書く仕事

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「死神の精度」伊坂幸太郎

2006年07月02日 00時28分42秒 | 読書
伊坂幸太郎さんの小説を初めて読みました.
先週たまたま大学の図書館で伊坂幸太郎さんの「魔王」をみつけて,読んでみようかなあ,と思ったのですが,その時は「夜のピクニック」を読んでいる最中だったので,一旦はあきらめました.で,数日後に借りに行ったら,すでに借りられていました.代わりに借りたのがこの「死神の精度」.
「星新一」を思わせる作風ですが,奇抜なアイデアと独特の感性で,はまりそうです.
ジャンルとしてはミステリーとファンタジーの中間なんでしょうけど,主人公が「千葉」という名の死神なんです.
世界のバランスを取るために,不慮の事故で死亡すべき人間が選ばれます.選ぶのはある組織なんですが,死神はその組織から派遣されて,選ばれた人間に近づき,彼が(彼女が)が本当に死ぬことを『可』とすべきか,なんらかの理由により『見送り』とすべきかを判断する仕事をしています.彼が『可』を報告するとその人は翌日に不慮の事故で死ぬのです.
『見送り』を報告すると,突然死は見送られ,天寿をまとうすることになります.
この小説は6人の選ばれた人たちと「死神」千葉の交流の物語です.
物語の設定が非常に変わっているし,現実離れしているんですが,彼のアイデアというか主張を表現するには,この設定しかないなと思わせる説得力があって,奇抜さが不自然さを全く感じさせないです.そう来たか,と思わせてくれます.
あと,現代社会では,人の死ということに対する過剰反応というのでしょうか?「死ぬ」ということが最悪の不幸であるという共通意識がありますね.ハイジャック事件が起きたとき,「人の命は地球より重い」と当時の首相,福田さんが言いましたが,この小説では,福田さんが聞いたら天国でくしゃみをしそうなくらい,人名が軽いものとして記されます.
これは私の思い込みですが,人名が何より大切という考えは,「生きている人」の論理ではないかと思うわけです.人は死んでしまえば,痛いも辛いもない.苦しみはありません.だから,もし,死んだ人にインタビューできたとして,あなたにとって最大の不幸は「死」ですか?と聞けば,たぶん「いいえ」と言うのではないかと...
でも,生き残った人にとっては,「死」はさまざまな苦しみをもたらします.まず,愛する人,大切な人との別れを迎えなければならない.これが苦しく,辛いことであることは間違いないです.失うことの苦しみですね.また,その死が天寿をまとうした後の死ではなく,突然の不幸の場合,将来訪れるであろう,いろいろな楽しみや喜びを味わうことを奪われることになります.また,一家の大黒柱が死んだ場合は,経済的な困窮の問題も発生するでしょう.しかし,考えてみてください.これらはいずれも,生き残った人が味わう苦労であって,死んでいく本人はそんなこと関係ないわけですね.
つまり,「死」を恐れるという感情は,自分も自分の周りの人も死ぬはずがないと思い込んでいる,現代人のエゴイズムに過ぎないのではないかと思うんです.
ま,それが当たっているか外れているか,いずれにしても,伊坂幸太郎さん,面白いですね,しばらく伊坂さんの小説読んでみようかな.