書く仕事

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「完璧な涙」 神林長平

2007年06月07日 22時27分22秒 | 読書

実に久しぶりに、SF小説を読みました。
最初、タイトルを見て、この本を手に取った時はミステリーかな?と思ったのですが、裏表紙の説明の最後に「本格SF」とありました。
最近はあまりSFには食指が動かなかったのですが、裏表紙のあらすじに惹かれるものがあり、読んでしまったというしだいです。
読んでいて、SF小説独特の緊張感を思い出しました。
いやあ、なつかしいなあ。
若かりし頃、まだ、宇宙や生命が神秘に満ち満ちていた(と思っていた)頃、空想壁のあるcoollife少年は、時空のかなたに自らの魂を飛ばして、SF小説の主人公を夢見ていたのです。ははは!
アーサーCクラークにしても、小松左京にしても、SFのスタイルは用いていますが、その物語の骨組みには、非常に哲学的な香りがしますね。
この場合の哲学とは、倫理的な「べき」論ではなくて、生命や空間の本質とは何か?とか、自己とは何か?とか、カントやデカルトに近い領域の哲学なんです。
この本の場合、哲学的なテーマとして鋭く切り込んでいるのは、「時間」です。
過去から未来へと連続的に流れるものと信じられている「時間」は、実はそうではなくて、過去と未来とのせめぎあいとしての現在があり、場合によっては未来が過去を滅ぼそうとすることもある???
っと、このくらいにしておきましょう。
「BOOK」データベースによると、
生まれてから一度も、怒ったり喜んだり悲しんだりしたことのない少年、本海宥現。家族との感情の絆を持たない宥現は発砲事件にをきっかけとして、砂漠の旅に出た。砂漠には、街に住むことを拒絶する人々、旅賊がいる。夜の砂漠で、火を囲み、ギターをかき鳴らし、踊る旅賊の中に、運命の女・魔姫がいた。だが、突如、砂の中から現われた、戦車のような巨大なマシーンが、宥現と魔姫の間を非情にも切り裂く。それは、すべてのものを破壊しつくす過去からの殺戮者だった…。未来と過去の争闘に巻き込まれていった少年・宥現を描く本格SF。
ということで、主人公の宥現(ひろみ)には、感情がないのです。
それは、最初のうちは、精神的な障害として描かれるのですが、実はそれは、過去と未来との戦いに深く関わりがあるという事が、わかります。
この本のタイトルとも関係があるのですが、ネタばれになるので、このくらいにしておきましょう。
現実の世界から逃避したいと思うか否かに関わらず、たまにはこういう、思いっきり非現実の世界に、身を任せてみるのも、心のリフレッシュのためにいいような気がします。