書く仕事

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「青の炎」貴志祐介

2006年07月23日 19時17分38秒 | 読書
久々にすばらしいミステリーに出合えました.
貴志祐介さんの小説は初めてです.
貴志さんというと,ミステリーよりホラーの方で有名ですね.
「ISOLA」とか「黒い家」とかね.まだ読んでないですけど...
でも,BOOK・OFFで偶然見つけたこの本,大 大 大収穫です.
こういうことがあるから読書はやめられない.
さて,肝心の内容ですが,ジャンルから言うと,倒叙ものということになります.
犯人は最初からわかっていて,犯人側の視点で事件が語られ,それを刑事が追求していくというパターンです.
犯人かつ主人公は17歳の男子高校生,秀一.女手一つで家族を養う母と素直で明るい妹,遥香の3人家族です.
その平和な家庭を土足で踏みにじったのが,母が一時期だけ結婚して別れた男,曾根です.曾根は秀一とは血の繋がりはありません.
曽根は家族の,ある秘密をネタに母を脅し,家に上がりこみ,傍若無人な振る舞いをするだけでなく,妹の遥香にまで手を出そうとします.
しかし,母にはある秘密があるため,警察も法律も家族を守ってはくれないのです.
窮した秀一は周到な計画の下に完全犯罪を企てます...
もちろん,犯人が誰であるかということはミステリーでは重要な要素であることは間違いありませんが,通常の犯人当て推理小説では犯人が誰であるかを隠さなくてはならないために,なぜ,犯人がそんな犯行に至ったかという動機はどうしても二の次になります.それが,推理小説の最大の弱点なんです.
動機がかけなければ,どうしても事件の描写がテクニカルなものに終始してしまいがちですね.つまり人間を描くことができなくなるわけです.
この「青の炎」では,主人公の人間性と徐々に追い込まれていく過程が見事に描かれていて,鬼気迫るものがあります.
秀一が初めて曾根と対当するシーンは本当に胸がドキドキ,口がカラカラになりました.
本を読んでこんな気分になったのは久しぶり,何十年ぶりかもしれません.
まさに「本に釘付け状態」となります.
もう一つ心を打つのは,秀一の心の優しさです.殺人というのは普通,自分の利益とか,自分の身を守るためにやるものですが,秀一の場合,母と妹というかけがえのない家族を守るためにやむを得ずやってしまう点が心に痛いです.そして,完全犯罪を狙うのも自分が捕まりたくないということではなくて,もし自分が捕まったら,母を悲しませ,妹には殺人者の妹という烙印が押されてしまうことになるからなんですね.
物語の結末は,当然内緒ですが,秀一のやさしさが胸を打つと同時に,読者を納得させる説得力があります.
そうですね.今まで読んだ中では,松本清張さんに一番近い気がします.
あと,私は見ていませんが,蜷川幸雄監督,二宮和也主演で映画化されていますね.
この貴志さん,すばらしいです.要注目です.