されば悲しきアホの家系(続々…………々々々)

 
 テンちゃんは、坊さんが帰ったあとにすぐ帰っていった。テンちゃんの家は名古屋だし、翌日は学校があるから、夕方になる前に京都を出なければならない。新幹線の時間もあるのだった。
 新幹線かあ。私、お母さんの東京の実家に行くとき、いつも乗ってるよ。でも名古屋は素通りだよ。……テンちゃんにそう言いたかったけど、言わずにおいた。

 名古屋の伯父とテンちゃんが玄関に立つと、残りの者がぞろりとそれを取り囲む。
「今度、名古屋にもおいで」と、テンちゃんが私に言ってくれた。

 テンちゃんは、あれから大人になり、高校の数学の先生になった。女子生徒に大人気で、クラス替えや卒業の季節になると、毎年決まって花束を貰うのだった。
 バイオリンを弾くのが上手だった。そして、ピアノが上手な女性と結婚した。

 が、私がテンちゃんに会ったのは、この法事の日一度きりだった。

 以来、私は名古屋の従兄には会わない。正月にも法事にも、名古屋の伯父は相変わらず、自分で作った特上和菓子を土産に、一人で二条の家にやって来る。
 伯父の口振りでは、従兄たちを連れて来たいようだった。が、多分、しっかり者の妻君がそれを許さないし、従兄たちも敢えて来たがらないのだろう。当たり前だ。

 そのほうがテンちゃんにとってはよい。名古屋が遠いとか、外孫だとか、その他どんな理由でも、来なくてよいなら、こんな家には来ないほうがよいのだ。
 私だって、仮にテンちゃんがこの家に来たとしても、この家の人間のぼんくらぶりをいくらか我慢しやすくなるだけで、決して好きになどなれないのだ。

 To be continued...

 画像は、マカロフ「バイオリンを弾く少年」。
  イワン・マカロフ(Ivan Makarov, 1822-1897, Russian)

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