東尋坊

 
 金沢から福井に行く途中、下車して小舞子海岸へ。日本の渚百選の一つで、日本海に臨む美しい砂浜。
 と言っても、金沢を歩きすぎたせいで、時間がない上にもさらに時間がなくなって、海岸にたたずんだのはわずか、一枚の絵を観るより短いあいだだけ。……ま、仕方ない。これから自殺の名所、東尋坊へ行くんだもんね。

 三国港から、歩いて海岸へ。もしかしたら、駅前でお弁当をゲットできるかもしれない、と淡い期待を抱いてたけど、やっぱりなかった。これで、昼飯抜きの運命。
 東尋坊には延々と、松林浴しながら海岸沿いを歩くことのできる遊歩道が整備されている。この荒磯遊歩道にはところどころに、三国にゆかりの文人、俳人、詩人たちの碑があったり、海鳥をウォッチできる望遠鏡があったりする。
 私が歩くのには一応、スケッチのためのロケハンという意味もあるのだけれど、それでなくても、こうした景勝地はやっぱり、歩いて初めて「なんぼのもん」と思う。が、晩夏のまだ激しい残暑のせいか、はたまた、観光バスのパック旅行に組み込まれたスケジュールのせいか、この親切な遊歩道には、人っ子一人の影も見当たらなかった。 

 松並木の木洩れ陽のなか、日本海らしい荒々しい波音と、ミンミン蝉の気だるい鳴き声を聞きながら、てくてくと歩く。松の濃い緑の合間から、夏の紺青の海が覗く。
 私は、もう少し涼しければ、夏はこうした海辺で暮らしたい。ゴッホのように麦藁帽子をかぶって、海辺の道を悠々自適にてくてく歩いて暮らしたい。

 しばらく歩き続けると、海に柱状の奇岩が、ぼちぼち姿を見せ始めた。うわー、おもしろい岩だねえ。岩の柱はかなりの高さだけれど、ごつごつとはしていない。てっぺんが平らかなので、どうしたってそこを足場に、岩に乗ってみたくなる。
 で、岩の上から海を見下ろした。岩の突端に立つと、ひゃー、やっぱり足がすくんじゃう。
 と、右手のほうで声がする。見ると、ちらほらと人の姿が。

 そりゃ、観光名所だもん。遊歩道をもう少し行って、にわかに壮観な断崖絶壁が現われると同時に、突然、どこから湧いたのか、あふれかえるばかりの人、人、人! 例にたがわず、チープな食堂や土産屋が立ち並び、道にも店にも、うじゃうじゃと観光客が賑わっている。
 ……いきなり人酔い。もうダメポ。

 To be continued...

 画像は、東尋坊、荒磯遊歩道。

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