ギリシャ神話あれこれ:ヘラ

 
 相棒によれば、「理想の夫婦とは、いつでも離婚できる夫婦のことだ」という。互いの愛情以外に、一緒にいる動機がないから。
 
 学生のとき、相棒(当時はまだ相棒ではなかったけど)が、別の大学のとある女性を、「優秀な女性」と言って私に紹介した。私は大いに関心を持って彼女に接した。彼女は美人の誉れ高く、お嬢で学力優秀、私と待ち合わせるときにはいつも英字新聞を読んでいた。
 彼女はいわゆる「意識の高い女性」だった。で、彼女は結婚するとき、「お互い対等でいたいから、夫婦別姓にするんです。そのために籍も入れません」と言った。

 お~、これぞ「理想の夫婦」か~! 私は感心した。が、ある事件がきっかけで、私は彼女とも決裂してしまった。そのとき、彼女はついでにこんなことを言い放った。
「もし夫が、私以外の女性に心を移したなら、私はその女性のことを罵り倒してやります。そして、家じゅうの皿という皿を割って、夫を責めてやります」
 へ? それって、そんじょそこらの主婦と一緒じゃない。皿が可哀想。私はがっかりした。

 ヘラ(ユノ、ジュノー)はゼウスの姉で彼の妻。したがって神々の女王でもある。女性の結婚や出産、家庭を司る。
 ゼウスの権威ある正妻なのに、いつも不平で、嫉妬深く、浮気な夫に監視の眼を光らせている。夫の愛人やその私生児を執念深くいじめ抜き、散々悶着を引き起こすが、結局は夫を自分に従わせる。
 が、愛人への迫害は、家庭婦人の守護神であるヘラ神にしてみれば当然の行動なのだろう。
 
 でっぷりと太った年増女のイメージがあるけれど、実のところは比肩なき美女。例によってゼウスは一目惚れし、熱烈に求愛するが、気位が高く身持ちも堅い彼女は簡単にはなびかない。これ、当時ゼウスに、法と掟の神テミスという妻がいたためらしい。

 ある春の驟雨の日、ゼウスはカッコウに化けて、濡れそぼった憐れっぽい姿でヘラのもとへとやって来る。彼女は寒さに震えるカッコウを温めてやろうと、胸に抱き上げる。途端にゼウスは正体を現わして彼女を抱きすくめ、力ずくでコトに及ぼうとする。
 が、あくまで彼女は抵抗し、自分を正妻にするよう約束を取りつけた。

 で、結局ゼウスはヘラと結婚(テミスとは別れたのだろう)。聖儀を誇示する盛大な結婚式が開かれる。
 春になると、ヘラはカナトスの泉で水浴する。すると、一年間の加齢とともに、ゼウスの不貞相手への嫉妬までもがきれいさっぱり洗い流されるのだという。

 妻の座を奪い、その座に執着する徹底した姿には感嘆するものがある。ま、ぴったりと同一性のある、お似合いの夫婦だと思う。

 画像は、モロー「ユノに付き添う孔雀」。
  ギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau, 1826-1898, French)

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