・コーヒーでも飲んで・・・今日誰か暇かしら?」 キッチンに行きコーヒーを入れ コーヒーを片手に和室に戻り携帯を触り始めた。

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