東尋坊(続)

 
 相棒に訊くと東尋坊は、そこで最初に自殺した悪僧の名に由来するということだった。以来、自殺の名所になったとか。でも、悪僧が自殺なんてするもんかな。
 で、あとで調べてみると、どうも自殺なんかではなさそう。

 東尋坊は確かに大力の悪僧で、平泉寺も村人も手に負えずに、ほとほと困り果てていた。そこに、同じ寺の真柄覚念という僧が、恋のためか義侠のためか、とにかく奸計を図って、岩上で酒宴を張った。したたか酔った東尋坊を、真柄覚念はここぞとばかりに突き落とした。
 にわかに暗雲、豪雨、雷光の大嵐となり、東尋坊の怨霊はついに真柄覚念をもその岩底へと引き込んだ。……なんともおどろおどろしい話。

 確かに自殺者が多いらしい。間断なく木杭が立っていて、「思い出せ、家族の顔や友の顔」とか「急いで死ぬな、自分一人の身ではない」とか「粗末にするな、親から貰ったその命」とかと呼びかけている。
 また、電話ボックスにも、「かけてください、救いの電話」と呼びかけて、そこに、誰の有志か、10円玉がじゃらじゃらと置いてある。

 断崖に下りてみたかったが、人が多くてやりきれない。集団でバスに乗ってやって来て、集団で記念(証拠)写真だけとって、帰ってゆくタイプの観光客。旅の目的は人それぞれだし、一概に言うつもりはないけれど、この手の集団客の、他人をものともせずに、ゴオーッ! と押し寄せ、ガアーッ! と群れ広がる、あの独特のエネルギーが、私は大の苦手なのだ。
 お腹がすいていたけど、人が多くて煙たい大衆食堂しかない。アレルギーなので、名物らしい甘エビや越前ガニは食べることができない。仕方がないから、ソフトクリームを買って、また遊歩道を先へ行くことにした。

 To be continued...

 画像は、東尋坊。

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