大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第8回

2013年06月25日 14時00分39秒 | 小説
『みち』 ~未知~  第8回



翌日からは目覚ましをセットするわけでもなく 午前中をダラダラと過ごし 午後からはウインドウショッピングなどをしてという 時間を潰す日が続いた。

ウィンドウショッピングをしていると かわいい財布が並べられているのが目に入った。

「そういえば もうこのお財布、穴が開いてきちゃってるのよね。 それに一度、長財布がほしいわね」 ずっと何年も二つ折りの財布を 使ってきていたのだが ここで可愛らしいピンクの長財布を買った。 

だが財布以外 何かを買うでもなくそのままマンションに帰り やはりダラダラと毎日を過ごしていた。 そんな自分を見限ったのか 何かがそう思わせたのか

「ああ、何もしないでダラダラしていても埒が明かない。 ハローワークにでも行こうか・・・」 自分自身に踏ん切りをつけ ハローワークに向かった。 


ハローワークの受付に行くには 色んな求人の貼り紙をしてある所を通過するのだが 今日はそこまで人がいっぱいに溢れていた。

「どうしてこんなに混んでるのかしら」 人を避けながら壁の隅にくっ付くように立ったとき 背中でクシャっという音がした。

振り向いて見てみると 貼り出されてあった求人の貼り紙だった。

「まぁ、こんな所にまで貼り出されていたのね」 そしてよく見てみるとそこには『悠森製作所』 と書かれてあった。

「あ、ここって まだ決まっていなかったの?」 求人の貼り紙をよく見た。

「決まっていなかったのにどうして 検索に出てこなかったの?」 琴音は自分の検索のせいだという事に まだ気付いていない。 

それどころか貼り紙を留めてあった画鋲を取り その貼り紙を手に取った。 そして貼り紙を持って 人の間を通り抜け受付へ向かった。

「あの、此処はもう誰か決まってるんじゃないですか?」 そんなことを言う人間はそうそういない。

「え! なんですか?」 受付の女性も驚いているが それ以上に琴音が驚いている。

「あ・・・私ったら何てことをしてるのかしら。 あの・・・すみません、ごめんなさい 勝手に剥がしてしまって すぐに貼り直してきます」 そういう琴音に受付の女性は手を伸ばしてきた。 

そして伸ばされた手に貼り紙を返した琴音であったが その貼り紙を受け取った受付の女性が冷静に答えた。

「ああ、これはさっき私が貼ったばかりですから まだ決まっていませんよ」 

「あ・・・すみません。 あの、もう一度見せてもらえますか?」

「いいですよ。 ゆっくりご覧になってください」 受付の女性は貼り紙を琴音に手渡した。

「有難うございます」 そう言って少し空いている空間へ行き 今度はゆっくりと貼り紙を見た。

「募集内容は・・・経理と一般事務・・・経理なんてしたことがないわ それにあんなの出来ない」 今まで経理なんて考えたこともないどころか ずっと求人を見ていたときに経理は琴音の中からはずしていた。 あくまでも一般事務を探していたのだ。

琴音の父親が現役の頃 社内で経理業務をしていたのだが 時々経理の相談に家に人が来ていたり 確定申告の時期には色んな人間が相談にきていたのだが 琴音にとっては意味の分からない計算をしている父親の姿を見ていて 自分には不向きと考えていたのだ。

「あ、でも待ってよ 必要な経験等にPCの出来る人って書いてある。 PCを使っての経理なのかしら。 それならパターンさえ覚えてしまえば出来るのかしら」 経理ソフトを触った事があるわけではないが 漠然と想像をした。

「募集年齢は問わず、賞与は前年度が2回。 お給料は・・・18万・・・やっていけないわけじゃないけど・・・」 既に最低でも20万の給料を見てきた琴音にとって 18万はかなり低く思えた。

「場所は? 此処の住所だったら 自転車で行けるわ」 改めて場所を確認した。

「あ、そうよ 私ったら何を考えていたのよ。 お給料より何より一番重要視していたのは 通勤時間じゃない。 ここなら通勤時間があってないようなものじゃない」 検索をしていくうちに 段々と金に目がくらんできていたのか 最初の大切なことを忘れかけていたことを思い出したのだった。

琴音に向いて吹いている風に ようやく気付いたようだ。

思い出さなければならないのは 給与の額ではなく 琴音の家の近くで場所を探せと言うことだ。 その為に前の会社を辞めたのだから。 だがその仕組は琴音には知る由も無かった。

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