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特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

腐乱ダースの犬

2025-05-05 06:26:15 | 特殊清掃
腐乱ダースの犬

GWも終盤、季節は夏に向かってまっしぐら。
で、これからは、何もかも腐りやすくなってくる。
食品業界の人をはじめ、戦々恐々としてくるのは私だけではないだろう。
ただ、この仕事は、凄惨性が高いほど生産性も上がる。
とは言え、そんな現場が生じることを望んでいるわけではない。
酷ければ酷いほど、特掃隊長自身がツラい思いをすることになるわけだから。

それはさておき、今年のGWは「最大11連休」と言われながらも赤日は二分割されて、実際は大型連休にしにくかったよう。
また、物価高も相まって、アンケート上では「家で過ごす」「外食するくらい」といった人が多かったそう。
ま、それでも、休暇がとれるだけいい。
連休なんて、余程のことがないかぎり無理。
ただ、こんな暮らしを長年やっていても、楽しいことがないわけではない。
ささやかながら、“笑顔の想い出”はある。

もう、十数年も前のこと。
とある自殺現場に置き去りにされていた小型犬を引き取ったことがあった。
飼主亡きあと引き取り手がなく、物件を管理していた不動産会社は役所に投げるつもりでいた。
となると、ゆくゆくは殺処分。
さすがに不憫に思った私は、もらい手を探すつもりで家に連れ帰った。
が、一緒に暮らすうちに情愛が芽生え、結局、家族になった。
このBlogでも「チビ犬」として何度か登場させたその犬、昨年11月11日が十回目の命日だった。
今でも一緒にいた頃を想い出すことは多く、懐かしさと可愛さに、一人微笑んでいる。


当方が担う業務の多くは特別汚損処理なのだが、その中身は多種多様。
人の死にまつわる案件が多い中、動物の死も少なくない。
ケースとして多いのは野良猫。
床下や植木の茂み中、車のエンジンルームなど、人目につかないところで死に絶え、腐敗してしまうのだ。
公道での轢死体など、現場が公地であれば行政(委託業者)が処理してくれるが私有地ではそういうわけにはいかない。
死骸自体は行政が回収してくれるものの、ゴミ袋に梱包して表に出すところまでは自分でやらなければならない。
しかし、腐敗が進んでいた場合は特に、それができる人は限られている。
で、当社の出番となるのである(もちろん有料で)(無料と勘違いする人が時々いる)。

問題になるケースで多いのは“ネコの多頭飼い”。
目に滲みるレベルの糞尿臭で近所からクレームがきていた家、
糞が大量で、特掃が土木工事のようになった家、
飼育放棄で餓死し、共喰いの末、最後の一匹だけを捕獲したマンション、
飼主が自殺し、数十匹の猫が餓死腐乱していた家etc・・・
これまで、色々な動物案件と遭遇してきた中で、犬の多頭飼いに遭遇したことも何度かあった。



出向いた現場は、閑静な住宅地に建つ一戸建。
まだ築数年か、きれいな建物。
土地はそれほど広くなく、建物もそれほど大きくはなかったものの、注文住宅のようで、なかなかオシャレな造り。
また、街から近いエリアでもあり、生活するにも飲食を楽しむにも至便の場所。
土地も建物も、結構な金額のはすだった。
が、主を失った家の庭は荒れ放題。
庭や外周には雑草が生い茂り、ポストからは郵便物があふれ、空き家になっていることは誰の目にも明らかな状態となっていた。

依頼者は、故人の両親で遠方に居住。
家族関係は良好だったが、お互い、頻繁に連絡をとり合うほどの用はなし。
何か用事があるときに電話やメールをするくらいで、何週間・何か月も連絡をとり合わないこともザラ。
しかも、故人は勤め人ではなく個人事業主。
普通の会社員なら無断欠勤をすれば不審に思われるのだが、そんなこともなし。
結果、亡くなってからも遺体はしばらく放置されたままに。
30代前半の若々しい肉体も自然の摂理には逆らえず、季節の暑さと湿気に追い討ちをかけられながら、その姿を著しく変えていった。

発見のキッカケは音信不通。
ちょっとした用があって母親が故人に電話をしたのだが出ず。
その時は、さして気にもしていなかったが、いつもなら当日のうち、遅くとも翌日には折り返しかかってくる電話がかかってこない。
再びかけても同じで、メールの返信もなし。
仕事の関係先は把握しておらず、他から情報を得ることもできず。
警察に相談しようかとも思ったが、息子(故人)は人里離れた限界集落に暮らしているわけでもないわけで、安否確認のためだけに警察に動いてもらうのは躊躇われた。
結局、「何かのときのために」と預かっていた家の鍵を携えて、はるばる故人宅を訪問。
たまった郵便物と静かすぎる佇まいに恐怖感に近い違和感を覚えながら玄関を開錠。
開けたドアの奥から漂ってくる異臭に鼓動を大きくしながら室内を進んでいったのだった。

現地調査は、それから二週間余り後となった。
警察による死因と身元の確認に時間がかかったためだ。
家の鍵は事前に送ってもらっていた。
「遺体があったのは二階の洋室」
「汚れもニオイもかなりヒドい」
「隣の部屋に動物の死骸らしきものがたくさんある」
その情報を持って、私は現地へ。
何の自慢にもならないけど、百戦錬磨の私はどんなに凄惨であっても大して緊張することはない(結局、自慢してる)。
しかし、“動物死骸、しかも“たくさん”というところが大きな引っかかりがあった。
それまでにも、動物死骸系の特殊清掃は何度もやってきていたが、経験数が少ないせいか人間の場合より耐性が低い。
人間の場合、当方が出向くのは遺体が搬出された後になるのだが、動物の場合は死骸本体と遭遇することになるため、そのネガティブインパクトにメンタルがやられるせいもあるだろう。
私は、大きくなってくる心臓の鼓動を小刻みな呼吸で整えつつ、ゆっくりと二階へ上がっていった。

「うわ・・・これは・・・ヒドイな・・・」
遺体痕もそれなりに凄惨だったが、そんなの可愛いもの。
強烈に目を引いたのは格子の柵が設けられた隣の部屋。
聞いてきた通り、そこには、何匹もの動物死骸が・・・
発見されるまでに要した期間に死因・身元判明にかかった二週間余を足すと、死骸は三週間ととっくに越えた期間 放置されたことになる。
しかも、高温多湿の時季に日当り良好の密閉空間で。
これでは重度に腐乱するのは当り前、もう、こっちが腐りたくなるくらい凄惨な状況だった。

眼がブッ壊れそうになっても、キチンとモノを見ないと仕事にならない。
そうは言っても、マジマジ見るのは恐い。
私の本能は目を背けたがったけど、特掃隊長の本能がそれを拒否。
そうこう葛藤しているうちに、
「犬?・・・犬だ・・・な・・・」
と、それらが犬であることが判明。
更に、サイズは小型~中型で大型犬はいなことも確認。
ひしめき合うように横たわる腐乱死骸と それらが溶解して生じた腐敗汚物が床を覆い尽くしている様は、もう、筆舌尽くしがたいくらい悲惨なもの。
腐敗汚物と同化してしまった小型犬は個体としてのカウントが困難で、実際はそれより少なくても「ワンダースはいるんじゃないか!?」と錯覚させるくらいのインパクトがあった。

「この仕事、断ろうかなぁ・・・んなことできるわけないかぁ(トホホ・・・)」
もともと、仕事に意地もプライドもない。
ビジネスライクをベースとしたちょっとした使命感と、頼られる(うまく使われる?)と漢気を出してしまう単細胞と、褒められる(おだてられる?)と ついカッコつけてしまう自己顕示欲があるのみ。
あまりに現場が衝撃的すぎるため、私はテキトーな理由をつけて、会社にも遺族にも“作業不能”を申告しようかと一瞬思った。
が、頼られていることを思い出し、辞退の考えは取り消し「やる!」という方向だけにだけ頭を働かせることにあらためた。

「はてさて、どうやって片付けるかな・・・」
技術は並で済むが、根性は並では無理(根性なしだけど)。
かかる負荷を考えると、やる前から気分は重々、意気は消沈。
少しでも効率的にやるため、少しでも合理的に終えるため、ない頭で色々と思案。
とにかく、自分が大変な思いをしないように、自分がキズつかないように、自分が恐ろしい目に遭わないようにしたかった。
もう、故人の死を悼む気持ちや遺族の期待に対する責任感は失せていた。
臆病者の心には、生前はどれも可愛かったであろう犬達を不憫に思う気持ちがかすかに残っているだけだった。

まずは、死骸を取り除かなければならない。
何と表現すればいいのだろう・・・
不気味な硬さと軟らかさをもったヌルヌルの物体が粘度の高い泥に半分埋まっているような状態で、「持ち上げる」という単純な動作だけでなく「掘り出す」「剥がし取る」といった複雑な動作も要する作業。
しかも、この手で。
ラテックスグローブの上に丈夫なビニール手袋をつけるとはいえ、心情と感触は素手も同然。
代わりにやってくれる機械、もしくは、もっと効率的・合理的な術でもあればありがたいのだが、流行りのAIでも、そんな機械を作ることも術を編み出すこともできないだろう(将来、AIに仕事を奪われることもないだろうけど、もう奪われてもいいかも)。
私は、「手足がちぎれる?」「頭が落ちる?」「腹が割れる?」「皮が剥がれる?」、そんな不安に怯えながら、見たくもないモノを見ながら、触りたくもないモノを触りながら、作業を進めた。


故人は独身で妻子がなかったため、家屋をはじめとする遺産は両親が相続。
そのうえで、家は売却処分されることに。
事故物件であるうえ、二階には人と犬の汚損痕も残っているということで、常識的なマイナス査定を越えて買い叩かれる可能性は充分にあった。
しかし、故人の死を悼むばかりの遺族は、それで儲けるつもりはなし。
「スッキリ清算したい」という気持ちが強いのだろう、「二束三文でもいいから、さっさと手放したい」とのこと。
しかし、私としては、身を粉にして掃除した成果(貢献)として「建て替えは免れない」といった買手都合の理由に押されて、法外な安値で買い叩かれないようにしてほしかった。
で、求めに応じて不動産会社を一社 紹介したうえで、「少なくとも二社、できたら三社くらいは相談した方がいい」とアドバイスして この仕事を終えた。


どんな職種であれ「仕事」というものは たいがい大変。
肉体・精神、そして頭脳、色々なところが疲れる。
察してもらえるだろうか、私の仕事も相応に大変で相当に疲れる。
それでも、帰宅して、さっさと風呂に入って、さっさと晩飯食べて、さっさと寝る、ということにはならない。
眠い目をショボショボさせながらでも、規定量(1.5ℓ)の酒(ハイボール)は飲む。
その後は、いつの間にか気絶することもあれば、ウトウトしながら就寝の支度をして床につくこともある。

「僕も疲れたんだ・・・なんだかとっても眠いんだ・・・」
希有な仕事をしたその日の夜も、そんな感じで更けていったのだった。



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1 コメント

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Unknown (ふう太)
2025-05-05 15:21:42
心配してました。
投稿あって良かったです。
体調とかは大丈夫ですか?
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