風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

鞠子のとろろ汁

2015-10-13 00:12:37 | 


広重「隷書東海道・鞠子」


 丸子のとろろ屋 丁字屋 は当時まだ開店していなかったので、ここの主人と懇意な人に頼んで貰って、その日だけ私達三人の為に店を開いて貰った。前日私は自転車を走らせて山芋以外の材料一切――米、麦、味噌、塩、醤油、鰹節――を届けておいた。これがその日特別にとろろ汁を作って貰うについての条件であった。
 その頃の丁字屋は、今では想像もつかない街道筋のうらぶれた粗末な藁屋根の一軒家の茶店で、広重の保存堂版 東海道五十三次 の中の 鞠子 そのままの情景であったし、十返舎一九の 東海道中膝栗毛 の一場面そのままのたたずまいを残していた。
 私達三人は店先の囲炉裏のある部屋で、麦飯に名物とろろ汁をたっぷり掛け、塩辛い田舎沢庵を添えて昼食をした。…
 丁字屋の主人夫婦は私達の眼の前の土間の片隅で麦飯を炊き、とろろを擂り、葱を刻み、沢庵を拍子木に切った。先生はその有様を興味深く、黙々と一部始終眺めていた。
 食事を終えて外に出ると、先生は、
 「如何にも街道の茶店といった粗末なたたずまいと、眼の先の土間で主人夫婦が名物のとろろ汁を作ってくれるってところが気に入りました。まさに広重や一九や黙阿弥の世界ですな」
 と言われ、更に、
 「小宮(豊隆)がいつか、戦時中に丸子でとろろ汁をたべたと言っていたが、話の様子でどうもそれは昔からの茶店ではなく、比較的近来できた料亭のような家だったらしい。私は本家本元でたべたのだから、今度会ったら自慢してやらなきゃならない。」と言われた。
 (『中勘助の手紙 一座建立』 稲森道三郎)


昭和二十二年十一月のある日の記述。

絵画や歌舞伎の演出で私が一番好きなのは雪で、広重の描く雪景色も好きで好きで好きで。
次に好きなのは、食べ物の描写で(食い意地が張ってるのでね)。浮世絵などに出てくる食べ物が好きで好きで好きで。
いいなあ、美味しそうだなぁ、とろろ汁。丁字屋って今も鞠子にあるんですね。現在の建物は1970年(昭和45年)に移築されたものだそうなので、勘助達が食べた建物とは違いますが。
勘助が最初の一年半暮らした家(杓子庵)も残ってるし、静岡、遊びにいきたいなぁ。伊豆は毎年行ってるけども。
日帰りで行けなくもないかもだけど、どうせなら泊まりたいわ。



広重「東海道五十三次・丸子」
このお店が丁字屋さんだそうです。


アッシジの聖フランチェスコ聖堂にあるジョットの壁画「小鳥に説教する聖フランチェスコ」。
勘助が「古今東西を通じて最も好きな絵の中の一つ」と言っていたそうです。
小鳥、好きですもんね
他には鈴木春信の絵なども好きで、「雪中相合傘」を題材に詩を書いたりしてます。

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