マリインスキー・バレエ団の来日公演、『愛の伝説』1日目に行ってきました。
感想は――
ロパ様、圧倒的
ロパートキナの全幕を観るのは今回が初めてでしたが、マリインスキーの、いやバレエ界の至宝という言葉は全く大袈裟ではないのだなあということが、心底わかりました。
実は今回の来日公演、白鳥は3年前のリベンジで早々に押さえたんですけど、こちらの方は少々迷ったんです。でもロパ様が以前「一番好きな役は?」という質問に「愛の伝説のバヌー」と答えていましたから、オデット・オディールよりも好きだというのなら、、、買わないわけにはいかないじゃないのーーーー!
というわけで買ったのですが。
予習しようとyoutubeでこの作品を観てみたのです(ロパ様、テリョーシキナ、スコーリクのを少しずつ)。そしたら、・・・微妙で・・・。ダンサーがどうこう以前に、作品が・・・。男性の衣装はいわずもがな、女性二人の衣装と振付もクリオネにしか見えず・・・。
音楽もうーん・・・、ストーリーもうーん・・・。
しかし実際に生で観たら、すんごい楽しかったんです
こんなに映像と生舞台でギャップのあった作品は初めてだなあ。
一番の理由は、間違いなく生オケ効果。
こういういわゆる不協和音系の音楽(作曲はアゼルバイジャン出身のメリコフ)って、家でCDや映像で聴いても全く楽しくないのよね^^; 生音で聴いてこそだなぁと。いやぁ、楽しいねぇ。興奮した。ロシアの楽団で聴けてよかったわ。
オケは今回も帯同でしたが(アレクセイ・レプニコフ指揮)、予想以上に気合が入っていて美しくて吃驚。クラシックコンサートを聴いてるようでした。後から知りましたが、客席にゲルギエフ(←ミュンヘンフィルと来日中)が来ていたそうで。なるほど。昼間バレエ団と記者会見をしていましたから、そのまま一緒に来たのかな。
とはいえトランペットの真ん中のケヴィンベーコン似の兄ちゃん(近くで見たらおっちゃんかもしれないが)、「二日酔いですか・・・?」なダルそ~なかったるそ~な雰囲気で、おいおいやる気なしかよ(ーー;)と思っていたんですけど。二幕でやる気いっぱいなソロが聴こえたからふと見るとその兄ちゃんで。ロシア人って読めない・・・^^;(ロシア人じゃないかもだが)。
あと三幕でおい!って箇所もありましたけど。バヌーとシリンが山に到着して三人が対峙した瞬間の静寂場面でプッと鳴らした奴がおった。あそこ一番のクライマックスなのに(T ^ T) 。でもいいです、盛り上げてくれたから。
今夜楽しめたもう一つの要因は、ロパ様のインタビューとファテーエフさんのプレトークのおかげ。
「舞台装置はとてもシンプルで、象徴的です。舞台装置はページがぼろぼろになった大昔の本なのです。それぞれのページにはこの物語の中の出来事が起こった場所と時代がおぼろげに示唆されているだけです。これらのページには時間の流れの中で擦り切れてしまった文字が見えます。まさにこの本の中から、愛の伝説の主人公たちが蘇って登場してくるのです。ただし、それは生身の人間ではなく、文字であり、フレーズであり、記号なのです。それが生きた人間に変身するのです。私はこの作品のスタイルが大好きです。それは私を子供の時代に引き戻してくれるからです。メルヘンの世界が生き生きとした現実の世界だと信じ、奇跡を信じ、ハッピーエンドが待ち受けていると信じていたあの頃に連れて行ってくれるのです。」(ロパートキナ)
この「メルヘン」という言葉は、youtubeで唐突なストーリー展開に戸惑っていた私には、すごく参考になりました。なるほど!と。かなりソヴィエト的なメルヘンではありますけど^^; そう思うと、最後に舞台上の本のセットが静かに閉じていくところ、一つの壮大な昔のお伽話を読み終えたときのような気持ちになります。
そして、ファテーエフさんによるプレトーク。
情報が行き渡っていなかったのか、客席はガラガラ&出入りする人達でざわざわ^^; それを全く気にする様子なくにこやかに話し始めるおっさん。ロシアだ笑。自己紹介もなし。ロシアだ笑(偏見)。
でもこのおっさんは見たことがあるぞ。たしか先日の記者会見で真ん中にいた人だ。で、何をしている人なのだろう(所詮その程度の知識)。マリインスキーのシャチョーさん?シャチョさんにしては品があるというか佇まいがエレガントだけども。
帰宅して知りました。舞踊監督さんでした。そして元ダンサー。納得。
20分トークの内容は、作品の概要。ではあったのだけど、これが私の作品理解に非常~~~に助けになりました。
・この作品には三つの愛が描かれている。バヌーのフェルハドに対する愛。フェルハドのシリンに対する愛。大臣のバヌーに対する愛。
・これは交響曲的な作品。ストーリーをマイムではなく振付で表現している。独特の難しい振付で、アラビア文字のようなイメージ。
・交響曲的と言ったもう一つの理由は、物語や感情を音楽で表現していること。常に音楽をよく聴いてください。例えば兵士の行進場面は、始めは数人の兵士が登場して音楽も静か。兵士が増えるに従って色々な楽器の音が混じって最後は壮大な音楽になる。それから三人になったときの囁きのような音楽は、三人の言葉というよりも心の声の会話。
以下、公演の感想をざっと。
ウリヤーナ・ロパートキナのバヌー。
最初に書きましたが、彼女のバレリーナとしての存在感と魅力が際立っていた夜でした。どの分野でも、基本は客観的なスタンスのアーティストが私は好きなのですが、彼女もそういうタイプのダンサーなのですね。
「バレエとは感情や情緒を肉体の動きで形象化することなのです。なぜなら、私たちダンサーには言葉がありません。あるのは動きとマイムだけなのです。言い換えれば、《感情の絵》を描くということであり、決して簡単なことではありません。…感情を《準備》しなければならないのか?と問われれば、私は「イエス」と答えざるを得ません。しかし、バレリーナが舞台に出て行く時、魂と心を自由に解き放つためには、稽古場での作業を活用しなければならないのです。私にとって大切なことは《音楽の中に》に融け込み、作品の本質に没入し、バレエの観念の中に《実人生》を注ぎ込むことなのです。バレエ作品の中で主要な観念とは何か? それは魂の苦悩であり、愛、苦しみ、幸福、歓喜、思索、再生なのです。」(ロパートキナ)
彼女のバレエって、指先の動きから、決めのポーズから、歩き方一つから、一瞬一瞬の体の動き全てが音楽に溶け込んで、感情を表しているんだなぁと観ていて感じました。動きが計算し尽くされていて、それが完全に自分のものになっているから、顔の表情を観る必要がなくなって、オペラグラスが不要に感じる(細かな動きまで見たいから、結局要りますけど)。分野は違いますが、三津五郎さんの舞踊もそうだったなぁと思い出しました。無駄な動きがなく、体が音楽そのものになっているというか。まさに至芸の美しさ。
そして彼女の孤高の雰囲気が、この役にぴったりだった。youtubeで観たときはこの役のドロドロした感情が足りないように感じられたのだけど、今回観た彼女のバヌーは、内面の深い苦悩や激しさや絶望や脆さが伝わってきました。それが大袈裟に表に出ていないからこそ、一層切ない・・・・。それを表に出さないのが、女王でもあるバヌーという女性なんでしょうね。そんな彼女が内面を見せる三幕の上の写真の場面。ロパ様、神がかってました。。。
以上。
で終わらせてもいいくらいロパートキナが圧倒的だったのですけど、それではあんまりなので、他のダンサーについても(あ、他のダンサーが悪かったわけではなく、ロパ様が際立って圧巻だっただけです)。
そんなロパ様のバヌーと好対照だったのが、クリスティーナ・シャプランのシリン。
こちらも可憐な少女というよりは、凛としたところのある王女らしい王女。決して性格は悪くないのだけれど、自分の心にまっすぐな、王家育ちの、悪意がないがための残酷さがよく出ていて、ロパートキナのバヌーとよく合っていました。若くてとても美しい容姿をしているところも、説得力がありました。
シリンと恋に落ちるアンドレイ・エルマコフのフェルハド(宮廷画家)。
wiki等によると28歳のファーストソリスト(身長195cm!)。ラントラートフと同世代なのか。たまに立っている姿が棒になっていたり粗い感じもあったけれど、時々はっとするキレと大きさがあって面白いダンサーだなぁと。サポートも上手。基本控えめだから、ロパ様と踊るときなどにふいに強引な仕草をすると独特の色気が出て、それがとても素敵でした。ああいうガツガツした面をもっと前面に出すといいと思うのだけどな。youtubeで観たロパ様とのカルメンも、色っぽくてとてもよかったもの。品があるところも◎^^ しかしこのフェルハドって役、最初から最後まで踊りまくりですね。姉とも妹ともソロでも踊ってるものな~。
「『愛の伝説』のフェルハドは、自分自身にとても近い役です。愛の成就をめざしながらも、最後は人々のために尽くす生き方に共感します。と同時にこの作品は男性ダンサーにとって、肉体的にも精神的にも最も難しいバレエです。」(エルマコフ @japanarts twitter)
大臣役のユーリ・スメカロフは、フィギュアのプルシェンコの振付も担当してるんですね~。youtubeでイリヤ・クズネツォフ(この方、ボリショイの先生と同名別人なのね)が大臣でバヌーがロパートキナの映像を観ていたのですが、そちらの方がバヌーへの愛情がはっきりしていて、踊りもダイナミックで好みではありました。でも比べれば、の話で、決して悪くはなかったです。彼が率いる兵士達も、迫力あるのにエレガントで素敵だった♪ エルマコフのインタビューによると東京文化会館の舞台は狭いそうで、そんな中ぶつかることなくあれだけの踊りを見せてくれた群舞の皆さま、さすがでございました。
さて、今回はボリショイの『白鳥の湖』、『ラ・バヤデール』につづく、私にとって三回目のグリゴローヴィチさんの振付作品。プログラムによると、昨年上演された改訂版ではなく、原典版だそうです。グリゴロさんなので想像力駆使を覚悟していましたが、あの白鳥の湖よりずっとわかりやすくて吃驚&ほっといたしました笑。それもこれもファテーエフさんのプレトークのおかげ。
この作品、とにかく素直に音楽に身を預けていれば、そして今回のように作品世界を表現できる演奏をしっかりオケがしてくれれば、ただボーと観ているだけで自然とストーリーや感情が伝わってくるのですね。本当に楽しい体験でした。また一つバレエの楽しみ方を教えてもらった。
ただ、最後にバヌーがフェルハドに「シリンと一緒になりたいのなら山から去りなさい」と選択させたところ(@プログラム)は、私には振付だけではちょっと理解しにくかったかな。民の後ろをゆっくり歩くバヌーの様子でそうなのかな?とは思いましたが。私は観ていませんが、テリョーシキナの演技だったらわかりやすかったのだろうか。
あ、そうそう。ラストを男性ダンサーで終わらせるのも、Theグリゴロさんだな~と感じました笑。
ヴィシニョーワ&コールプは今回来日していないんですね。三年前のコンダウーロワのガムザッティと三人のバヤ、素晴らしかったなぁ。次回はぜひ二人もご一緒に!
来週末はロパ様白鳥。
ロミジュリはこれ以上仕事を早退できないので、諦めました。すごーくすごーく観たかったけれど
左は2012年の、右は今回のプログラム
ロパ様&エルマコフの『カルメン』(二人の絡みは26分以降)。ラテンな踊りってロシアと合わないイメージでしたが、意外や、やりますね~ロシアン。いわゆるカルメンという感じではないけれど、二人とも素敵。ザハロワ&ロヂキンのカルメンも意外によかったし(もちろんヴィシニョーワのも素晴らしかった)、ロシアの洗練され過ぎていないところがラテンに通じるのかな。
同じ二人で、『The Death of the Rose』。こうやって見ると、ロパートキナってやっぱり背が高いんですね。
ロパ様の愛の伝説の映像はこの映画でどうぞ~。公式サイトはこちら。1/30よりロードショー。
でも、こちらの役の方が人間を感じられるからいいかな、と、負け惜しみですが。
終わり方がスパルタクスと同じようで、グリゴローヴィチのパターンなのかな?と思いました。
一つ、静寂の場面で音を出したのは金管の方ではなく、バイオリンか何かの弦の音だったと思いますので、そこだけ。
ロパ様の白鳥は3年前に撃沈しているので、今回は待ち受けて買いました。一度も観たことがないので楽しみです。でもレア度は愛の伝説の方が上だと思います!
あれは弦の音でしたか。確かにあそこは弦から始まりますね。あれだけは残念ではありましたが、ブラボーな素晴らしい演奏でした(^_^)