されば悲しきアホの家系(続々……々々)

 
 だが、こんなことを二条の家の人間に訴えようものなら、必ず大爆笑を引き起こす。
「なんや、子供がいっちょまえのこと言ってるわ。見られたって、なんも減るもんやあらへんやんか」と、こうだ。
 じゃ、減らなきゃ平気なのか? 減らなきゃ、なんでも見せんのか、あんたら。
 ……と言い返したいところだが、何も言わない。口論とは、相手の土俵に乗ることだ。そして、彼らの土俵たるや、旧弊や権威や情念以外は通用しないのだ。

 大体からして、この家には個人部屋というものがない。この家は奥に細長い間取りなので、入り口に対して最奥の部屋以外は、通路を兼ねている。つまり、最奥の部屋しかプライバシーが保たれないわけ。
 1階の奥の部屋は裏庭に面していて、縁側から洗濯しに出入りできるようになっているから、結局、マイ・ルームとして利用できるのは、従姉の使っている、2階の奥の2畳ばかりの細長い部屋しかない。従姉はここを上手いこと工夫していて、アコーディオンカーテンで仕切った上で、勉強机やら本棚やら、大きくなってからはオーディオやら化粧台やらを、たった2畳のなかに入れていた。
 
 従姉の時代には、子供が従姉一人だったからよかったが、父の兄弟姉妹の時代には、そりゃ悲惨な状況だったに違いない。こんな家で育ったら、プライバシーなんてものの感性は育たないだろう。

 To be continued...

 画像は、ハルス「歌を歌う少女」。
  フランス・ハルス(Frans Hals, ca.1582-1666, Dutch)

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