大福 りす の 隠れ家

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ハラカルラ 第70回

2024年06月10日 20時29分49秒 | 小説
『ハラカルラ 目次


『ハラカルラ』 第1回から第60回までの目次は以下の 『ハラカルラ』リンクページ からお願いいたします。


     『ハラカルラ』 リンクページ




                                  



ハラカルラ    第70回




「僕がハラカルラの水を動かしました、その水の力で押し戻されてきたんです。 ここは白門の村でもありますがハラカルラでもあります。 それくらいご存知でしょう」

余裕綽々を見せて言うが心の中では、良かったー、良かったーと叫んでいる。
白烏に教えてもらった二つ目の理由は、守り人の存在を、力を見せる、そして最後の理由は村とハラカルラの繋がりを切に感じさせるため。

「あなたたちは高校生ではありません、ここに居てもらいます」

長をはじめ誰もが息を呑んでいる。 水無瀬の言う通り村とハラカルラは重なっているのだから、ここは村でもありハラカルラでもある。 それは知っているが、ハラカルラで起こったことがここに、村に影響するなどとは考えられない。 それに水見の書き残したことにそんなことは書かれていなかった。
だが今目の前で現象を見た。

「あなたたちは代々聞かされてきてはいませんでしたか、門のある村としての在り方を。 ハラカルラを守らねば、共に居なければいけないということを」

水無瀬がぐるりと見まわす。 目の合った者が顔を下げる。 その水無瀬の後ろでは玲人もまた顔を下げている。

『いいかい玲人、白門の村はハラカルラを守り、ハラカルラを守ってくれている守り人の手助けをせにゃならん』

「あなたたちは門のある村ではないのですか、その矜持はないのですか。 守り人に門は関係ありません、守り人は守り人です。 ハラカルラを守るだけ。 そして皆さんもそうでしょう。 あなたたちはハラカルラのことを何と思っているんですか、何を誤解しているんですか、いつからその誤解が始まったんですか」

疑問符など付けない、責めるように言う。

「あなたたちが魚を獲り藻を獲る、甲殻類もそうなのではないのですか。 ハラカルラが泣いているのをご存知ですか」

思ってもいなかったことを聞かされ高校生たちの表情が曇る。

「あなたたちが気付いてくれることを泣いて待っています」

水無瀬がわざと間を開け、次に口を開こうとしたときに長の声がした。 水無瀬がそちらに顔を向けると、いつの間にか椅子が用意されていたようでそこに掛けている。

「ハラカルラの力を使った暴力の次は泣き落としか。 それにそんな暴力などに村は屈服などせん」

「暴力、屈服、泣き落とし。 もっと他に言葉はないんですか」

「そう言わせているのはオマエの方だろう!」

少し前にミニチュア獅子にやられた啓二が叫んだ。

「・・・情けない」

「え?」

玲人が歩を出す。

「おい、玲人」

「屈服というのなら、あなたたちが村の方々を屈服させ、言いなりにさせているだけではないのですか。 村のみんなの意思と誇りを放棄させているだけではないのですか。 どうして守るという言葉が出てこないんですか。 みんなでハラカルラを守ろうとしないんですか。 村おこしだそうですね、ハラカルラを使って。 村が活性化するのはいいことです、悪いことではありません。 ですがそれはその村から発展させていくもの、重なり合っているとはいえハラカルラはあなたたちの村ではありません」

歩いてきた玲人が潤璃達の横に着くと啓二を見てみんなに聞こえるように言う。

「俺は大学院を辞める。 そして村に戻ってこないと言いたいところだったが、こんな村を放ったまま知らぬ存ぜぬは出来ない。 長、長が考えを改めてくれるまで俺が白門の手を止める。 魚を獲らせない」

水無瀬が玲人を見る。 覚えのある顔である。 水無瀬がブチ切れて『あなたに説教される覚えはない!』と言った相手であった。

「玲人! お前なんてことを言うんだ!」

「そうだ! 勝手に学校を辞めるなんて、誰がそこまで行かせてやったと思ってる!」

「ここで研究をするのがお前たちの役目だろうが!」

水無瀬にとって思わぬ伏兵が居た。
その玲人の横に四人が歩み寄ってくる。

「俺たちはあんたたちの言いなりになっていた、いい加減もういいだろう」

最初は大学院を辞めることに意見が割れていた四人だったが、車の中で話し合い全員が納得をしていた。

伏兵たちの考えていることが分かった。

「な、なんだ、勉強が嫌になったのか、それとも結局は出来が悪かったのか! それじゃあ今までお前たちに掛けた金を返せ!」

特進科の高校生がびくりと肩を震わせる。

「勝手なことを言わない方がいいんじゃないですか? あなたたちは彼らの青春を奪ったんじゃないですか? 奪っておいて金を返せとはおかしな話ですね。 それにこれからの子供たちの青春も奪おうとしている。 それはあなたたちの罪であり彼らの罪ではありません。 あなたたちが彼らの意思を村という大看板に屈服させ、言いなりにさせていただけじゃないですか」

小中学生が互いを見合い、親を見る。 目を逸らす親、抱きしめる親、首を振るだけの親とそれぞれの反応の仕方が違う。

思わぬ伏兵にこれ以上水無瀬の存在は要らないだろうと、最後の言葉を投げかける。

「大人の方も高校生も、子供たちは・・・難しいか。 だけど・・・」

中学生はあと一、二年で道を決めなければいけない、まだ難しいとは思うが考えてほしい。 そして小学生は大人たちを見てほしいと続け、最後の最後の言葉を口にする。

「この村でハラカルラの生き物たちを獲らないことに賛成の方はこちら側へ来てください」

「何を勝手なことを言うか!」

すると玻璃が歩を出して水無瀬の方に歩きだした。

「玻璃! お前何を考えてる!」

「今さら言うのも情けない話だが俺はずっと反対だった。 満場一致などとは思っていない」

「親父・・・」

父親がそんな考えだったとは知らなかった。 一度下を向いた一ノ瀬誠が顔を上げる。

「俺もいく。 智一は無理しなくていいから」

立ち上がり父親の元に走って行った。

「誠・・・」

一ノ瀬誠は父親が立ち上がったことで同じように立ち上がることが出来るかもしれないが、後藤智一の両親は立ち上がっていない。 後藤智一の顔がだんだんと下がっていく。

玻璃に続いて高校生である誠まで水無瀬側についた。 村の中で玻璃と接触をしていたアンチの考えを持っている者達は、玻璃から息子も同じ考えだとは聞いていなかった。 それに今、玻璃は驚いた顔をしている。 きっと互いに知らなかったのだろう。 自分たちの家もそうだ、夫婦、家族とはいえ誰にもアンチであることを言っていない。 それなのに誠が立ち上がった。

誠が立ち上がったことは大きい。 それを称賛したい。 先程で最後にしようとしていたがオマケが付く。

「高校生が立ち上がりました。 大人の方々はどうですか?」

まったく水無瀬の言う通りだ。 玻璃と話をして褌(ふんどし)を締め直したというのに、二の足を踏んでいてどうする。
玻璃の持つ相関図に書かれていた者たちが次々と立ち上がり水無瀬側につく。

「な! お前たちなにを考えてる!」

引き留めようとする手とそれを拒む手が絡み合う。

水無瀬が振り返り潤璃に後を頼む。

「一ノ瀬さん、後をお願いできますか」

「ああ、溜まっていたことを言わせてもらうよ」

そこからは杏里を最初に順々に言いたいことを述べていったが、それを聞いてぽつりぽつりと水無瀬側に移動してくる者がいる。 だがやはりそれを止めようと手が伸びてくる。 その内に怒号も飛び交い、止めようとして伸びてきた手をはじいたのが切っ掛けで取っ組み合いさえ始まってきた。 その取っ組み合いを止めようとする者はいなく、反対に手を貸す者がいる。

水無瀬としてはやりたいだけやればいいと思っているし、それこそこれは村の問題だと思うが、見て見ぬ振りはどうかと後を頼んだ潤璃を見る。

「気が済むまでやらせればいいよ」

笑みを添えてそう言った。

最後は潤璃でしめたが、部下を導くだけの能力だけではなく、プレゼンなどもしてきたのだろうか、間の取り方から話の持っていき方からやはり潤璃の説得力は大きく、最後の最後まで迷っていた者たちが水無瀬側についた。 そして無関心だった者たちは多数を選んだようでこれまた水無瀬側についた。
結局水無瀬側についたのは、というより、村側に残ったのは長と長の周りに居る者と現在研究を重ねている者、そして全員とは言わないが多くの年寄りたちと数十人の中年男女で百人を割ることとなった。 3分の2以上が水無瀬側についたということである。

現在研究を重ねている者は心の底から研究をしていきたいのか、ハラカルラの生き物のことを何とも思っていないのか、それともこの研究を終わらせることで収入がなくなることを危惧しているのか。 研究を終わらせると働かなくてはならないが、農業など出来ないことは分かっている、そんな経験も無ければ力もない。 そうなれば村を出て就職先を見つけなければいけなくなるが、今さらどんな仕事に就くことが出来ようかと考えているのだろう。

「おおよそ村の75%ほどが反対のようですね」

水無瀬が長に話しかける。

「そ、それがどうした」

「それでもまだ続けると仰いますか」

「村には村の、代々の考え方がある」

「それは代々ではなく水見さんからでしょう、決して代々からではない久遠の真理ではありません。 どこの門であろうとも守り人はそれを知っています。 白門は途中から歪んだものとなった。 代々はハラカルラを守ってきたはずです。 ですからハラカルラは考えを改められるのを待っているんだと思います」

「・・・」

後ろで杏里の声がする。
振り返ると地べたに座っている兄の頭をペシペシと叩きながら「楽ばっかりしようとして、覇気のない顔をして、もっと人生を生きなさいよ! お母さんが甘やかすからこうなるんじゃない! これじゃあ、嫁のきてもないわよ!」 と叫んでいる。

その少し離れた場所では後藤智一とその父親だろう二人が、智一の祖父母を説得している。 その光景が他にも見える。
村の中で互いが意見を言い合うようになってきた。 それは水無瀬が望んだ図である。

「水無瀬・・・水無瀬君」

横からかけられた聞き覚えのある声に顔を振り歩み寄る。

「長がどう思おうと、残りの奴らがどう思おうと、俺らが獲ることを止める」

水無瀬が頷く。 それが一番いい方法だ。

「はい、それを何よりもハラカルラは望んでいるでしょう。 それと、ご存知でしょうが朱門と黒門が見回りをしていましたが、それを止めてもらいます」

玻璃が驚いた顔をする。 朱門と黒門が見回っていたことは知っている、だがこの水無瀬がそれに関与していたのか。 いや・・・言い出しっぺ、なのだろう。 潤璃から今回のことは水無瀬が話を持ってきたと聞いている。

「ああ、手を煩わせたな、謝っておいてくれ」

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