風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

大鳥圭介ほか 『南柯紀行・北国戦争概略衝鉾隊之記』

2007-09-30 01:17:51 | 

蝦夷の事を思ひ出でて 
   えぞのうみのふかき心を人志らで ただ白浪の名をやわすらん

(大鳥圭介ほか 『南柯紀行・北国戦争概略衝鉾隊之記』)

大鳥圭介、今井信郎、小杉雅之進によるそれぞれの日記を、この順番で掲載しています。
なかでも大鳥の「南柯紀行」は特におすすめ!
大鳥については『大鳥圭介伝』がかなりオススメなのですが、なにせ高額すぎるのでまずはこちらからどうぞ。

「南柯紀行」は、江戸脱出~五稜郭降伏後の獄中まで大鳥がつけていた日記。
前半が戊辰戦争時の日記で、後半が降伏後の獄中日記という構成です。
戦闘記録の部分はさすが当事者の生の声だけあり、小説にはない迫力がある。
また、単なる戦闘状況記録だけではなく、「~の無事な姿に再会し涙を流した」とか「~でおにぎりをもらったが、2つは食べて、1つは包んで持っていくことにした」「ここには妓楼や温泉があるのだが多事のため休めず残念だった」とか日常的な記述も多く読んでいて楽しめる。

獄中の記録がまた面白い(榎本、大鳥、荒井など皆同じ牢)。
ノミや鼠、食事の内容、厠の様子まで実に詳しい。
「この牢屋はそもそも自分が建てたもので、そこに自分が入ることになろうとは笑うしかない」「この糾問所も徳川時代に自分と荒井が預かっていた所で、毎日出勤しては番兵が整列し捧銃(ささげつつ)をして敬礼していたものだが、今は囚人としてここに繋がれている。往時を思い出せば一場皆夢なり」「厠を汚したのは誰かということで皆が掃除を譲り合うのには閉口した」など、気の毒なのだがつい笑ってしまう文章も多い。
ワインの醸造方法を勉強したりと、大鳥の多趣味ぶりも健在。
また五稜郭の生き残り同士で壁越しに英語の授業もしていて、その向学心は感動的。

さらに、小遣いで買う物については、上に立つ一人が決めて残りの者はそれに従うのがそれまでの獄の慣習だったが、大鳥や榎本たちが入牢してからは皆で相談して決めることにした、など獄中まで封建制を廃止し共和制にしてしまうところはさすが笑!

以上は面白い部分ばかり紹介しましたが、一方で獄中で箱館を思い出していくつも詩を読んでおり、あたりまえだけれど相当深い感慨があったものと思われます。
以下の詩もそのひとつ。
「蝦夷の事を思ひ出でて えぞのうみのふかき心を人志らで ただ白浪の名をやわすらん」

※上の引用は私が現代語訳したもので、本の記述は文語。もっとも文語のわりには読みやすい文章です。
※「南柯」とは南を向いた枝のことで、中国の故事「南柯の夢」は”儚いこと”の意。

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