風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

日本より頭の中のほうが広い

2022-02-01 23:04:34 | 

「お互いは哀れだなあ」と言い出した。「こんな顔をして、こんなに弱っていては、いくら日露戦争に勝って、一等国になってもだめですね。もっとも建物を見ても、庭園を見ても、いずれも顔相応のところだが、――あなたは東京がはじめてなら、まだ富士山を見たことがないでしょう。今に見えるから御覧なさい。あれが日本一の名物だ。あれよりほかに自慢するものは何もない。ところがその富士山は天然自然に昔からあったものなんだからしかたがない。我々がこしらえたものじゃない」と言ってまたにやにや笑っている。三四郎は日露戦争以後こんな人間に出会うとは思いもよらなかった。どうも日本人じゃないような気がする。
「しかしこれからは日本もだんだん発展するでしょう」と弁護した。すると、かの男は、すましたもので、
「滅びるね」と言った。――熊本でこんなことを口に出せば、すぐなぐられる。悪くすると国賊取り扱いにされる。三四郎は頭の中のどこのすみにもこういう思想を入れる余裕はないような空気のうちで生長した。だからことによると自分の年の若いのに乗じて、ひとを愚弄するのではなかろうかとも考えた。男は例のごとく、にやにや笑っている。そのくせ言葉つきはどこまでもおちついている。どうも見当がつかないから、相手になるのをやめて黙ってしまった。すると男が、こう言った。
「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より……」でちょっと切ったが、三四郎の顔を見ると耳を傾けている。
「日本より頭の中のほうが広いでしょう」と言った。「とらわれちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって贔屓の引き倒しになるばかりだ」
 この言葉を聞いた時、三四郎は真実に熊本を出たような心持ちがした。同時に熊本にいた時の自分は非常に卑怯であったと悟った。

(夏目漱石『三四郎』より)

ああ…、『三四郎』好き!
広田先生好き!特にこの冒頭の汽車の場面が好き!
上記は読みやすい新仮名遣いで載せたけれど、旧仮名遣いの「亡びるね」が断然好き。
ちなみに辻仁成さんが最近パリで飼い始めたワンちゃんの名前は、三四郎。仁成さんも『三四郎』がお好きなんですって

さて、相変わらずストレイ・シープな私ですが、最近再び英語の勉強を始めてみたのです。最近コロナ禍であまり使ってないですけど、今の会社にいる限りはどうせずっと必要だし。
とりあえずリスニングの訓練を、とyoutubeでこの映画↓を見てみたのです(本当は現代ドラマとかの方がいいのでしょうが、好きなものじゃないと楽しくないし)。

SHERLOCK HOLMES MOVIES | THE HOUND OF THE BASKERVILLES (1939) | classic movies | Basil Rathbone


私の中でホームズというとジェレミー・ブレットのシリーズやBBCのラジオドラマシリーズなんですけど、このベイジル・ラスボーン&ナイジェル・ブルースもいいねえ
私が生まれるより40年近くも前の作品とはとても思えない。1939年というと、第二次世界大戦の開戦の年でしょう。その年にアメリカはこういう映画を作っていたのだものなあ。その後の太平洋戦争中もこのシリーズはずっと途切れずに作り続けられていたというのだから(日本が贅沢は敵だ!とか一億玉砕!とか叫んでいた頃に)、日本は戦争に負けるわけだわよ。
そしてコナン・ドイルが亡くなったのが1930年なので、そのわずか9年後の映画ということになる。
漱石がロンドン留学をしていたときに、ホームズもベーカーストリートにいたんですよね。もちろんフィクションの世界の話ですけど。しかし漱石はドイルやホームズについては完全スルーなのであった…

『バスカヴィル家の犬』の舞台はダートムーア。私、イギリスのムーアの景色が大好きでねえ。。。在英中にヨークシャームーアには行けたけれど、ダートムーアには行けなかったのが心残りです。ああいう北の荒涼とした風景が好きなんです。アイルランドもスコットランドも好き。だからスイスよりアラスカ派。いま日本で最も行ってみたいのは道東。真冬の釧路湿原とか摩周湖とか行きたい

しかし、少し英語から離れていただけで恐ろしいほど単語を忘れている自分に驚く・・・。かつて普通に使っていた単語も忘れるなんて・・・。英語の単語って忘れるものなんですね・・・。日本語の単語はどんなに長く使わなくても忘れないのに・・・。
うちの上司、昔は米国で働いていて英語も毎日苦もなさそうに話してるんですけど、外国人と食事に行くときにいつも自分一人じゃなく誰かを連れて行こうとするので一度理由を聞いたら、「食べながらずっと英語を話しているのは疲れるから」と。この上司でもそうなのか。ネイティブと同じ感覚で話せるようになるには10年向こうに住むことが必要と聞いたことがあるけど、本当にそうなんでしょうね。。。私には一生無理だ。でもまあ、頑張ります。。。

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