風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

上橋菜穂子 『流れ行く者』

2011-03-06 20:41:10 | 



 実のしっかりつまった籾は水に沈んで、すかすかの籾は浮かんでくる。浮かんだ籾は、捨てられる。苗床に蒔かれることはない。
 沈んだ籾は丁重に祭られてから、苗床に蒔かれて大切に育てられ、やがて、青々と伸びてきたら田に植えられて、そして、実りのときをむかえる……。
 ほんとうに、浮き籾は実らないのか、一度、タンダは、こっそり、捨てられた浮き籾を田んぼの端に蒔いてみたことがある。芽をだすんじゃないかと、毎日見に行ったけれど、田ネズミに食われてしまったのか、それとも、やっぱり、中身がなかったのか、とうとう芽をだすことはなかった。――植えても芽をだせなかった浮き籾がかわいそうで、そっと、埋めたあたりの土をなでながら、こんど生まれ変わってくるときは、青い芽をだしなよ、と、いわずにはいられなかった。
 いまも、籾の選別を見るたびに、そのときの哀しい気持ちを思い出す。

(上橋菜穂子 『流れ行く者』)

守り人シリーズ外伝。
バルサが13歳の頃の短編集。
これがまた、、、素晴らしかった。長編に全く負けていない。もしかしたら長編より好きかもしれないくらい。
浮き籾や髭のおんちゃんを「かわいそう」と思ったり、ナヤの木の皮を剥ぎ取るときに「痛々しい」と感じたり、小川の魚や狐の親子の気持ちを想像してわくわくしているちびタンダ。愛おしすぎる・・・。
「雑草なんてこの世にはない」と言う大人タンダの言葉は、こういう繊細な優しい心に基づいているのですね。
この頃はまだ姉弟のようなバルサとの関係もとてもよかった。
守り人シリーズはいつも「外れた人たち」を主人公に据えていたという上橋さん。
その「外れた」人たちの想いがとても繊細に描かれている、極上の短編集でした。
守り人シリーズのこういう短編集、もっともっと読みたいなあ。

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