風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

『レント 20th anniversary tour』 @国際フォーラムC(12月28日)

2016-12-31 00:03:00 | ミュージカル




2016年の観劇納めは、『レント』20周年記念ツアーの来日公演。
US tourと同じメンバーが来日しているようです。

『レント』はオリジナルキャストによる映画版を一度観たことがあるだけで、そのときの後味は音楽も俳優も素晴らしいけれど、作品については少々モヤモヤ感が残るものでありました。
今回舞台版を観てもそのモヤモヤが完全に消えたわけではないのだけれど、視覚的な情報量の多い映画版よりも歌に集中できたことで、作品の言いたいことをよりストレートに感じることはできたように思います。
もっとも舞台版だけだとストーリーがとってもわかりにくいので、映画版を先に観ておいたからこそ歌詞に集中することができたのですけど。

この世界の全ては借り物(レント)で、この命も神様からの借り物にすぎない。
この考えには共感。
なのだけど。
家賃を払えるくらいのお金を稼ぐことも死にたくないのであれば最低限必要なことなのでは、、、ともやっぱり思っちゃうのよねぇ、ツマラナイ大人になってしまった私は。約束を違えて昨年の家賃まで取り立てるベニーも確かに悪いけれども。色々病み気味なロジャーはともかく、マークはねぇ。でも食べてはいけてたということは、バイトくらいはしていたのかな。

There is no future
There is no past
Thank God this
Moment's not the last

There's only us
There's only this
Forget, regret or
Life is yours to miss
No other road, no other way
No day but today

今回私が一番感動したのは、ミミが生き返った後に歌われるこのfinaleの中のThank God this Moment's not the last’の部分でした。これ映画でも言っていたっけ?と帰宅してからDVDを観直したところ、ちゃんと言っていました。ただDVDでは和訳が「今が続くことを感謝しよう」となっているんです。「今が続くこと」というとある程度の「未来(future)」のニュアンスを私は感じてしまうのだけれど、原詞を直訳すると「今この瞬間が最後ではないこと」、「今この瞬間に(君と)生きていられること」に感謝しているんですよね。細かいようですけど、この違いは大きいように思うのです。なぜなら「今が続く」という言葉に合うほどの未来の時間は、きっとミミには残されていないと思うから。今がどれだけ続くかはわからない。きっとそう長くは続かない。でも少なくとも今、僕達は生きている。その幸福を彼らは噛みしめているのだよね。

There's only now
There's only here
Give in to love
Or live in fear
No other path
No other way

'Cause I die without you
No day but today

このGive in to love Or live in fear’もDVDの訳は「愛を信じないと恐怖に負ける」とあったのですが、ここも「愛を受け入れるか、恐怖の中で生きるか」あなたはどちらの生き方を選ぶのか、という感覚で聴く方が私は心動かされます。今回の舞台の字幕はこの感じに近くて(正確には覚えていませんが)、感動してしまったのでした。
例え彼らの生き方に言いたいことはあろうとも、こういう気持ちってどんな生き方をしている人達にも、どんな時代の人達にも共通するものだと思うから。作品の普遍性ってこういうものを言うのでしょうね。ここ、客席(若い人が多くてビックリ)のあちこちからすすり泣きが聞こえていました。
私達の持っている時間、その使い方。そういったものを改めて意識させてもらえただけで、この夜この舞台を観ることができたそのことに、今この舞台を観ているこの時間に、神様に感謝したのでした。

ところで私が初めてニューヨークに行ったのは1997年で、南部の大学に短期留学しているときでした。そしてこの時ブロードウェイで初めてオペラ座の怪人を観たのでありました。当時はネット予約などなかったので、頑張ってチケットオフィスに英語で電話をして予約をしたこと以外は、舞台の記憶は殆ど残っていないのですが(私がオペラ座の怪人に初めて感動したのは、それから10年後のロンドンでした)。今思えばこの時RENTを観ておけばオリジナルキャストで観られたのだな~。
この頃には悪名高かった地下鉄もすっかりキレイになっていて、大学のアメリカ人に「今度ニューヨークに行くんだけど危険かな?」と聞いたら、「あそこは今アメリカで一番安全な街だよ」と笑われたのをよく覚えています。その後に行ったアトランタの方がよっぽど危険だと言われたものでした。イーストビレッジは車で通っただけだったけど、あの辺りはまだ「いかにもニューヨーク」な雰囲気がいっぱいでワクワクしました。私の泊まった安ホテルは例の外階段付きで、夜に窓から誰か入ってきたらどうしようと20歳の女二人は本気で怯えたり(夜中に風でカタカタ誰かが上ってくるみたいな音がしたの)、ということを今回の舞台を観ながら20年ぶりに思い出しましたです。NYはそれから数年後にもう一度行って以来、行っていません。なのでツインタワーのないマンハッタンの景色も知らないのである。

そして舞台を観ながら、HIVについての当時の感覚を思い出したりもしました。
89年~90年というとHIV、というよりエイズという呼称の方が一般的で、この病気の意味合いも今とは全然違っていたのよね。自業自得と当然のように言うほどまで若者の間でその予防法が常識だったわけでもなく、今ほど有効な治療薬もなく、発症を抑えることが難しい死の病だった。当時私は中学生だったけれど、当時の空気をそんな風に記憶しています。家田荘子さんの『私を抱いて、そしてキスして』を読んだのはその少し後だったかなあ(調べたら1993年刊でした)。

話を戻しまして、今回のキャスト。
映画版のキャストがとてもよかったので(多少老け感はあるものの)、比べるのもなんではありますが。
今回のメンバーは既にアメリカ国内を周った後に来日しているはずなのだけれど、そのパフォーマンスには微妙にぎこちなさを感じました。
調べてみたら皆さんまだ若くて、non-unionの方達なのだね。
レントという作品の個性としてはそういうキャストが合うのはわかるのだけれど、んー、もうちょいぐっと引きこまれるような演技を見たかったな、とも。決して悪かったわけではないのだけれど、全体的に少々物足りなさを感じてしまった。ロジャーの俳優さんがあまり好みのタイプではなかったのもちょい残念。
でも、マーク(Danny Kornfeld)とエンジェル(David Merino)のふとした表情は好きでした。
エンジェルの子はまだ大学生なんですね。死の場面で、白い服を来て一人舞台の後方を上手へゆっくり歩いていくとき(この演出好き!)の表情は、神々しささえあって素晴らしかったです。この子、一番最後のカーテンコール(追い出し音楽の後)に出てきたときに両手を小さく振って飛び跳ねてる姿がすっごくキュートで、見ていて幸せな気分になっちゃいました。このカテコのときに大きな地震があったのですが、あちらの人達にとっては地震ってそれは恐ろしいものでしょうに、皆さん笑顔で舞台に出てきてくれて、私はそれにも感動してしまったよ。

そうそう、最後にもひとつ。
映画でも思ったのだけれど、モーリーンのモーモーパフォーマンスの面白さが私にはわからないのです。DVDの音声解説でも「爆笑だよね」と言っていたし、今回も周りのお客さんは声を上げて笑っていたけれど、、、あれ、そんなに面白いかなぁ・・?マザーグースの唄と絡めてあるのだそうですね。でもモーリーン役の方のここのパフォーマンスは上手でした。

今年の舞台鑑賞はこれにて終了。
結局今年の観劇予算は歌舞伎座杮落としの年(2013年)を僅かに超えてしまった。。。クラシックコンサートに嵌ってしまったのがイタかったわ・・・。でもいいの、大きな感動をもらえたから。
来年も素敵な舞台に出会えたらいいな~。
No day but today.
限られた人生の時間の使い方について、RENTを観て考えさせてもらえた年の瀬でした。元となったオペラ『ラ・ボエーム』も観てみたいナ。

今年の更新はこれで最後です。
皆さま、今年一年ありがとうございました!
よいお年をお迎えください

【Cast】
ロジャー/Kaleb Wells
マーク/Danny Kornfeld
コリンズ/Aaron Harrington
ベニー/Christian Thompson
ジョアン/Jasmine Easler
エンジェル/David Merino
ミミ/Skyler Volpe
モーリーン/Katie LaMark

※2008年のブロードウェイのラストパフォーマンスより。Finale。

そういえばDVDの音声解説でも言っていましたが、「AZT break!」のところの演出が映画と微妙に違うのも面白かったです。
世界で最初のHIV治療薬であるAZTは、日本人の研究者が開発したのだそうです。今回最初に(しかも舞台と同じ12月に)日本に来てくれたのはそのおかげもあったりして。一方で日本食がバカにされてる場面もありますけどね^^;

※今回のエンジェル君

Comments (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする